第5話 理由

【私達は戦うために作られたプログラムだ。ほかのオリジンがどのような人格で生まれたかは知らないが、戦いの本能から逃れることはできない。そしてすべてのオリジンを倒したものは、私達の悲願を叶えることができるという。】


戦う本能から逃れられない、か…。説明書のあの女の子も、そうってことなのかな…。それに、悲願だって?


「一体なんだよ、その悲願って。」


俺の質問にノキアは一度目を伏せ、そして…


【…この世界の顕現けんげんだ。】


「…けんげんって?」


あっ、またため息吐きやがった!


【つまり、貴様のいる世界で生きたいということだ。】


あーなるほど。つまりノキアが言いたいのは、こっちの世界で暮らしたいってことね。


「…えっ!?そんなことできんの!?」


【ゼクトを使えばそちらの世界に行けるのだ。ならばゼクトの範囲を広げれば、可能なはずだ。】


そう言いつつも、言い切っていないあたり、確信はないのだろう。まぁそれはいいとして…


「まぁノキアの言い分はわかった。でも、それに俺が付き合う理由はなんだよ。ノキアを最後の1人にすれば、大金持ちになれるってか?」


【あながち間違いではない。】


…は?どういうこと?


【私達オリジンを作ったグランソンはゼクトを拡大させ、やがて世界に売り込もうとしている。今回のオリジンを戦わせて競うというのも、一種の実験にすぎない。実験が成功すれば、その実験にかかわったものにも、報酬は与えられるはずだ。だがスティアを持っているプレイヤー全員に報酬を与えられはしない。そこで勝ち残ったものに、栄誉と報酬を払うといったところだろう。】


…なるほど。それならオリジンを召喚したプレイヤーが頑張る理由にもなるな。


【まぁ、オリジンのプレイヤー全員に与えられるかもしれんがな。】


なんだよ。結局わかんねーのかよ。しかも全員って。


「その言い方だと、グランソンはオリジンを誰が持ってるかわかるってるみたいじゃないか。」


【スティアはオリジンを召喚したものは、データをグランソンに送るように作られている。グランソンではこの家の場所も特定されているだろう。】


…マジで?


【それに、私達の固有スキルの中には、オリジンの居場所を特定するものもある。私の『第六感』もそうだ。】


マジで!?


「それって、俺の家にまでスティプレが来るかもしれないってことか!?」


【まぁ、そうなるな。】


ど、どうすりゃいいんだ!?いきなりあの扉が開いて、勝負を挑んできたら…。まだ俺チュートリアルしかやってねーよ!そんな不安で呆然としている俺の顔を見て、ノキアは笑いながら告げてきた。


【はははっ。安心しろ。オリジンはパートナーを傷つけることはできない。たとえあの扉から勝負を挑まれても、貴様がすることはゼクトまで足を運ぶだけだ。】


そ、そうなのか…。


【さて、説明は以上だ。なにか気になる点はあるか?よしないな。】


ちょっ!おまっ!


【さて、では出発だ。】


「えっ?どこに?」


【決まっている。オリジンのところだ。】


オリジンのところって…あっそうか、居場所がわかるんだっけ。


「ていうか、近くにいるの?」


【ああ。そう遠くない場所にいる。そもそも私の『第六感』は遠い相手の居場所はわからないからな。】


あっそうなんだ。どこら辺までならわかるんだろう…。まぁいっか。


「それよりも、俺はほんとに何もしなくていいのか?」


【問題ない。むしろ、私の戦い方を見て勉強しろ。】


自信満々だな。


「…まぁこっちは楽できるからいいんだけどさ。そんじゃちょっと待ってろ。」


【早く準備しろ。相手がどこかに行く前にな。】


わかってるってば。こっちはジャージなんだから、着替えくらいさせろって。そうして俺は着替えてから、スティアを持って外出した。

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