ふるえる

父母に感謝する夢をみて

目覚めた朝にだれひとり

隣にいない、そんなときには

部屋のすみっこへ巣をはった

小さな蜘蛛を想います


もしや私はあの蜘蛛の

何の気なしにはった巣が

私のふりしているだけかしら

人のふりしているだけかしら

何処に心の在るわけでない

私は蜘蛛の糸かしら


八本の脚の振動が

特別の信号を生み出して

記憶によく似たものを持ち

感情によく似たものを持ち

単なる糸の交わりが

刹那想っているだけかしら


私にみえない私という

透明な糸の交わりが

脚下に存在していること

もしくは存在しないということ

糸に絡まないあの蜘蛛は

きっと知らないままでしょう


私を生んだ振動は

徐々に減衰しますから

私はだんだん小さくなって

私はいつか動かなくなって

そっと単なる糸へともどる

それが私の死になるでしょう


寝惚けた時計がジリリと鳴って

目を醒ませなんてがなるから

そっとひとつの意識であった

私ははたりと毛布をとって

はりつく糸に辟易します

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