第12話 森の集落

ルシュがアステノに訪れてから既に一ヶ月が経とうとしていた


そんなある日


「ヨウヘイ、少しお願いがあるのですが」

朝食を済ませ、ルシュを迎えに行った所で村長に声を掛けられる


「ええ、今日は特に予定も無いですし、俺に出来る事なら」

俺の言葉に村長は微笑み


「私に付き合って欲しいの」


村長の言葉にぎょっとする

唐突にそんな事を言われるとは思わ…


「長ければ明日までになるのだけど、近くの集落まで一緒に来て欲しくて。

少し雑用になってしまうのだけれど…」


「ああ、ですよね…」


「…?

どうかしましたか?」


「いえ、何でもないです!

明日も特には予定が無いので大丈夫ですよ!」


俺の言葉に村長は少し安心した顔をする


「ふふ、良かった、一人では少し苦労しそうでしたから。

共同倉庫にある干し果物を持って行くつもりだったの」


「ああ、クレウィですか、どれくらいの量になりますか?」


クレウィとは村で栽培されている白い皮に白い果肉を持った果物である

生で食べるとかなり味が薄くみずみずしい食感なのだが、

乾燥させて干し果物にする事で甘みが強くなる


「麻袋二つ程ね、一人でも持っていけるのだけど、少し多くて」

困ったように笑う村長


「それくらいなら俺に任せてください」

村長に良い顔をしたい訳ではないが、普段からお世話になっているので、

少しでも恩返しはしておきたい


そこで少し気になる点がある


村長の家の奥に居て俯いているルシュの姿だ

特に俺達の会話に入ってくる事も無く、座っている様子が見える


「村長、ルシュは…?」


俺の言葉に村長はルシュの方を見て話す


「ええ、この子も連れていってあげたいのだけれど…」

ここで少し間を置き


「あの子は竜族だから、何もしていなくても強い魔力を周囲に放っているの。

村の中では問題ないけれど、今日向かう集落には魔力に敏感な方もいて、ルシュを連れて行くと

竜族である事にも気付かれてしまうでしょうし、あの子の魔力で驚かせてしまうから」

村長は申し訳なさそうな顔をしている


「ルシュは今ではもう私達の言葉もかなり話せるし

可哀想だけどお留守番を…」

ここで村長が少し言い澱み、少し考える


実際、初めは俺を挟まなければ殆ど会話が出来なかったルシュだが、

この短い間に驚異的な速度で魔族の使う言葉を習得していった様だ

俺自身にそれを判別する事は出来なかったが……

既に俺がいなくても日常会話は問題なく行なえる様になっているのでそれは間違いないと思う


そして

「いえ、ルシュはヨウヘイ、あなたに心を開いているし、貴方がいればルシュも寂しい思いもさせずに済むし、

私一人で行った方が良いかも知れないわね」


ここで黙っていたルシュが口を開く

「私は…メラニーにダメって言われてる事が嫌なの……」

力の無い声だがはっきりと聞き取れた


村長の言う事は分かるけど、ルシュにはそうなってしまう事が悲しい様だ


ルシュの言葉を聞いて村長も困った様子だ

「ごめんなさい、ルシュ……

せめて魔力を隠せるような魔道具があれば良いのだけど、

この家にはそういう物はないし、せめて何か魔力を込められるものがあれば…」


魔力を隠せる様な物もこの世界にはあるのか

でも魔道具ってマーテンならまだしも、どこにでもあるようなものじゃ……



いや…もしかして


「村長、ちょっと待っててください」


村長とルシュが俺を見る


その目線を背に俺は急いで寝床にしているテオックの家の倉庫に向かった

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