第52話 整備士とその周辺⑤

 正面装甲の取り付けられた〈音止〉は武装こそ外されているものの本来の姿に近づき、ついこの間までぼろぼろだったのが嘘のようであった。

 そんな〈音止〉を見上げて、〈R3〉整備士のイスラ・アスケーグは〈音止〉の整備士であるユイ・イハラに尋ねる。


「妙にセンサ多くないか?」


 〈音止〉の装甲を覆うように無数に設置されたセンサ類は、遠目にこそ分からないが近くで見ると異常な数であり、いかに7メートル級2脚人型装甲騎兵とは言え、過剰な装備であることは明らかだった。されどユイはかぶりを振って答える。


「必要だから取り付けてある。そうじゃなけりゃあんな設定の面倒なもの付けたりはしない」

「そうだろうけど、トーコちゃんの脳みそじゃあの量のセンサ情報表示されても処理できなくないか――おっと、トーコちゃんを馬鹿にした意図はない。常識的な話をしたまでだ」


 トーコが心なしかむっとした表情をしたように見えたのでイスラは弁明しておいたが、トーコは「仰るとおりだから気にしてない」と振る舞う。だが、ユイはそんなイスラの気遣いを滅茶苦茶にするような返答をした。


「トーコのカスみたいな脳みそには微塵も期待などしてない。だが必要になるときは来る」

「カスみたいな脳みそで悪かったわね」

「全くだ。そのせいでどれだけあたしが苦労することになるか頭の悪いお前には想像も付かないだろう」


 トーコは「このクソガキ」と拳を握りしめたがぎりぎりの所で堪えた。いつか殴ってやるのは確定事項ではあるが、それは今ではない。少なくとも〈音止〉を動かせるようになるまでは、ユイには働いて貰わなければ困るのだ。


「下らん話は終わりだ。武装はどうする?」


 ユイはタマキへと整備用端末を手渡し、現在ツバキ小隊が保有している〈音止〉用の武装と、恐らく統合軍から借り入れ可能であろう武装のリストを見せる。タマキはリストを斜め読みして、既に決定となっている項目について尋ねた。


「右腕の122ミリ砲は確定ですか?」

「〈ハーモニック〉の振動障壁対策だ。ま、あんな未完成品ならわざわざ対策打つほどでもないがな」

「未完成なの?」


 トーコが尋ねると、ユイはタマキに整備士端末を返すよう催促し、受け取ったそれに今度は〈ハーモニック〉の機体情報を表示させる。


「前回戦った黒い〈ハーモニック〉との戦闘データからおおよその性能を予測した。どうも試作機らしく搭載してたのは超重装甲騎兵用の大出力コアだが、それでも〈ハーモニック〉の固有機構は大した能力じゃない。元々の宙間決戦兵器では空間の揺らぎを使っていたものを、装甲騎兵に落とし込むのに空気振動に置き換えた弊害だな。

 恐らく量産機向けの新型コアでも、振動障壁と限定的な共鳴機構を入れるだけで精一杯だろう。その振動障壁も1方向限定の防壁でしかない」


 端末に表示された〈ハーモニック〉の性能予想をタマキは斜め読みしてみるが、技術者ではないタマキにはその場で理解は出来ず、ユイの言葉に頷く。


「なるほど。この情報、上には伝えてあります?」

「これから資料をまとめて、今日中には技研に送りたい。送信の許可はあんたにとればいいのか?」

「そうしてくれると嬉しいわ。武装については、いきなり最前線に投入されることもなさそうなので、とりあえず万能機設定で。122ミリ砲は可能なら降ろしたいですが〈ハーモニック〉の件もありますし、任せます」

「任された。122ミリ砲は確定だな」


 タマキの言葉をまるで考慮せずユイは武装案の右腕主武装を確定させる。そうなるだろうと予想はしていたのでタマキも嫌な顔をせず、任せると言った以上残りの武装についても口を挟まない。代わりに、トーコが意見をつける。


