かつての最年少最強ゲーマーコンビはVRMMOでも最強になるようです
北橋トーマ
プロローグ 伝説のバトル
《2018年11月25日16:55 東京都某所》
《アルテマブレイバーズ》。通称《AB》。
それは2000年にシリーズ第1作目が発売されて以来、18年の時が過ぎてもなお愛され続けているアクションRPGの金字塔。カードゲームの戦略性とアクションゲームの操作性を掛け合わせたと制作者が語る《AB》はその独自のゲームシステムでファンを熱狂させ続けていた。
そんなゲームの13回目となる全国大会の決勝が今、《AB》の開発元であるNEXの本社ビルで行われている。
使用されるゲーム機は最新の携帯ゲーム機《DCM(ドリームクリエイタームーブ)》。
使用ソフトは《AB》シリーズ通算15作目となる《AB4 DX》。
業界人の間では今後オンラインゲーム業界、そして行く行くはまだ見ぬVRMMO業界への参入を表明しているNEXが発売する最後のオフラインゲームと噂されているゲームだ。
現在対戦が行われているのは今大会の華とも言えるアンリミテッドクラスの決勝戦だ。
このクラスには一切の参加制限は無い。
年齢、性別、体格――そういったスポーツなどでは制限されがちな要素も、ゲームの前では皆平等と言わんばかりに様々なプレイヤー達が入り交じって、2対2で対戦を行う。
しかしながら過去12年間に渡って優勝を勝ち取ってきたのは20歳前後の大学生達である。
そこにはやはり、体力や反射神経的な要因が大きく関わっていると言えた。
だからこそ第13回全国大会は歴史上もっとも荒れていると言っても過言では無かった。
「おおっと、なんということだ! 4連覇は間違い無いと言われていたユウスケ、カオルコンビが第1ラウンドに引き続き、この第2ラウンドでも押されているぅ!!」
「緻密な環境読みと落ち着いたプレイでコンスタントに結果を出していくタイプですからね。こういう爆発力のある相手は苦手としている節がありましたが……ここまで押し込まれてしまっているのは少々予想外ですね」
リーゼントに学ランといった大昔のヤンキーを連想させる出で立ちの実況者とその隣に座っている落ち着いた態度の解説者は、困惑と興奮を隠しきれないような態度で話す。
彼等だけで無く会場に押しかけて来ていた《AB》ファンや他の選手達、そしてインターネット上で生放送を見ていた人間達もまた目の前の現実を信じ切れて居ない様子だった。
その理由は今決勝を戦っている選手にあった。
片側は眼鏡をかけた男子学生のコンビ。日本一を決めるこの大会を3大会連続で制し、過去最多連覇記録タイを保持する実力者である。
今大会も見事優勝し、4連覇達成は間違い無いだろうと言われていた。そして本人達もその未来が訪れることを疑っていなかった。
だが実際のゲーム画面に映るものはその対極。後手後手に回り、未だに決定打を一度も入れられずにいる大学生コンビのアバターの姿。
そしてそんな二人を容赦なく追い詰めるのは赤と緑の2つの閃光。ステータスを素早さと攻撃に特化させ、そのスピードで相対する者を翻弄し、置き去りにする超高速戦法をとるガンブレード少年少女のコンビ。敵の反応速度を0.01秒でも超えようとするかのように、ただ速さだけを求めたようなプレイングがそこにはあった。
だが見ている者たちの驚きの理由はそんなところには無い。その困惑の真の原因はプレイヤーの方にあったのだから。
――プレイヤーネーム《MAX》、11歳男。
――プレイヤーネーム《LIO》、10歳女。
そう、アンリミテッドクラス新記録となる4連覇の夢を打ち砕こうとしていたのは二人の小学生である。大人よりも一回りも小さな手で携帯ゲーム機を握る二人の小学生は一心不乱にゲーム画面を見つめている。
キャラの動き、ステージマップ、そして自分の使用可能な技。全ての情報を逃がさないという気迫を緩めること無く放っている。
そんな2人の気迫に、もしかしたら対面する3連覇の猛者達も飲まれていたのかもしれない。
「MAX選手、LIO選手、共に攻めの手を一切休めない! 二人の集中力に限界は無いのか!?」
「動きを見るにステータス的には攻撃、速度に極振りの紙耐久。相手の使用技によっては一撃食らえば即死に直結するような状態であるが故にプレッシャーも半端ではないはず。ましてや全国決勝でこの対戦相手でこの集中力……これほどの肝っ玉を持った小学生が居るというのは事件と言うほか無さそうですね」
実況者も解説者も目の前の現実が信じられないかのように話す。
