オリジナルとレプリカと

なぎさ

第1話


今日もまた中枢の権力者達の命令により派遣された兵士のような風貌ふうぼうをした若き者達がホウキで街の上空を飛んでいた。


街にはローブを羽織った者が大半で、普段着を着た者がちらほらと住んでいる。


中枢の権力者にいるのは英雄や選ばれた者だけ。

誰もが憧れる存在であった。


街中や学校では今日もまたいつもと変わらない風景があった。


この世界では生まれる者すべてが魔法を使えるわけではない。

魔法が使えない者は一般民と呼ばれ、若い者達は普通学校にいき、18歳になると卒業して、一般的な仕事に就く。


魔法は個人差があるが、12歳から18歳になるまでに能力があれば自然と開花すると言う物。能力が開花した後、魔法学校で6年ほど修行をして、魔法使い専門の仕事に就く。

そんな者達が大半ではあるが、レプリカと呼ばれていた。


一般民は魔法使いに憧れ、魔法使いは中枢の権力者に憧れた。

中枢の権力者は政治家のような者達。

オリジナルと呼ばれる魔法使いを探すための試行錯誤を行ったり、警備をしたりしているらしいが、本当の人数や仕事の詳細、どんな姿なのかは誰も知らない。


オリジナルは産まれながらに能力を持ち、レプリカとの力や知能の差は計り知れない。

探すのは難儀ではあったが、以前のオリジナルが亡くなり、今年で100年。

100年ごとに見つけなければ、世界が壊れると昔から伝えられ国を護っているような存在。

そして今、猶予ゆうよもなくなり権力者達は急いでオリジナルを探し求めていた。


更に今年は千年に一度の大きな災いが起こるとされる年。

以前から語り継がれたのは国の中心にある神聖な森が大火事になったこと。

今回の千年目に何が起こるのかは誰も知らない。

知っていたとしても、それはオリジナルだけであろうとされていた。


レプリカと言う言葉は大抵の魔法使いがそうなのでオリジナルの者は居らず授業などでしか使わない言葉だった。



そんな中、普通学校では日々の争いは絶えなかった。

成績や運動能力が上位5番までの者は魔法学校への編入試験が可能になるためだった。


編入試験は魔力があるかどうかを調べる物なので誰もがやりたい意志はあったが、魔法使いと一般民ではレプリカとオリジナルほどの大差ではないが、レプリカは知能など一般民より優れている部分があるので魔力は少しでもあれば編入は許可されていた。

また魔法学校では日々の鍛錬が厳しいので他人になど構っている暇はなく、自身にのみ集中する者ばかりであった。


その争いを教師や中枢の権力者達は知ってはいたが、止める気などなかった。

それが後に役立つためと公表していた。だが、本当の所は権力者しか知らない…。



今日もまた、無意味な争いは止まない…。

普通学校は転々とあり、周りは魔法使い達の居住地だったり、学校だったりする。

もちろん他国からの攻撃や侵入をいち早く防ぐため。

一般民は住んでいるところも転々としているので交流などないに等しい。

一般民と仲の良い魔法使いも居れば馬鹿にしてイジメをする者も居る。



普通学校内では当たり前のようにイジメがあった。

教科書を隠したり、捨てたり、殴られたり、蹴られたり、時にお金を取られる事もあったが、今は権力者がオリジナルを探すことに必死で誰も気に止めなかった。


「もう疲れちゃった…。」


普通学校の屋上の端に立つ少女がいた。

何故か頭から靴までずぶ濡れ。そこまで暑い季節でもなければ寒い季節でもない。まるで頭から大量の水を被ったかのようにびっしょり濡れていた。

少しばかり強い風が吹いているのに危ない。授業中なのか誰も気付かない。


「…ごめんなさい…。」


飛び降りた…。

真っ逆さまに落ちる少女。


『貴方に死なれては困ります。』


聞こえた声のぬしは分からない。


飛び降りたはずの少女は無傷のまま地上にいた。

周りを見回すが、魔法使いらしき姿は見えない。


ボッーと空を見上げていると先生が1人走ってきた。


天瀬あませさん!!大丈夫!?」


保健室の先生が血相を変えた顔で覗き込んできた。

覚えていたのはそこまで。



その後、目が覚めると夕方。

保健室のベッドで寝ていた。


「天瀬さん。目が覚めた?」


「先生…。」


「何処も打ってなかったみたいだけど大丈夫?」


「…はい。」


「何かあった?」


「…いえ。大丈夫です。すいませんでした。」


彼女は天瀬疵奈あませきずな

特に何かあるような子ではない。

成績も、運動神経も至って普通の女の子。

周りの子と変わらない魔法使い達に憧れていただけ。ただイジメは酷かった。


持ち物はいつもボロボロ。

どんな新しい物を手に入れても、その日の内にボロボロになっていた。

お弁当もまともに食べられた日などなく、制服を着て登校しても帰りはいつも体操着か私服。

疵奈の親も知ってはいたが、今の世界状況ではどうすることも出来なかった。


疵奈はベッドから出て先生に頭を下げ、保健室を後にした。

教室に自分の鞄を取りに行き、帰り道を歩く。


「何だったんだろ…。」


疵奈はそんな事を口にしながら家に向かっていた。


帰り道の途中に、いつも寄り道をする木があった。

そこは家も学校も見渡せる高台にある1番背の高い木。

静かに木に抱きつき深呼吸をした。


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