目指せ、港町!ワイバーンさん、アゲイン。


「あ、ワイバーンさんだ!お久しぶりです!」


 ぱぁっと悠利ゆうりは顔を輝かせた。王都ドラヘルンの城門の外、以前乗せて貰ったときと同じ場所に、そのワイバーンはいた。今日も大きな籠を、先日よりももっと大きな籠を抱えて佇んでいる。

 体型は西洋の竜と東洋の龍の間ぐらいで、背中に大きな翼を持っている。足は後ろ足は大きく、前足は小さい。今はまるで躾の行き届いた犬のように大人しく座っているが、周囲の人々は遠巻きにしている。移動手段として知られているワイバーンではあるが、厳つい外見かつ竜種の魔物なので畏怖されがちなのだ。

 が、悠利にとってはそんなことは関係ない。むしろ初対面のときからレッツゴーフレンドリーだった。


「……」

「俺を見ても何も変わらないぞ」

「……ギャウ」


 目映い笑顔で駆け寄ってきた悠利に、ワイバーンはどういう反応をすれば良いのか困っていた。困ったあげく、旧知の仲であるブルックを見るのだが、あっさり流された。


「お元気でしたか、ワイバーンさん。今回も僕らを運んでくれるんですか?」

「キュキュー!」

「ユーリ、あまりぐいぐいいってやるな」

「へ?」

「慣れてないんだ、こいつは。普段は遠巻きにされるのが普通なんでな」

「……何でですか?」

「何でだろうなぁ?」

「?」


 キラキラ笑顔で突撃する悠利と、その足下で嬉しそうに飛び跳ねながら挨拶をしているルークス。その一人と一匹の行動にワイバーンは固まっている。どういう対応をすれば良いのか解っていないのだろう。そんな友人の苦難を救うべく口を挟んだブルックだったが、悠利はやっぱりよく解っていなかった。

 勿論、悠利だって大型の魔物は怖いと思う。突然見知らぬワイバーンと出くわしたらびっくりするだろう。けれど、このワイバーンはブルックの知り合いであり、先日は悠利達を温泉都市イエルガまで運んでくれた相手だ。危害を加えてこないと解っているので、フレンドリー全開なのだった。

 ルークスに至っては、「格好良い先輩だ!」みたいなノリで近付いている。このワイバーンは従魔ではないが、人間のために働いているのでルークスの中では先輩枠だった。「先輩、お仕事お疲れ様です!」という感じなのだ。

 とはいえ、相手が困っていると言われてしまっては、無理に近付くのも失礼だ。悠利とルークスは聞き分けは良かったので、ワイバーンにぺこりと頭を下げて離れていった。そんな二人の背中を、ワイバーンは「何だろう、あいつら」みたいな雰囲気で見詰めていた。アレはただの天然主従です。

 さて、ブルックの友人の長距離移動手段であるワイバーンが王都ドラヘルンで悠利達を待っていたのには、理由がある。悠利達はこれから、このワイバーンに運んでもらって港町ロカへ向かうのだ。


「ユーリ、ワイバーン怖くないの?」

「え?だって、あのワイバーンさんはブルックさんの知り合いだし、前にもお世話になったし」

「それが解ってても、ワイバーンって怖いと思うんだけどなぁ、オイラ……」


 へにゃりと眉を下げて呟いたヤックに、悠利は不思議そうな顔をした。会話が完全に噛み合わないと理解したヤックはそこで話を変えた。これ以上この話題を繰り返しても意味がないと思ったからだ。


「空飛んでるときって、揺れる?」

「ううん。ほとんど揺れないよ。飛び上がるときと降りるときはちょっと揺れるけど、真っ直ぐ飛んでるときはそんなに揺れなかった」

「そっか。オイラ、ワイバーンに乗るの初めてだから」

「皆一緒だから大丈夫だよ」


 にこにこ笑顔の悠利に、ヤックは緊張で強ばった顔で、それでも笑顔を見せた。今回はヤックも一緒に出掛けるのだが、初めてのワイバーンということで緊張しているのだ。

 緊張しているのはヤックだけではない。普段は飄々としていて余裕のある態度をあまり崩すことのないカミールが、先ほどからずっとお守りらしきメダルを握りしめながら祈っている。どうやら、こちらも初めての空の旅に緊張しているらしい。

