この広い大空に

カゲトモ

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「今日、風凄かったですね。春の嵐だとか」

「そうだね、せっかく咲いた梅の花が散ってしまいそうだったよ」

「おや、梅ってもう咲いているんですか?」

「うん、うちの会社の近くは満開でね。とても綺麗だよ」

「それは素敵ですね」

 そうか、もう梅が咲いているのか。桃の節句が三月だから、二月に咲いていてもおかしくないか。

「そう言えば今日は卒業式の学校が多いみたいですね。この辺の高校もそうみたいで、出勤時に沢山すれ違いましたよ」

 胸に花を付けた学生服と、スーツ姿の親子が何人も歩いていた。その誰もが笑顔で、空の太陽さえこの晴れやかな日を祝っているようだった。今朝は雨が降っていたのに、晴れさせてくれたのは神様の優しさなのかもしれない。

「もうそんな季節なんですね」

「マスターもつい最近だったでしょ? 卒業式」

 え? どの卒業式の話?

「御冗談を。そんなのずっと前の話ですよ」

「そうなの? マスター若く見えるのに」

「こう見えて立派なおじさんです」

「えー、まだまだだよ。それは俺の事」

 くくく、と笑ってオンザロックのウイスキーを一口。今日は珍しい日に向畑さんが来店した。いつも金曜日の仕事終わりに来るというのに。明日は仕事休みなのか?

「ふふ、マスター聞いてくれる?」

「もちろんですとも。何でも話してください」

 いつもより飲むペースの速い向畑さんは、少し赤くなった瞳で遠くを見つめながら言った。

「俺の息子も、今日高校を卒業したんだ」

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