22.柿本人麻呂《かきのもとのひとまろ》

玉襷たまたすき- [畝]傍うねびの山の橿原かしはらの、

日知ひじりみやよりあれましし神の

ことごとつがの木のいや継ぎ継ぎに天の下知らしめししを

そらに満つ-[大和やまと]を置きて 青丹吉あおによし-[奈良]山を越え

いかさまに思ほしめせか

天離あまさかひなにはあれど、石走いわばしる-[近江おうみ]の国の細浪さざなみの-[大津]の宮に天の下知らしめしけむ

天皇すめろきの神のみことの大宮はここと聞けども、大殿おおどのは ここと言へども

春草のしげく生ひたる霞立かすみたつ春日のれる、百石木ももしき大宮所おおみやどころ、見れば悲しも


-短歌二首-

細浪さざなみの志賀の辛崎幸からさきさきくあれど、大宮人おおみやびとの舟待ちかねつ

細浪さざなみの志賀の大曲淀おおわたよどむとも、昔の人にまたも逢はめやも



☆意味☆

かつて偉大なる先帝、天智天皇てんちてんのうは、歴史ある大和国やまとのくにを遠く離れ、近江国おうみのくにへの遷都せんとをご決断されたのだという。


それが「ここ」だというのですか……


「これ」が天皇がお住まいになられていた御殿だと言うのですか……

あぁ!!これが!


草木の生い茂る荒れ果てたこの今にも崩れそうな、こ の 建 物が!

なんと、なんと!嘆かわしいことでしょうか!!私は悲しい!大いに悲しいのです!!


偉大なる先帝の偉業の跡がこのように荒れ果てていようとは!


唐崎からさきの港はまだあるというのに、もはや使う人も無いとは……

淡海おうみの水は昔と変わりなく淀むが、その当時の活気はもう戻らないのだろうか



☆プチ解説☆

歌聖、うたのひじり、とまで言われた柿本人麻呂かきのもとのひとまろの万葉集掲載の一発目、美辞麗句、枕詞まくらことばオンパレードの歌、大津宮おおつのみやが荒れ果てていたことを嘆いてみせた歌


意味のところ、ちょっとわざとらしいような大げささでセリフっぽく書いてみたが……

宮廷歌人という感じのとても上品な歌だと思う。

和歌のいしずえといえばこの方なのである。


枕詞メモ:

青丹吉あおによし、あおに、とは緑色を指す、「な」に掛ける。

使い方としては主に奈良に掛けられる。

青丹よし菜、からか?


百石木ももしき、山ほどの石材、木材という意味、立派な建造物の連想で、大宮おおみやに掛かる。

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