「左利きだから主武装左腕にして貰っていい? スーミア機構も左用に入れ替えて貰えないかな」

「左利き? ふざけたことを抜かすな。今日から右利きにしろ」

「軍の学校でも言われたけど、慣れない物は慣れない」


 ユイは苦虫噛みつぶしたような渋い顔をしてトーコの提案を拒否しようとするも、タマキに譲歩できないかと問われると、渋々と回答した。


「主武装の入れ替えは対応する。が、操縦席は見ての通り専用設計だから入れ替えは不可能だ。あと間違えるな。〈音止〉の操縦席は決してスーミア機構じゃない。あんな出来損ないと一緒にするな」


 トーコは主武装だけでも変えて貰えるならと、ユイの意見を受け入れた。

 操縦席の交換が不可能だという件については専用設計であることを見れば仕方ないことだと納得できたが、スーミア機構じゃないという言葉には納得できなかった。


「2脚人型装甲騎兵の操縦席でスーミア機構じゃないのって存在するの? そもそも私、スーミア機構の訓練しか受けてないし、それでも〈音止〉動かせてるけど」

「お前みたいなやつでも動かせるように仕方なく機構を寄せてやっただけだ」

「だったらもうスーミア機構で良いでしょ」


 スーミア機構とは、前大戦末期に産み出された人型宙間決戦兵器を効率よく操縦するためのコンソールで、開発者であり宙間決戦兵器パイロットでもあった旧連合軍士官サブリ・スーミアの名前からそう名付けられている。

 それまで人型兵器は人間と同等の形状をとることで直感的な操作が可能だと主張されていたものの、操縦系が洗練されておらず扱いの難しい代物だった。しかしスーミアが考案し開発したスーミア機構によって、人型兵器は期待された通りの人間らしい直感的な操作を手に入れた。

 スーミアが同機構を取り入れた連合軍人型宙間決戦兵器で出撃し、連合軍宇宙基地に強襲をかけた枢軸軍の円筒型宙間決戦兵器中隊を単機で追い返したことを皮切りに、連合軍人型兵器でのデファクトスタンダードを獲得し、スーミア機構の情報を枢軸軍が入手してからはそちらでも用いられるようになった。

 優秀な基本設計と扱いやすさから、主戦場が地上となり2脚人型装甲騎兵が開発されるようになると、当然のようにそのコクピットにはスーミア機構が取り入れられた。


「あんなものはおまけであってメインではない」

「はいはい。分かったよもう」


 尚も食い下がるユイに対してはトーコもそれ以上言い返そうとせず、年上らしく相手の主張を全面的に受け入れる形でその話を終わりにした。

 トーコの態度にユイは不服そうではあったが、それでも「分かれば良いんだ」と謎の上から目線でこちらもそれ以上食い下がらなかった。


「細かいところは当事者間で話し合って決めて下さい。くれぐれも円滑に話し合うように。これから調整ですよね。カリラさんを借りていってもいいですか?」

「構わん。ただしちゃんと返せ」

「何様ですのこの小娘は」


 もの扱いされたカリラは眉間にしわを寄せながらも、すっかりユイの態度にも慣れてしまっていた。対して相手にもせず、イスラと共にタマキの指示を待つ。


「では〈音止〉は任せます。トーコさん、ユイさんがさぼらないようにしっかり見張ってて」

「了解しました」


 タマキはそれだけ告げると、ユイの愚痴も聞かず、イスラとカリラを連れて〈R3〉の整備区画へと戻っていった。


          ◇    ◇    ◇


 整備と改修の終わった〈ヘッダーン1・アサルト〉の慣らし運転と言うことで、整備倉庫の外を〈R3〉の基礎動作確認行程に従って動かしていたナツコ。一通り動作の確認を終えたので、しばらくぶりに動かす〈ヘッダーン1・アサルト〉の機動ホイールを展開し、全力機動で走らせてみる。

 整地された道路は走りやすく、あっという間に最高速度まで到達。姿勢制御も問題なし。そのまま最高速度で倉庫の周りを1周しようと試みるも、直角カーブをそのまま曲がりきれるわけもなく、減速しながら大きく弧を描くように曲がる。

