暑夏

かいHけいじゅうろう

暑夏

 奴は晴れ男でした。

そして大概気のきかぬ奴でした。



「今日も今日とて真夏日か」

「ああ、暑いな」

 日差しは全くもって容赦なく、嫌と言うほど、むしろ嫌と言おうが言うまいが構わんとばかりに私達を照り付けておりました。ここで久しぶりに見る顔もちらほらとあるのでしたが、真っ白い日の光はあまりに眩しく、懐かしい顔をしげしげと見るには向かない照明でした。

「もっと日が暮れてからでも良かったんじゃないのか」

「西日は西日できついぞ。暮れ始めたら存外すぐに暗くなるしな」

「暗くなってからじゃあ危ないんだと」

 青々と葉を繁らせる夏の木の佇まいは、その爽やかで鮮やかな色合いにいっそ涼しげではありましたが、葉の色を鮮やかに透けさせているのは紛れもなく灼熱の日差しでした。加えてあんまり一生懸命に鳴く蝉の声といったらありません。

 夏でした。

 夏の快晴でした。


 私達が高校生だった頃です。

 夏の嫌いな私には奴のような夏そのものみたいな男は眩しく、うるさく、特別仲の良い友人たらんとは思っていなかったのです。けれども奴は、毎年春を追いやり訪れる季節みたいに、当たり前という顔で私に構いつけるようになったのでした。

 あの男が何故私などに興味を持ち、何故私などを構っていたのか知りません。奴は友人の多い男で、別に他にいくらでも遊ぶ相手も話す相手もあったことでしょう。

 だというのに奴はと言えば暇さえあれば私に話かけるのでした。最初鬱陶しく思い邪険にしていた私にめげるでもなし、しつこい程でした。どうにもしつこいので私も奴の暑苦しさに慣れ、結局私達は友人、になったのだと思います。周りにもお前達の接点がわからんと言われましたが、私にもちっとも分からないのでした。奴なら分かっていたのかもしれません。

 でももう知りようのないことです。



 奴は晴れ男でした。

 そして気のきかぬ奴でした。

だからこんな時でも私の黒い上着の肩を日射が焼いているのでしょう。

 卒業して二年ぶりの連絡が、葉書とは思いもよりませんでした。

 薄情な男です。やはり夏のそのもののような男です。勝手に訪れてはその眩しい日射で照らし、そして勝手に去って、秋を呼ぶのです。

 夏などよりよっぽど、私は秋が好きだったのに。その暑さに慣れたばっかりに、もう秋は肌寒いばかりだ。


 葉書に気付いたのが遅く、通夜と葬式には出られませんでした。

 間に合ったのは納骨の列でした。私と、私も顔を知っている奴の友人が数人と、知らないのが幾人と、それから奴の家族と。多分、墓地へ納骨に向かうには多い人数ではないでしょうか。他に知らないので、比べようもありません。きっと葬式にはもっと人が多かったことでしょう。


 礼服には酷い暑さです。こんな時にまで晴らすことはないものを。

 奴は一人、今から随分涼しげな所へしまわれるというのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暑夏 かいHけいじゅうろう @KusattaHK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