決着

 通常試練とは何らかの者を極めたりした際に神により突きつけられるものである。つまり試練を突き付けられるということはその肉体での限界を迎えたということなのだ。試練で得るものは上限の解放。引き続き励めよ、という励ましであるととることもできるかもしれない。

 しかし先ほど兎亜の神格が少女に突きつけた試練は通常のそれとは根本的に意味合いが違う。

 先ほどの試練は試験だ。つまり少女がどれだけの力を持っているのか。彼女が『守護者』にふさわしいものであるか。それを調べているに過ぎない。


「あぁ。これは試練だ。俺に一撃入れることができればその少女は守護者だと認めよう」

『「その言葉忘れんじゃないわよ……!!」』


 直後、少女の姿が面前から搔き消える。

 残像を空目したせいで、反応が少し遅れた兎亜。しかし自前の魔力感知の高さはある程度あるのだ。異世界での経験は伊達ではない。

 真後ろに生体魔力反応。そちらは体を向けると、何かを打とうとしている少女の姿。


『「……吠え面かいときなさいってのっ!!属性無砲ホワイト=フォイア!!!」』


 ただの魔力砲撃ではないことは彼にでもわかった。だが未知の攻撃であったとしても、自分の防御で受け止められるであろう予測は容易であったし、それなりの自信と実力があった。

 目の前にはそこまで魔力の込められていない砲撃。そして自分には防御する手段がある。

 ならば普通の思考として、正面から受けようと考えるだろう。


「展開」


 魔力で魔力障壁を張る。

 そして数瞬後に来るであろう衝撃を予想しながら障壁に砲撃が直撃するのを待つ。

 だが、その衝撃は来ることがなかった。なぜなら


『「終わりよ!!」』


 魔力障壁が砲撃によって強制的に解除されたからであった。






 有香という少女に一時的に憑依した彼女ステッキが撃った属性無砲ホワイト=フォイア

 相手の魔力に干渉して術式をゼロに帰してから空中に霧散させるというものである。魔力を使って魔力を無効化する術式。

 一応、これは彼女らの作り出した起源オリジナルの術式であった。

 自分の持ち得る駒の中で、相手の想定の外であろう攻撃を初手で全力で当てる。

 作戦というべきものでもないが、これが彼女ステッキの考えた作戦であった。






『(よしっ、さっさと離脱よ!有香、起きて!もう憑依は解いてるから!!)』

「はい!?」

『(さっさとここを離脱!!早く!!!)』

「い、一体なんなんですかああああぁぁぁ!!?」



 魔法少女有香と彼女ステッキは、ゲートを開いて早々にこの場を離脱した。


『「あんな神さまバケモノとまじめにってられるかっての!!!」』



 ★★★★★★★



「…これは驚いたな……」

「魔力を魔力で相殺……ですか」

「いや、おそらくあれはもっと別のもんだ。大方魔力同士を融合でもさせて無効化したんだろ。アイは見えたか?」

「……無理ですねー」

「だよなぁ」


 魔力を無効化する術式というものは普通、術式そのものですら無効化するためパラドックスが生じる。つまり無効化する魔術を無効化してしまうため、そもそも術式を成立させることが不可能なのだ。

 彼らは、無効化するという効果を結果的に作り出す術式を成立させたのだろう。


「しっかしなんで逃げたかねぇ?試練はクリアだろうに」


 兎亜が課した試練のクリア条件は『一撃入れる』こと。障壁が解除された時点で残りの魔力が兎亜の身体に触れたことになる。


「……ご主人、嘘つきだと思われてるのかと」

「嘘つき?俺がか?」

「あぁ、もしかして兎亜さんが自分は人だと明言したのにいきなり神格を解放したからでしょうか?」

「ohh……」


 人間だと言ったのに神だった。敵じゃないと言ったのに今回は敵だと言う。なるほど嘘つきである。


「…………」

「…兎亜さん。…抱きしめてあげましょうか?」

「いらんわ!!落ち込んでなんかねーし!!お前はさっさと帰って寝ろ!!」

「ふふ、ではまた明日。アイちゃんもまたね」

「お姉ちゃんまたね!!」

「はい、また会いましょうね。」


 そう言って美優せいじょは消えた。


「じゃあ俺らも帰りますかね…」

「ご主人、お腹すきました」

「お前さっき食ったばっかだろうが…」



 そのあと彼らは下に降りて適当に飲み屋をハシゴした。異世界あっちでは成人は12歳からである。当時17歳である彼は、酒など事あるごとに普通に飲んでいた。

 こちらでは法律違反であるが、知ったことではない。第一今は魔法の作用で若返っているように見えるだけで本当は20歳などとうの昔に迎えている。しかし世間的には彼は高校生である。幻術を一時的に切り、バーへと足を運ぶ。

 彼らの夜は朝まで続いた。



 ★★★★★★★



 兎亜とアイは、家に帰ってきた。

 何しろ今日は月曜日である。何度も言うが彼は世間的には高校生だ。兎亜は学校に行かなくてはならない。

 白いシャツに袖を通し、ベルトを締め、ブレザーを羽織る。


「つまらんのです」

「知るか」

「……ご主人が学校とやらに言っている間アイは何をすればいいのです」

「ゲームでもしとけ。ほら、いろいろあるだろ」


 棚には色々な種類のカセットがある。PS○やwi○などのゲーム機もあるため、ディスクやカセットなどが大量に並べられていた。


「………」

「………」

「つーまーらーんーのーでーすー!!!!!」

「うっせぇ!!!いつでも構ってもらえると思うなっ」

「学校なんて休みましょうよー!!!」


 どったんばったんと足を床に打ちつけながら駄々をこねるアイは、さながら欲しいものを買ってもらえない子供のようであった。

 即ちうるさいのである。

 さてどうして鎮めようかと思った矢先。


 コンコン

「すみませーーん」


 突如ノック音と人の声がドアの向こう側からこちらは届いた。


「…もしかして私うるさくしすぎました?隣の人からの苦情ですかね??」

「だろうな」


 朝から怒られるのかと少し憂鬱になりながらガチャリとドアノブを回す。

 するとそこには


「え」


 お辞儀の姿勢のまま微動だにしない少女の姿があった。


「初めまして!!あ、あの!私、今日からこにょアパートの管理人になりました有香と申します!!今後ともよろしくお願いします!!」



 顔を上げずに紙袋を突き出される。袋から見えるのは石鹸だろうか?いや、そんなことはどうでもいいのだ。

 嫌な予感がした。聞いたことのある声。有香という名前。そして何よりこの生態魔力反応。


「……なぁ、ちょっと顔上げてこっち向いてみ?」

「は、はい!…え……………?」


 間違えるものか。その顔は、昨日兎亜が出会った魔法少女と同じであった。

 とりあえず


「…あの魔法少女の服恥ずかしくないの?」

「ふぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!?!?!?!??」


 騒がしくなりそうだな、と。

 また違った意味で憂鬱になるのであった。

















 

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