夜の散歩




夜の散歩は

幽霊を殺すためだったと

あなたに

告白しなければならない


わたしはそれに必要な道具も技術も

持っていなかったからあてもなく

ただ殺意のみを手のひらからぶら下げて

丸い惑星ほしの上で

太陽を見なくてもすむように

夜を待ってから家を出た


おそらく幽霊はこの世界にたくさん

事典に載りきらないくらいの種類があって

わたしが殺さねばならなかった幽霊は

その中のひとつだけだった


夜の街はまるで美しくなどなかった

あなたがそれを望むほどにはまるで

わたしを見下ろすだれもが

今は寝ているであろうということ

それだけが少しやさしい


モノレールの下をくぐり抜けて

川に架かる橋を渡る

死人のようになりたくて


棺に籠められているひとを見た

華ばかり隣に詰められて

冷たいまま燃えたひとを

あのときわたしは

もう一生笑うことなどできないように

感じていたのに


橋の向こうには道路があって

川の畔を歩かねば

幽霊のいる場所へたどりつけなかった


風が

背を押しているように思えたのだけど

わたしの殺意は指から離れなかった

それを無様と思うことも赦されるだろうか


結局いつも

幽霊のいる場所へはたどりつけずに

朝が来る

とても白くて

わたしは脚を叩き折りたくなるくらい

疲れている


殺意ばかり

手のひらからぼたぼた溢れて落ちるのに

一向減らずにわたしを苛んでいる


明日わたしは

わたしの不在とその理由を

あなたに告白しなければならない

その一心で帰るのに

今やだれもが疲れきっていて

どうしようもなく眠るのだ



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る