第5話

自分ではあまり他人に怒ったことないし自分のことを穏やかで心優しい人物だと思っていた。

だけど、朝からこんなにイライラさせられるなんて...

駅に向かう途中の狭い歩道でおばさんたちが6人もお喋りしながらノロノロと歩いていた。

道幅はガードレールで守られているのでおばさんたちを抜かすことができない。

抜かそうものならガードレールをまたいで一旦車道にでなくてはいけないので大変、危険だ。


(ああ、あの横断歩道の信号、間に合わなくて渡れそうにないな)

(おばさんたちが前にいなければ間に合ったのに。)


小心者の私は当然、「早く歩いてください」などとおばさんたちに言えるハズもなくただトボトボと

おばさん集団の後ろをついて歩いた。


(あーあ、いつもの電車に乗れないかも、冴子に先にバス乗っててってラインしとこう)


そう思ってスマフォをバックから取り出した瞬間、軽トラックが押しボタンの電柱に激突した。


「キャーーーー!!」「うおおおおお!」


おばさんたちの悲鳴やサラリーマンの方々の怒号が響き渡る。

この時ぶつかった人はいなかったけれど、もし、おばさんたちが前にいなくてあのタイミングで横断歩道を渡っていたら軽トラックに轢かれていたかもしれない。

そう考えると背筋がゾッーーとした。


(ありがとう、おば様たち。私のバランサーだったんだね。)


バランサーとは、これもまた私が勝手に名付けた私を守ってくれるような存在。

DOAAは実態はないがバランサーは実態がある。

その違いだ。

先ほどの出来事でもしかしたら死んでしまったかもしれないとぶるぶる体を震わせながらようやくひとり校門にたどり着いた。


今日、剛くんと会話できる可能性があるのにすっかり忘れていた。


ドドドドドッ!


何かが後ろから迫ってくる。


恐る恐る後ろを振り返ると有名な3年の女の先輩がものすごい形相で走ってきた。


エレファント松本こと松本忍先輩だ。


松本先輩は前に私がいてもお構いなしで突進ダッシュしてきて私は弾き飛ばされた。


ぼよーーーん!.....ガツンッ!


松本先輩はかなり体格がいいお方なので風船か何かにぶつかったような感触でぶつかった瞬間はそれほど痛みはなかった。

が、かなりの距離を弾き飛ばされてダイブした私は校門の脇の壁にしたたかに膝をぶつけてしまった。


「キミ!大丈夫かい!?」


この声はきましたよ、きましたよ。

ハッと話しかけてくれた男の人の顔を見るとやはり剛くんだった。


「保健室へ連れて行くよ、立てる?」


「あ、ハイ....痛ッ」


私はそれほど痛くはなかったがちょっと芝居してみた。みんなこれくらいやるよね?


「肩につかまって!」

「あ、ハイ、ありがとうございます!」


(松本先輩ありがとうございます!)


そう思わずにはいられなかった。

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