 これでも当初に比べれば大分〈R3〉の扱いも上手くなったかも知れない。ハツキ島に居た頃は、真っ直ぐ走るのでさえ難しかった。


 ちょっと気分の良くなったナツコは、最高速度まで加速させると長い直線をぶっとばし、勢いに乗って跳躍。機械の体は凄まじい跳躍力でナツコの体を高く飛び上がらせる。

 時速100キロを超える速度で宙を舞い、そのまま真っ直ぐに着地。着地の瞬間衝撃があるも、〈ヘッダーン1・アサルト〉の衝撃緩和機構と反応力機構によって衝撃は緩和され何事もなかったように再び地面を走り始める。

 ――と、そこでついにストップがかかった。


「ちょっとナツコさん。誰が全力機動させろと言いましたか」

「あ、カリラさん! これはその、ちょっと」


 整備倉庫から出てきたカリラに止められて、ナツコは機体を緩やかに減速させて、停止させる。


「ちょっとでは済みませんわよ全く。異常があったらどうするつもりですか。慣らし運転で機体を壊すだなんて、どこかのお転婆士官みたいなのはごめんですわ」

「あはは。ごめんなさい」


 ナツコは笑いつつも謝罪して、〈ヘッダーン1・アサルト〉のセルフチェックを走らせる。システムは全て問題なし。動作は至って正常だ。


「でもカリラさんが整備してくれたから大丈夫ですよ!」


 ナツコは褒めたつもりだったが、カリラは目を細めて〈ヘッダーン1・アサルト〉の制御盤に整備用端末を接続して異常が無いか確認を始める。


「わたくしだって人間ですからミスすることもありますわ。特に初期型〈ヘッダーン1・アサルト〉の改装なんてしばらくぶりですから。――問題はなさそうですわね」


 問題無かったことに安堵したカリラは、整備用端末を操作して新しく腰の両側に接続したブースターの使用制限を解除する。メインディスプレイに新しい選択項目が現れるとナツコは早速それへと視線を向けて起動しようとするが、カリラがそれを見越して「まだ触らないように」と指示したので慌てて視線を泳がせる。

 カリラは整備用端末を引き抜くと、準備してあったブースト燃料をタンクに充塡する。タンクは直ぐに液化燃料で一杯になり、カリラはナツコから距離をとった。


「起動設定はしてあります。機動走行状態で加速側に更に踏み込めば勝手に作動しますわ。それ以外の用途でも使いたい場合はショートカット作って下さいまし。一応、左右独立制御可能ですけれど、慣れないうちは両側同時に使った方が無難ですわ」

「はい! 早速使っても良いですか?」

「その前に3つだけ注意点が」


 カリラが3本だけ指を立てた右手を突き出すと、ナツコは頷く。


「1つ、味方の居る方向へ向けて使用しない」

「はい。危ないですもんね」

「2つ、ブースト燃料は直ぐに無くなるので使いすぎない」

「はい。気を付けます」

「3つ。マイナスGがかかりすぎないように気を付ける」

「はい。――うん?」


 とりあえず返事をしてみたナツコだが、いまいちぴんとこなかったので首をかしげる。

 カリラは説明するのを面倒くさがったが、安全に関わる話なので念のため説明しておく。


「体が浮き上がるような際にブーストで更に加速しますと、強いマイナスGがかかって最悪脳震盪を起こすのでなるべく使わないように。あと、分かっているとは思いますけれど急減速をかけるような使い方も、可能な限り避けた方が良いですわ」

「なるほど。機体が潰れちゃいますもんね」

「機体の前に体が潰れますけれどね。普通に使う分にはそこまで心配しなくて大丈夫ですわ。使いどころとしては、敵から全力で逃げるとか、逆に逃げる敵を追いかけるとか、ここ一番でいつも以上の加速が欲しいときです。ま、とりあえず試してみて下さる? 様子を見て出力を調整しますから」

