あなたの手に入れたい四字熟語を教えてください!

ちびまるフォイ

スキル:評価乞食 …応援コメント欲しさに発狂する。

ここはとある有名な進学校。


「習字の授業なんて久しぶりだなぁ」


なぜか差し込まれた習字の授業に懐かしさを感じつつ墨を作る。

先生からは好きな四字熟語を書くようにと言われている。


とはいえ、この学校では一流の会社の人たちが

新しい人材を探すために出入りするのでいつ見られるかわからない。


「七転八倒……は、ちょっとマイナスに取られるか。失敗しそうだ。

 一生懸命はなんか気合でしか頑張らなそうなイメージになるし……」


悩んだ末に「世界平和」とだけ書いた。


浅そうに見えて実は深い、と思われる作戦だったが

そもそも四字熟語じゃないので頭の悪さを全力でアピールすることになった。


書き終わると先生が教壇に立った。


「えーーみなさん、書き終わったようですね。

 実はみなさんが書いた紙はただの紙じゃありません。

 これはスキルシートという特別な和紙なんです」


「へ?」


「そこに書かれた文字はあなたがたのスキルになります」


全員の和紙が光り輝いた。



【世界平和】

周囲の人間および触れた人間の感情をおとなしくさせる。



「みなさん、今学期からは授業の成績だけでなく

 お互いのバトルの成績も加味されて出されます。


 弱い四字熟語、強い四字熟語はあれど仲間と協力して

 いい成績を取るように頑張ってください」



「急にバトル展開!?」


これまでゴリゴリのがり勉学校だったはずが、

この日を境に能力と能力がぶつかり合う異能学校へと変化した。


生徒同士が戦って勝利したほうには、

相手の勉強側の成績を1ポイント奪い取ることができる。


「おいお前、俺とデュエルしろよ」


「発動!! 世界平和!!」


「……やっぱりいいや。みんな仲良くするのが一番だよな」


俺のスキル【世界平和】は、戦いには限りなく役立たずなスキル。

だが、戦いを未然に防ぐことに関しては最強のスキルだった。


「よし俺のスキルがあれば戦いでポイントを奪われることはない。

 たくさん勉強側で成績を取っていこう!!」


これまでのがり勉として世界モンドセレクションを受賞したほどだが、

戦いで稼げない分必死に勉強をするようになった。


四字熟語戦争が行われるようになって数日。


学園では4人の圧倒的な力を持つ人間が台頭した。



「ギャハハハハ!! お前ら弱すぎんだよォ!!」


【弱肉強食】

相手との力の差が大きいほど能力向上。

戦況によってリアルタイムに変化する。


スキル「弱肉強食」で弱者には強く、強者に対しても体力を削り

最終的に逆転する戦闘の天才。



「ふえぇ、みなさん怖いですぅ」


【一石二鳥】

隣接した仲間のスキルをコピーし反映する。


スキル「一石二鳥」で複数人での同時攻撃を行う女子。



「…………ッ」


【疑心暗鬼】

周囲を闇で包む霧を発生させる。

不安の量に応じて闇の濃度が変化し、暗いほどに能力向上。


誰がどう負けたかもわからわないほどに強い男。



「否、切るべし!! 我の道にこそ正道あり!!」


【単刀直入】

出し入れ自由な刀を自動生成する。

相手の油断を感知して、不意打ちを行う。


身の丈以上の日本刀を振り回す生徒会長。




など、彼らは四天王と呼ばれている。


このあと話に登場することはもうない出オチ集団だが、

俺のように弱い四字熟語を手にした人間たちの生態圏をおびやかすには十分だった。


「ま、まずいな……。このままじゃとてもいい成績を残せそうにない」


スキル【世界平和】は相手の敵意を奪えるので、ある意味有効ではあるが

それは逆に「戦いでのポイント稼ぎ」をゼロにしてしまうということ。


四天王をはじめとする強四字熟語の人は

勉強での成績プラス戦いの成績が上乗せされるので

どんなに勉強しても追いつけやしない。勉強だけでは限界がある。


「先生! 四字熟語を変えたいんです! もう一度スキルシートを下さい!」


「そう頼んだのはお前で300人目だよ。もちろんダメだ。

 与えられた理不尽な能力でどれだけ工夫できるかがポイントなんだ」