見る者全てが異常を感じずに居られない異常な空気感の中、それでも画面の中で状況は変動している。
そして残り時間30秒を切った頃、大学生コンビのHPはあと1撃で0になるくらいに削られていた。
誰もが4連覇の夢が消え去ったと思った。しかしその時。
「このまま負けてたまるかあああああああああああ!!!!」
大学生の片側、ユウスケが咆哮する。絶対に優勝したい、その振り絞るような願いを込めた咆哮はただ口だけで無く、実際のプレイにも現れる。
普通のアクションゲームには見られないコマンドカードと呼ばれる奥の手。必殺技と言うべきそれをユウスケは放ったのだ。
『ここでユウスケ選手! レジェンドコマンドカードを引き当てた! そしてノータイムでプレイだぁ!!』
『レジェンドコマンドは試合を一発でひっくり返す力を持った強力な技。そしてユウスケ選手の使用した《クロノス》は自分以外のプレイヤーの動きを一時停止させる力を持つ神を召喚できる召喚コマンド。さすがにスピード自慢のMAX、LIOコンビといえども動きを止められてしまえば――――』
しかし解説者の言葉は最後まで続かない。
全てを解説するよりも先に試合終了のブザーが鳴り響いたからだ。
そしてゲーム画面にはこう表示されていた。『YOU LOSE』、つまりはそのキャラのプレイヤー、そしてその相方が負けたことを意味する言葉だ。
『ええっと、今回我々がメインで見てた画面はユウスケ選手の画面だから……ユウスケ選手、カオル選手の負け? なんで?』
『もしかしてカウンタークロノス? 相手のクロノスと同タイミングでクロノスを召喚することで時間停止の影響を無視して動くことができるテクニック? いやでもそもそもクロノスを握っているのならもっと前の、それこそ詰めの段階で使っても良かったのに……対戦中に一度しか使えない貴重なレジェンドをピンポイントメタのためだけに残し続けたのか!? 自分のコマンド一つが無駄になるかもしれないリスクを負いながら!?』
『いやでもクロノスって出しただけならダメージ無いですよね? ユウスケ選手も動けるんだから条件は同じじゃあ……』
『いや、ユウスケ選手からすれば勝ち確だと思っていたものが突然ひっくり返されたんだ。致命的な隙になってもおかしくない』
解説室、観客席、そしてユウスケ、カオルの大学生コンビ。その誰もが混乱していた。目の前の出来事が現実に起きたものだという自信を持てなかったからだ。
だがその非現実を起こした側である二人の小学生はあくまで笑顔でプレイヤー席に座っていた。 そして緊張が解けたかのように二人の小学生は椅子から転がり落ちてしまった。
「勝てたぁ……本当に死ぬかと思った」
「だれだよこんな綱渡り戦術おもいついたの。てかクロノス警戒しつつ動き回るのやっぱりキツすぎる、二度とやりたくない」
「思いついたのそっちのくせに」
「日本一とやり合うには博打も必要だってじっちゃんが言ってた」
「また変なことを言う」
会場の床に寝そべるようにして話す少年と少女。別にマナーがなっていないとか、対戦相手にたいして失礼な態度を取っているとかでは無く、極限状態から脱したことで体に力が入らないのだ。対戦相手もそれを分かっているからこそ、罵倒するわけでも無く怒ることも無く、ただ自分達を打ち倒した小さな巨人達に手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます」
「ごめんなさい迷惑かけて」
「いや、謝ることは無いさ」
「君たちは勝者だ。胸を張っていればいい」
二人の大学生は悔しさを押し殺したかのような表情でそう話す。
二人の小学生は言われた通りに胸を張って自分達よりも一回り大きい男達の手を取った。
そしてその瞬間を待っていたかのように、運営サイドから決定的な一言が放たれる。
『第13回アルテマブレイバーズ全国大会アンリミテッドクラス! 優勝はなんとダークホースである浪速の小学生コンビ《MAX》アーーンド《LIO》コンビ!! 最年少優勝記録を塗り替え、見事日本一の座を勝ち取ったぁぁぁぁ!!』
かくして2018年、《AB》の世界には革命が起きた。史上最年少チャンピオンが誕生し、戦略性重視の対戦環境はプレイヤーの反応速度が肝の超高速環境へと様変わりした。
されど不思議なことに革命を起こした二人の小学生が並んで表舞台に立つことは二度と無かった。
――――7年の月日が経った2025年のあの運命の日までは。
そして本当の物語は《MAX》こと
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