月じゃない




月は

地球からみて百八十度の方向に

およそ七十五万四千キロの長さを持つ

非常に長大な円錐形の天体である


月は

過去に三度火星と接触しており

火星表面には約五千キロの間隔の平行線が

三本獣の爪痕のように残されている


月は

三度目の火星との接触の際

衝撃により先端の約一万二百キロを

脱落させたそれは今聖地とされている


月は

かつて火星の知的生命体によって

楽園への階と解釈されており

楽園とはすなわち地球のことであった


月は

二度目に火星と接触した際

火星生命の一部をその指に掬った

彼らは楽園を目指す殉教者になった


月は

およそ七十五万四千キロの長さのうち

半分以上を彼らに踏破させたのだが

残りの土地を踏ませることはなかった


月は

彼らの死んだことを知らない

彼らは辿り着いたと

火星では語られていることを知らない


月は

楽園たる地球の

我々にばかり輝いている


のかもしれない



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