代表質問に対する答弁‐二

 続きまして、現在問題視されている所謂「摩耗生物説」の根拠についてご説明致します。

 一部には、「摩耗」を生物と認定した決定につきまして、当時の政府が治安出動の範囲拡大という政治決定を忌避して、自衛隊の現場裁量権がより広い災害派遣に出動類型を切り替えるための方便ではなかったか、という議論があるようです。その中で災害派遣に根拠を与えるために、「摩耗」を政府として恣意的に生物と認定した、という疑念がまことしやかに語られている実情がございます。

 これに関しましては特に調査委員会が設けられ、当時の政府の意志決定過程が追々おいおいあきらかにされていくだろうとは思いますが、当時防衛大臣として「摩耗」駆除の陣頭指揮に立った私の所見の一端をここで陳べさせていただくとすると、野島議員ご指摘のように、政府としてシビリアンコントロールを意図的に手放し、自衛隊に「摩耗」駆除の責任を丸投げした、などという事実はございません。本国会におきましても、その意志決定過程に議論に加わった学識者、政府関係者等が出席し、意志決定過程があきらかにされることと思いますので、掛かる疑惑が解消されることを私としても期待致します。

 

 続きまして、復興支援の具体的方策についてお答えします。

 野島議員のご質問の中にもございましたように、復興庁の試算によれば、本年度中に必要とされる復興住宅が充足することとされております。再三申し上げておりますとおり、被災者の生活再建には住宅の提供が欠かせません。生活の根拠である住宅において、避難者の安定的な生活が保障されてこその復興である、という政府の基本的考え方につきましては、全くこれにかわりはないわけであります。

 所謂奇遇生活者の問題につきましては、政府としては現在、そういった状況に置かれている方々の具体的な数字を把握している現状には残念ながらありません。私は昨日の所信表明演説におきまして、さしあたり住む場所がなく、避難所における避難生活を強いられ、もっとも困難な立場にある被災者の皆様方に、早急に住宅を提供する必要があり、その対策を最優先とし、既に当該最優先事項について復興住宅が充足する見通しである、という事実を申し上げたに過ぎず、これを以て奇遇生活者の切り捨てであると断じられることは、まさに復興住宅を政争の具にする詭弁の類いであります。

 今後、こういった奇遇生活者からも広く意見を公募し、当該奇遇生活者の勤務地への出勤に関する利便性を考慮し、転出を希望するけれども住宅がないという方に向けた新たな復興住宅の整備は政府として当然推進して参ります。

 

 現在、甲信越以東の広大な地域が、摩耗核惨事に伴う放射性物質の拡散によって立入禁止区域に指定されております。

 野島議員のご指摘を待つまでもなく、各原子炉において溶融し、所在不明となっている核燃料、或いは「摩耗」襲撃の過程において、建屋内の核燃料保管用プールから地上に転落した使用済み核燃料等の撤去作業は、二〇一一年に発生した福島第一原子力発電所事故における溶融燃料の撤去すら緒に就いていない現状を鑑みますと、相当の困難が将来的に予想されます。こういった未撤去の核燃料、溶融燃料が降雨或いは地下水に触れ、海洋に流出して、周辺国家の、特に漁業関係者に甚大な経済的損失をもたらしていることは、当事国の元首として慚愧の念に堪えません。

 したがいまして、私は我が国の責任におきまして、こういった汚染源の撤去について明確なビジョンを昨日の所信表明演説において示しました。汚染による立入禁止区域はまさに、人類未踏破の領域ではございますが、溶融燃料或いは使用済み核燃料の撤去は汚染水問題の解決のためには避けて通ることの出来ない一大事業であります。

 除染と復興は一朝にして成りません。国土が広く汚染されている現状におきましては、一足飛びに溶融燃料や使用済み核燃料を撤去するというわけにはいかないのであります。

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