「は、はい。何だか緊張しますけど、頑張ります!」


 ナツコは敬礼して、カリラの示した直線コースの端まで移動すると機動ホイールを展開し、発進準備を整える。


「発進して、姿勢が安定したところで思い切り踏み込んで加速して下さい」

「はい! ナツコ・ハツキ、行きます!」


 手を上げてそう宣言したナツコは、つま先に力を入れて機動走行状態に入る。直ぐに姿勢は安定し、機体が真っ直ぐ走り始めた。


「そこで加速」

「行きますっ――おぅ――」


 思い切り踏み込んだ瞬間、両方のブースターが勢いよく火を噴き、強烈な推進力を与えられたナツコは背中を強く押されたような錯覚に陥った。姿勢が崩れ、機体は一瞬地面を離れたが、直ぐに足が再び地面を捉える。


「止めないで加速。真っ直ぐ走っていれば大丈夫ですから」

「は、はいー! なんとかやってみま――」


 カリラの声に返答しながらつま先を踏み込んだナツコは舌を噛みながらも、ブースターの加速に耐え、機体の姿勢を保ったまま何とか真っ直ぐ走る。

 通常の最高速度を超えた〈ヘッダーン1・アサルト〉が機体の姿勢制御機構の限界を超え、地面の凹凸を処理しきれずに大きく揺れ始めるとナツコはそこで姿勢を保ち続けることが出来なくなって、浮いてしまった体を押さえ込もうと右脚を踏み込んだがために急ブレーキが掛かり、地面に接した脚部から火花を散らしつつくるくると回転しながらしばらく走った後に停止した。


「う、うぅ。死ぬかと思った……」


 脚部から白い煙を吹き出した〈ヘッダーン1・アサルト〉はブレーキの異常を訴え、メインディスプレイに警告灯が灯る。

 怖くてその場で動けなくなっていたナツコの元にカリラが辿り着くと、早速煙を吹き出した脚部を確かめて、ブレーキパッドの異常摩耗を診断した。


「少し加速度を落とした方が良さそうですわね」

「そ、そういう問題ですか……? 真っ直ぐ走っていられませんでしたけど」

「それは半分くらいはナツコさんが慣れていないからですわ」

「え? じゃあもう半分は?」

「ブースターが突撃機に装備されるようになったのは〈ヘッダーン3〉の頃ですから、〈ヘッダーン1・アサルト〉はブースターの装備を考慮されていませんの」

「それじゃあ今の事故は必然だったのでは……」

「そうなりますわね」


 カリラはこともなげに答えて、それからナツコに機動ホイールをしまって歩いて倉庫まで戻るよう指示した。

 ナツコは危なっかしく機体を歩かせて言われるがまま倉庫へ向かった。

 倉庫に着くなりカリラは摩耗したブレーキパッドを用意してあった新しい物に取り替える。取り替えは直ぐに終わったが、ナツコは不自然な事実に気がついてしまった。


「どうして用意してあったんですか?」

「何かしら壊すとは思っていましたから。お姉様は転んで横になったまま地面を滑る方に予想していましたけれど、今回はわたくしの予想が当たりましたわ。最後まで立っていられたのは予想外でしたけれど」

「わ、私で遊んでましたね!」

「誰もが通る道ですから。忠告しておきますけれど、姿勢制御不能になったからと言って慌ててブレーキをかけるのはかえって危険ですから、姿勢を安定させることに注力して速度を落としてからブレーキをかけることをお勧めしますわ」

