第6話 始まり
毎朝、教室に入ってきて席に着く時、薫と挨拶を交わすようになった。「おはよう」と言って、「おはよう」と返す。初めはぎこちなかったけれど、だんだん微笑みを添えられるようになり、薫の方も微笑んでくれるようになった!かわいい。だが、薫のところへちょくちょく話をしに来る奴がいる。あのでかい奴だ。津田達也。こいつも同じクラスになるとは。
今日は体育で、新学期の定番、体力測定が行われる。体育館にゾロゾロと集合した。相変わらず津田は薫にべったりだ。
「最近運動してないからなあ。」
とか言いながら、それでも垂直飛びは得意だ。
「矢木沢、72センチ」
「すげー!」
「何それー!」
彰二が自分の事のように得意げに話す。
「京一は中学でバレー部だったんだよ。」
「うちの学校、バレー部ないもんな。だから生徒会なのか。」
「運動しないのもったいないじゃん。バスケ部入ればいいのに。」
とか、いろいろ皆さん言ってくださる。
「バスケは得意じゃないの。」
と、俺。ちなみに彰二は今もバスケ部だ。
「中学では、背を伸ばすためにバレー部に入ったんだよ。もう背は止まったからいいんだ。」
と俺が言うと、背は何センチだと質問が飛び交う。
「180センチだよ。」
いいなー、のため息交じりの声。努力してここまで伸ばしたのだ。ふん。
次の種目の順番を待つ間、薫の方を見たら、津田がさっと俺と薫の間に入った。そしてちらと俺を見た。その眼付きの鋭い事。警戒されてる。間違いなく。そうなると何となく闘志が湧く。俺はつかつかと津田と薫の方へ歩いて行った。
「津田、だよな。お前体格いいよね。背は何センチ?何かスポーツやってんの?」
「ん?俺は185センチだ。今はラグビー部。中学では陸上部だった。」
「へえ。」
俺より5センチも背が高いのか。薫は・・・170センチくらいかな。ここで聞くのは悪いかな。薫は津田に隠れるようにしてこっちを見ていた。
「あー、滝川は、中学では何やってたの?やっぱり音楽系?」
「いや、陸上部。」
薫は簡潔に答えてくれた。挨拶以外で話したの、初めてかも。俺、闘志が湧いたついでにやれたじゃん。しかし、陸上部か。意外だな。足速いのか?
それから、校庭へ出て50メートル走を測った。うん、なるほど。薫はめちゃくちゃ速かった。6秒5だってよ。スパイクでもないのに。いやー、かっこいいわ。走り終えた薫は、ちらと俺を見た。俺は軽く拍手をする仕草をしてみせた。薫はそれを見て、ふっと笑って下を向いた。照れてるのかなー。可愛すぎる。
体育が終わり、教室に戻った。各自席で制服に着替える。俺は、だんだん勇気が出てきて、薫にこんなことを言った。
「あのさ滝川、薫って呼んでもいい?」
「え!?」
だがそこへ、津田が割って入って来た。
「薫、何もたもたしてんだよ。早く着替えろ。」
「達也、もう着替えたのか?」
う、嫉妬。この二人は名前で呼び合ってるわけね。そしてなんと、
「あのさ、矢木沢。あまりこいつにちょっかい出さないでくれる?こいつ純情だから。」
と、俺に向かって言った。
「え?どういう意味?」
とは言ったものの、分かってるだろとばかりに一瞥され、津田は自分の席に戻っていった。よほどこちらが心配だったと見える。しかし、そんなことを言われたら、この後の薫と俺の会話はどうなってしまうのだ。周りはがやがやしていて誰も聞いていなかっただろうが、薫にはさっきの津田のセリフは聞こえたはずだ。
「えーと。二人は、中学も一緒だったの?」
俺はとにかく何か言おうと、薫にそう尋ねた。
「あ、うん。同じ陸上部だったから。」
と、薫は答えてくれた。だから仲良しなんだ、という言い訳というか、なんというか。しかし、俺はめげないぞ。せっかく仲良くなれそうなんだし。
「薫、俺のことも京一って呼んでくれよ。」
いやらしくなく、なるべく自然に、ナチュラルに、さわやかに、そう言ってみた。
薫は、じっと俺の顔を見つめたが、そのうちこくっと頷いた。やった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます