Gladsheim
文月文人
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「来たよ!」
「……」
「……ちぇ、どうして驚かないの?」
「目の前に現れるのはもう慣れた」
「はいはい。ほんと、つまんない人ね。よく女の人に言われない? つまんない男ねって」
「いや?」
「じゃあ男の人には?」
「全く」
「ふうん、あっそ」
「何しに来た」
「貴方を驚かせに来たのだけど?」
「運転中に? しかもいいスピード出しているときに、目の前に現れたっていうのか?」
「そうよ」
「……いい加減出て行ってくれないか、危うく事故を起こすだろうが」
「隣の子、寝てるの?」
「話を逸らすな……」
「いいから答えてよ」
「ああ、この頃散々連れ回しているからな」
「ふうん、かわいいね」
「幽霊なのにそんな感情があるのか?」
「もー! あたしユーレイじゃないわ」
「じゃあホログラム」
「アバターって呼んでほしいわね……」
「じゃあアバター、お前はどうして俺のところに毎回毎回やって来るのか教えてくれないか?」
「知りたい?」
「本当は知りたくないが、どうせ黙っていてもうるさいだろうし、聞いてやるよ。今日は帰るだけだからな」
「じゃあ後ろに乗っても?」
「どうぞ」
「じゃお邪魔します、と。あのね、私、貴方の話が聞きたいわ、運び屋さん。だからお願い、あたしをお家まで届けてよ」
「家知らねえんだが」
「ちゃんと案内するから」
「はあ……」
運び屋は渋々ながらもアクセルを踏みなおした。
人間と駆動人形が共存する島「グラズヘイム」。
企業と農家が牛耳り、監視のために島民はミクロマシンを体内に埋め込んだ、そして人々はプライバシーも個人も無いこの無法地帯とも言える街で生きている。
そんな何をしても許され、どんな事でも受け入れる街に今日も廃車寸前の車が走っている。
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