「先に言って下さいよ!」

「言ってしまったら失敗してくれないでしょう?」

「うう……。カリラさんがいじめる……」


 ナツコは嘘泣きして見せたがカリラは一切気にすること無く、ブースターの調整するから制御盤開けてと言い放ち、直ぐさま調整を済ませる。


「ほら、いつまでもふざけていないで。もう1度テストしますわよ」

「え、また、やるんですか?」

「しっかりと動くまで何度でもやります。分かったら早く移動して下さる?」

「今度は大丈夫ですよね?」

「ナツコさん次第です」


 カリラはきっぱり答えて、ナツコを急かした。

 その場に留まることも出来なかったナツコは再び倉庫の外に出て動作試験をし、今度は何とかブースターを全開にしても転ばず走り抜けることが出来た。


          ◇    ◇    ◇


 ブースターの動作試験を終えたところでタマキから招集がかかり、ナツコとカリラは一緒に倉庫内へと向かう。

 ツバキ小隊の〈R3〉は全て修理が完了し、今は格納容器に収められていた。

 唯一〈R3〉を装備していたナツコを見て、タマキは尋ねる。


「新しい装備の調子はどうでした?」

「ちょっと、扱いが難しいですね」


 調子が良いとは言えず、ナツコは当たり障り無い答えを返す。

 そんな返答にタマキは改造を担当したカリラへと視線を向ける。


「調整が必要ですか?」

「機体の調整は終わっています。必要なのはナツコさんの調整だけですわ」

「なるほど、よろしい」


 タマキはカリラの返答を受けてそれで全て納得した。ナツコは表情を暗くしたが、カリラの言うことも大方間違っていないので何も言い返せない。


「さて、無事に〈R3〉の修理も完了しましたので、これからは訓練に注力したいと思います。ですがその前に〈R3〉の整備担当を決めておきます。各自自分の〈R3〉はそれぞれ責任を持って整備して頂きますが、最終確認は一等整備士が行う必要があります」


 タマキの言葉にイスラは「任せとけって」と胸を張った。

 「大変よろしい」とイスラのやる気を評価したタマキは、イスラとカリラの担当する〈R3〉の割り振りを発表する。


「イスラさん、わたしの機体と、リルさん、フィーさんの機体をお願いします。カリラさんはナツコさんとサネルマさんの機体を。トーコさんの汎用機もお願いします」


 割り振りに関して、イスラとカリラは特に異論も出すことは無かった。

 イスラの担当はイスラの持つ特殊な高機動機である〈空風〉と、最新鋭指揮官機であるタマキの〈C19〉、精密な調整が必要なリルの飛行偵察機〈DM1000TypeE〉と整備の面倒な機体が3機と、扱いの容易なフィーリュシカの〈アルデルト〉の計4機。


 対してカリラは整備のしやすいナツコの〈ヘッダーン1・アサルト〉と、対空レーダーの調整こそ手がかかるが機体自体は整備の容易なサネルマの〈ヘッダーン3・アローズ〉、基礎フレームのみのトーコの汎用機と扱いの容易な機体3機に、超重量ながら重装機としては整備が容易だとされるカリラの〈サリッサMk.Ⅱ〉を合わせた計4機。


 カリラに扱いの容易な機体が集まったが、カリラが〈音止〉の整備を手伝う必要がある以上、必然的な割り振りだった。


「作業量を見て担当以外の機体を見て下さって構いません。各員は自分の機体について、担当整備士から整備方法を習っておくように。よろしいですね?」


 隊員が返事を返すとタマキは何か質問がないか尋ねる。イスラがツバキ小隊の保有している突撃機〈アザレアⅢ〉の扱いについて尋ねると、タマキはイスラにいつでも使えるようにしておくよう告げた。


「では整備の流れを確認するためにも、訓練前に今一度入念な点検をお願いします」


 指示を受けると、隊員達は返事をしてそれぞれの機体の整備へと移った。

 カリラはサネルマに対して簡単な注意点を述べると、〈ヘッダーン1・アサルト〉を装備したまま直立しているナツコの元へと歩み寄る。


「少尉さんの割り振りは間違っていませんわ。〈ヘッダーン1・アサルト〉は扱いの容易な機体ですから。ですが……」


 カリラがじとっとした目線をナツコへと向けると、ナツコはカリラの言いたいことが痛いほど良く分かって申し訳なさそうに答える。


「おっしゃりたいことは分かります。でも、私も頑張って覚えますから、ご教授お願いします!」

「ま、その意気だけは認めてあげますわ。わたくしはお姉様のように優しくはありませんから、覚悟して下さいまし」

「はい! 頑張ります!」


 イスラが優しいというカリラの言葉の真偽はとりあえず置いておいて、ナツコは元気よく返事をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る