第3話 片思い


 「はぁぁ。」

つい、ため息が出る。俺は、体育館へゾロゾロと向かう1-7の連中を、さっきからずっと眺めている。ここは二階の渡り廊下で、第二校舎と第一校舎をつなぐ外の廊下だ。1-7が火曜の五時間目は体育だという情報を仕入れた俺は、昼休みの後半からずっとここから下を眺めている。チャイムが鳴るまであと5分だというのに、薫の姿は未だ現れない。それとも、もっと早くに行ってしまったのだろうか。

 と、暗い気持ちになり始めた時、俺の心は跳ね上がった。

 いたぜ~、薫。あんまり背高くないんだな。隣の奴がでかいのか。

「まったく、なんであいつなわけ?」

「へ?」

突然隣から声がして、俺は首の骨が鳴りそうなほど力強く振り向いてしまった。

「彰二、どうしてここに?」

「そりゃお前、いきなりフラっと出て行って帰って来ないんじゃあ、一応気になるだろうが。それよりさ、お前ほど女にモテる奴が、なんで男なんかに、いや、男にだってかなりモテるお前が、どうしてああいう普通な子なの?」

「な!?」

なんでバレてんだ?彰二は俺が何も言う前に、そう、ごまかしたりする前に勝手に知ってる理由を話し始めた。

「俺たち何年つき合ってんだよ。お前が誰の名前を調べようとしてたかなんて、すーぐ分かるんだよ。」

「そ、それは・・・」

「一年七組、窓際の前から三番目。」

ぐっ。そこまで言われちゃ、ごまかせん。

「名前は」

ぬっ、こいつも調べたのか?

「山田一郎。」

「は?」

ま、まさか。滝川薫じゃないのか?あの座席表、古かったのか?

 突然彰二が大笑いし始めた。

「あはははは。珍しく動揺してんじゃんか、はははは。」

「な、なんだ?」

「わりーわりー。本当は滝川薫だ。いつものポーカーフェイスもどこへやら、今真っ青になってたぜ。」

「お前なあ。」

「まあ、怒るなって。お前もけっこう普通だなって初めて思えて安心したぜ。俺はね、いっつもお前の世話になってばかりだから、ここらでお前の役に立ちたいわけ。だからさ、協力するぜ。」

彰二はニッと笑った。まあ、こいつが他の奴にバラすとは思っていないが、一つ弱みを握られてしまった。油断のならぬ奴だ。

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