第30話 脅迫

「おつかれ~。そっちの様子はどう?」


女性は路地裏にいる青年に声をかけている。青年はその声を聞き


「ミクか。見ての通りだ。」


と椅子に座った青年は目線を下にさげる。その椅子はだった。


「見ての通りじゃわからないんだけど?」


ミクは両手を上げ、わからないジェスチャーをする。青年はため息を吐きながらスティアを取りだした。


「ゼス。まだかかりそうか?」


【…もうじき終わります。タイガ様。】


タイガは『そうか。』と伝えると顔をミクの方に向けた。


「だそうだ。もう少し待て。」


「はいはい。まったく、ほんといやらしいよね。あんたのスキル。」


「…俺のではない。」


タイガのスティアには、ゼスという名の黒い服を着た男が何やら呪文を唱えていた。その呪文に呼応して、椅子になっている男の足元の魔法陣が光り出した。その魔法陣の真ん中にはスティアが置かれている。この男のものだ。


【…『模倣もほう』できました。いつでも大丈夫です。】


ゼスの言葉に、足元の魔法陣は消え去った。


「終わったか。さて。」


タイガは腰を上げる。椅子になった男はタイガが離れてもその姿勢を崩さず


「あ、あの…これで大丈夫ですか?私の治療費についてですが…」


「ああ、心配するな。親父には俺から話しておく。」


その言葉を聞き男は四つん這いから姿勢を変え、地面に頭をつけて感謝した。


「あ、ありがとうございます!」


「ああそれと、そのスティアは置いていけ。それで俺とお前の関係性はチャラだ。」


「は、はい!失礼します!」


男はスティアを置いてそそくさと立ち去った。路地裏にはタイガとミクの2人が残っている。


「なんでわざわざこんなことすんの?相手のオリジンを奪うなら、姿を真似る意味なんてないじゃん。」


「バカが。こっちの言うことを聞かないオリジンなんて使う価値がない。相手のスキルを使用できる俺のオリジンが一番強えぇだろうが。」


「あっ?バカ?誰が?」


タイガの言葉にミクは目つきを細くしながらタイガに近寄った。


「もしかして、私に言ったの?ねぇ。」


「お前以外に誰がいるんだ?」


「ふーん。そっかそっか。死にたいんだ。」


そうしてミクはタイガにスティアを構えて迫った。そこに


「おいおいおい。お前ら落ち着けって。」


っとガイが奥から現れた。


「終わったんだろ?タイガ。ならそいつをよこせ。」


「ふん。」


タイガは男のスティアをガイに投げ渡した。


「サンキュー。こいつは後で調教しといてやるよ。」


「要はすんだ。俺は帰る。」


「おつかれさん。」


「ふん。」


タイガは路地裏から去り、あとにはガイとミクの2人が残った。


「それで、そっちはどんな感じだった?ミク。」


「バッチリよ。新人を何人か誘ってみたわ。あとは返事を待つだけ。」


「そうか。オリジンを引けたらいいな。」


「引けなかったらだから大丈夫よ。」


そう言って、ミクも路地裏から去っていった。


「怖いねぇ。女ってのは。」


残ったガイは男のスティアの電源を付け、オリジンに説得という名の脅迫を持ちかけていた。

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