佐竹参考人に対する意見聴取‐二

(佐竹参考人)

 ただいまのご質問にお答えいたします。

 私どもが「摩耗」を一種の生物であると断定し、自衛隊の行動を治安出動から災害派遣に切り替えた主たる理由につきましては、本日もこの意見聴取に同席してらっしゃる尾形教授の意見聴取の結果と、自衛隊による事前調査、観測により、「摩耗」の体表面に他国の国籍標章、外国語表記、記号等が見受けられなかったことによります。また、当時の米田統合幕僚長からも、このような巨大な球状の兵器については知見がなく、また周辺装備が皆無であることが明らかであって、未知の新兵器である、すなわち外国からの武力攻撃であると断定するにはなお材料が乏しいとする意見を総合的に勘案し、「摩耗」を未知の巨大生物と認定した結果であります。


(吉田委員)

 より突っ込んで質問いたしますと、災害派遣に切り替えたタイミングがあまりにもタイムリーに過ぎる、ということであります。

 といいますのも、既に指摘されているとおり、南相馬市における侵攻阻止作戦が失敗に終わった以上は、「摩耗」の福島宮城越境は、これを阻む何らの障害もなく、確実視される状況でありました。ですから、福島県内に自衛隊を派遣する治安出動下令下においては、これを宮城県内にまで拡大去る必要が本来でしたらあったわけです。しかし当時の政府は、そういった政治決定を回避し、南相馬市における侵攻阻止作戦が失敗に帰したタイミングで災害派遣に切り替えました。

 言うまでもなく、災害派遣は治安出動或いは防衛出動のように、防衛大臣或いは内閣総理大臣の命令を必ずしも必要とはいたしません。災害派遣については、法第六章「自衛隊の行動」の中でも、著しくシビリアンコントロールを欠いたものであるとの批判は、古くからあるわけです。その点いかがでしょう。


(佐竹参考人)

 ご質問の主旨は、つまり自衛隊が、災害派遣というシビリアンコントロールを欠いた状態で武器を使用し、国民の財産に損害を与えたことについて政府の責任を問われているものと理解し、お答えいたします。

 命令による治安出動というものは、これは自治体管内に、国として自衛隊を派遣するものですから、場合によっては大変な自治権の侵害に当たる可能性があります。事実そういったご批判もあり、実際に自治体主権に対する侵害がおこなわれたことがあるかどうかは別にいたしまして、批判があることは、これはもう否定のしようがありません。

 当時は、既に福島第一原発廃炉作業区に対し重大な攻撃がおこなわれており、都道府県警察による対処の範囲を超えていることは明らかでありましたので、内閣総理大臣として福島県内への自衛隊の治安出動を下令いたしました。先ほど米田参考人も説明されましたが、出動下令に先立って、福島県議会は全会一致で政府に対し自衛隊の派遣を要請してきたものであります。しかしながら、未知の物体による原発襲撃という事態を勘案すれば、事前調査もなく部隊を現地に投入することは極めて危険であるという認識に立ち、福島県議会からの自衛隊派遣要請を、命令による治安出動の補完要素と捉え、自治体の賛意もあって自治体管内に自衛隊を派遣するという形を採用したものであります。

 ですから、当初から政府といたしましては事態の把握に努め、必要な命令は手間を惜しまず適宜発出していたわけでありまして、「摩耗」の福島宮城越境が確実視される段階だからといって、既に我が国史上初の治安出動命令が下されている段階においてですね、今さら治安出動の範囲拡大の手間を惜しむ必要など何らなかった、としか説明のしようがございません。その上で、では何故災害派遣に切り替えたのかと申しますと、それは尾形教授への意見聴取及び自衛隊機による球体の観測結果、並びにそれを受けての米田統合幕僚長の意見具申の結果によるものであります。

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