仮想地球8108 機械化された第2人類が激増した世界

07. 可愛いは正義! にもレベルがあった。

 イルセは仮想地球8108に迷い込みました。


 忖度ソンタクロースからイルセが貰った金色の腕輪。

 忖度そんたくリングがピカピカと光ります。


 はい。が光りました。

 創造主が与えた名前の通り。


 仮想地球の空気を読んで、『ここは、第2人類がとても増えた世界です』とイルセに教えます。


 イルセは「だいにじんるい……って?」と聞いてきます。


 もっともな疑問です。

 人類には、2種類が居ます。

  

 まずは、生身の身体を用いて生活する『第1人類』。

 つまり、紀元前から地球で生活してきた、元々の人類です。

 男性も、女性も第1人類です。


 そこから派生した、2つ目の人類。


『第2人類は、体の一部が、別のもので置き換えられた人間のことです』


「別のものって?」


『機械や、培養した細胞などです』

 素直に回答してしまいましたが、イルセは「バイヨウ?」と首をかしげています。


 そもそも、何をどの程度置き換えたら、第1人類が第2人類になるのか、明確な定義や尺度は、まだ確立されていません。


 例えば。


 第1人類が、若いうちに自身の細胞を冷凍保存しておいて、年老いて臓器が弱ってきてから移植すれば、ある意味「若返り」となるでしょう。

 この場合、第2人類に分類されるでしょうか?


 人工透析の為の機器を体に埋め込んだら、第2人類になるでしょうか?


 仮想地球7580で、イルセが出会ったおじいさんの心臓には、ペースメーカーが埋め込まれていて、政府がそれを停止させることが出来ました。とすると、そのおじいさんは、第2人類になるでしょうか?


「うーん……よくわかんないや」

 と、イルセは歩き出しました。


 そうでした。

 イルセは、仮想地球7580で出会ったおじいさん達の事を忘れているのでした。


 マスターKとマスターUによる、記憶の消去リセットが行われているから。


 ◆


「かわいいお姉ちゃんばかりだねー」

 街を歩くイルセは、キョロキョロと通行人を見ています。


 美少女ばかりとすれ違いました。

 背の高さ、髪の色、骨格などはバラバラなのに、顔立ちが整っています。


 男性を見かけません。

 年配の方も見かけません。

 美少女ばかりが歩いています。


 そのうちの1人。


 サラサラ髪の長髪で、鼻筋の通った女性が、イルセに気づいて歩み寄り、体をかがめました。

「正義レベル激高! どこで手に入れたのですか? その幼女タイプの可愛いアバター」 


「ええと……」

 イルセは困惑しています。


 わたしは仮想地球の忖度そんたく処理を行い、情報を引き出しました。


 この仮想地球8108では、『可愛いは正義党』という政党が、政治の実権を握っているようです。


 政治理念は、『可愛いは正義』。可愛さに応じて、社会的地位が高くなる階層社会ヒエラルキー


 ……この話は、今、イルセに教えても、理解出来ないと思われます。


 実際、イルセは。 

 会ったばかりの黒髪の女性から、しきりに「議員選挙に出馬して」と頼まれて、困惑しているところです。


 状況を理解できずフリーズするイルセの、小さな両肩を、鼻筋の通った黒髪女性が掴んでいます。


「あなた程の逸材なら、きっと得票多数で議員になれる! そうしたら、あなたの思い通りに、この世界を変えられるよ? あなたは何が好き? 何をしたい? ……ついでに、私の願いも叶えてくれれば」


「ええと……」


 どうやらイルセは、「おのぼりさんの、可愛い子」認定をされてしまったようでした。ずっとキョロキョロと辺りを見回していたから。

 あたかも、海外旅行に行った脇の甘い日本人観光客が、現地の人からカモ認定されてしまうように。


「あの、お姉ちゃんの願いって、なんなの?」

 困り顔のイルセがそう聞くと、黒髪の女性は、何を当たり前の事を、とでもいいたげな風情で、イルセを見つめました。


「今よりもっと可愛い見た目に、アバターを変えてもらいたいの。そもそも可愛い子じゃないとソレが出来ない、外見資本主義だもの」

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