 他は大丈夫かなと視線を向けた悠利は、いつも通りの表情で荷物の最終確認をしているウルグスと、同じくいつも通りすぎる淡々とした表情で立っているマグを見つけた。どうやら見習いの年長組コンビはワイバーンに乗ることを怖がっていないらしい。


「ウルグスとマグは緊張してないの?」

「俺はワイバーン便に乗ったことあるからな。揺れないって聞いてるし、問題ない」

「え?ウルグス、乗ったことあったの?」

「おう。家族旅行でな」

「「……流石お坊ちゃま」」

「お坊ちゃま言うな!」


 当たり前のように戻ってきた返事に、悠利達はごくりと喉を鳴らした。真顔で呟いて締まったが、彼らは特に悪くはない。普段の言動がアレなのでうっかり忘れてしまうだけで、ウルグスは確かにお坊ちゃまなのだ。代々王宮務めの文官を輩出している家は、たとえ貴族でなかろうと名家になるだろう。

 少なくとも、ザ・庶民である悠利達からしてみれば、十分にお金持ちだし凄いお家だ。ウルグス本人は実家のことを特に何とも思っていないというか、むしろ色々と面倒くさがっているしお坊ちゃま扱いには不満があるらしいが。事実は変えられないのでそこは仕方ない。


「マグはどうなの?ワイバーンに乗るの初めてだよね?怖くない?」

「……?」

「えーっと、空飛ぶの、怖いと思わないの?」

「諾」


 それがどうしたと言いたげな態度だった。マグには怖いものがないのかもしれないと思う悠利。勿論、マグにだって怖いものや苦手なものはある。ただ、それがきっと、悠利よりも数が少ないのだ。恐らく。

 暢気な会話をしている悠利達の周りでは、仲間達が着々と準備を整えていた。今回ワイバーン便に乗って港町ロカへ行くのは、総勢十二人の大所帯だ。

 引率者としてアリー、フラウ、ティファーナの指導係の三人。見習い組は四人全員。訓練生からは、クーレッシュ、レレイ、ヘルミーネ、イレイシアの四人。そこに悠利とルークスが加わるので、十二人と一匹となる。以前、温泉都市イエルガに出掛けたときの人数が九人だったので、それよりも更に多い。

 なので、今旧知のワイバーンと親しげに会話を楽しんでいるブルックは、お留守番だ。自分は出掛けないが、陸路で行くと時間がかかるということで、こうしてワイバーン便を手配してくれているのだ。帰りもきっちりお迎えに来てくれる手続きは済んでいる。


「お前ら、一泊二日の休暇とはいえ、忘れ物がないようにしろよ」

「「はーい!」」


 わいわいがやがやしている一同に、アリーの忠告が飛ぶ。アリーの言葉の通り、今回の港町ロカ行きは、休暇だった。一泊二日で港町で楽しく遊ぼうという、ただそれだけの休暇なのである。前回の温泉都市イエルガ行きは訓練を兼ねていたが、今回は本当に何もないただの休暇なので、皆もはしゃいでいるのだった。

 何故こんな風に休暇として港町ロカに向かうことになったのかというと、話は数日前へと巻き戻る。




「海水浴、ですか?」

「あぁ、そうだ」


 アリーが口にした提案に、悠利はきょとんとした。ハローズに連れられて港町ロカから戻ってきた翌日、改めてどんな風に過ごしたのかを報告していたときのことだ。突然の話題についていけず、悠利は小首を傾げていた。


「この間のイエルガ行きは、訓練を兼ねていたから連れて行けなかった奴らもいるだろう?他の土地を知るのは経験として悪いことじゃないから、どこかへ連れて行くかと相談していたんだ」