「そ、そんな……」


先生には突っぱねられた。

【疾風迅雷】とか【猪突猛進】とか強そうな四字熟語に変えたかった。


このままがり勉で成績を底上げするしかないのか。


「そういえば、先生は仲間と協力してって言ってたな?」



――仲間と協力していい成績を取るように頑張ってください



ふと職員室の帰りに先生の言葉が頭をよぎった。

戦いは個人戦なので協力もなにもないはずだが。


「なにかあるのかもしれない」


さっそく弱い四字熟語を書いてしまったがために、

スクールカーストの最下層のよどみに落ち着いた同族を集めた。


「集めては見たものの、これから何をすればいいのか。

 協力して強くなる系のスキルはある?」


「あるわけないだろ」

「俺なんて万物流転とか書いちゃったよ」

「あったらここにはいないよ」


「たしかに……」


一石二鳥などの周りが影響するスキルがあれば強四字熟語。

他の人のスキルシートをじっと見ていると、試してみたいことができた。


「お、おい何してる!!」


ビリと音を立てて自分のスキルシートを破いた。

そして、ほかの人のスキルシートも破くものだから全員が力の限り止めようとした。


でも【世界平和】の効果によりすべての敵意が失われ、俺の行動は阻害されない。


「できた!!」


「スキルシートをつなげてどうする気だ?」


「先生は仲間と協力しろって言っていただろ。

 だから、合わせることもできると思ったんだ」


つなぎ合わせたスキルシートは再び光輝いた。



【世界流転】

自分が追い込まれるとお互いの状況とスキルが入れ替わる。



【万物平和】

非生物の硬度を上げる。また、相手からの物に対する攻撃を禁止する。



「「「すげぇ新しい四字熟語になった!!」」」


物の上下を逆さまにするだけの『万物流転』のスキルも有用なものに変化した。

先生の言っていた協力というのはこういうことだったのか。


みんな自分の四字熟語を解体し、つなぎ合わせては新しい熟語を作っていった。


そうして生まれ変わったスキルにより、誰もが下剋上できるようになった。

激しい戦いが行われた学年もついに卒業となった。


「最後まで工夫を諦めないでよかったぜ。

 これできっと今後の人生も安泰だ」


元々勉強だけは成績が良かったことにくわえ、

【世界流転】のスキルで戦うようになったのでポイントも底上げ。


気が付けば、自分のポイントは学園トップへと返り咲いた。


この先広がる約束された成功者の道が見えてくる。

ちょうど迎えが来るように、一流会社の人事との面談が行われた。


「俺はこの学校で勉強だけでなく戦いも努力してトップになりました!

 仲間との協力と創意工夫もけして怠りません!!」


「おお、それはすごい。君は本当に優秀なんだね」


「自分では思ったことはありませんが、努力を休んだことはないです」


「すばらしい! 本当に素晴らしいよ!!」


「やった!! それじゃあ――」


「ああ!!」




「君は不採用だ」



人事の言葉に目が点になった。


「な、なんでですか!? 俺の能力認めてくれてたじゃないですか」


「悪いが、学校での評価や人間性とは別に

 どの会社でも『絶対服従』のスキルを持つ人しか採用しないんだ。

 社会の歯車として使いにくい人間は優秀だろうと不要だ」


「そ、そんな……」


「悪いが、君は今日からフリーターだ。帰っていい」


帰り際に、人事のほうを振り返った。


「最後に、俺のスキルってご存知ですか?」


「いや。絶対服従ではないことだけは知ってる。それだけで十分だ」


「そうですか。俺のスキルは追い込まれたら発動するんですよ」



スキル【世界流転】が発動。

俺が人事の椅子に座り、人事が帰りのドアの間に立たされた。



俺は人事を指さして宣言した。



「君は、不採用だ。多様性を認められない人間は成長の邪魔だ・

 今日から君の方がフリーターだ」



すると人事のスキル【絶対服従】が発動した。


「はい、仰せの通りに……」

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