「なるほど。それで、ロカの街で海水浴ですか」

「あそこなら、海水浴と行っても地元の人間が遊びに来るような雰囲気の場所だからな。気軽に行ける」


 アリーの説明に納得した悠利だが、続いた言葉にはて?と首を傾げた。言われていることがよく解らなかったのだ。

 悠利にとって、海水浴とは気軽に遊びに行く場所だった。家族や友人と海を楽しむために赴く場所だ。


「気軽に行けない海水浴場ってあるんですか?」

「金持ち御用達の場所に行くと色々と面倒くさい」

「……あー、リゾート地のビーチみたいな……」

「何も考えずに子供ガキ共を遊ばせる場所という意味で、ロカがぴったりなんだ」

「よく解りました。皆、喜ぶと思いますよ」


 この提案を聞いて大はしゃぎするだろう仲間達を思い浮かべて、悠利はにこにこと笑った。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》にもお休みの日はあるが、わざわざ皆で出掛けることはほぼない。最近では、全員共通の休みの日はバーベキューなどで盛り上がる感じだ。だからこそ、休みに遠出で遊びに行くというのは、皆が喜びそうだと思った悠利である。

 ましてや、向かう先は港町ロカの海水浴場だ。王都ドラヘルンは内陸にあるため、海とは縁遠い。川や湖は存在するが、やはり海はまた別枠だろう。


「海水浴に行くとなると、水着の準備がいりますね」

「その辺はあいつに話を通してある」

「あいつ?」

「レオポルドだ。服飾関係にも顔が利くからな」

「安定のレオーネさん」


 悠利の脳裏に、「お姉さんに任せなさい」と素敵な笑顔でウインクをするレオポルドの姿が浮かんだ。美貌のオネェはお洒落にも余念がなく、服飾関係者との付き合いも深かった。衣服だけでなくアクセサリーや靴までカバーしているのは流石である。なので、こういうときは素直に協力をお願いするのが吉だ。


「お前も適当に一着見繕えよ」

「了解です」

「出掛けるメンバーは希望者で調整するが、お前の方からも声をかけておいてくれ」

「はい」


 各々の仕事の調整もあるし、休みの日は出掛けずにゆっくりしたいと考える者もいるだろう。その辺りは個人の自由だ。まして今回は本当に遊びに行くだけなので、引率者以外は希望者で固める方針だった。


「アリーさんは行くんですよね?」

「あぁ。後は指導係から誰かを連れて行くつもりだ」

「海、楽しみですね!」


 夏休みのおでかけみたいだなと思いながら、悠利は笑顔を浮かべるのだった。




 そんなやりとりから数日後の本日、遂に完全休暇の港町ロカへの海水浴イベントが決行されたのである。一泊二日だがこれは思いっきり遊ぶための日程なので、思う存分楽しめというアリーの心遣いだ。

 そんなわけで、普段は厳しい指導係の皆さんも今日ばかりは大はしゃぎの面々を咎めはしなかった。むしろ、フラウとティファーナの二人も海を楽しみにしているようだ。


「海へ行くことはなかなかありませんし、泳ぐとなると更に珍しいですから、楽しみですね」

「あぁ。泳ぎの練習も出来るしな」

「フラウったら……」


 遊びに行くんですよ、と鍛錬と勘違いしていそうなフラウに困ったように笑うティファーナ。彼女は純粋に遊びに行くのを楽しんでいる感じだった。ティファーナは王都ドラヘルンで生まれ育っているので、海にはなかなか縁がないのだ。


「わーい、またワイバーンに乗れるー!ブルックさん、ありがとうございますー!」

「気にするな」

「お礼に、ロカの街でスイーツ探してきますね!」

「期待している」

「お任せください」


 くるくるとその場で回りながらうきうきしているヘルミーネ。テンションの高い彼女を適当にいなしていたブルックだが、絶品スマイルで告げられた言葉には食い気味で返事をした。今日もブルックは甘味の虜だ。

 あの二人は相変わらずだなぁと見詰める仲間達の視線があるが、当人達はまったく気にしていなかった。どういう感じの甘味が良いかという相談をしている。港町に行ってまでスイーツを探すんだ、と誰かが呟いたが、聞こえなかったらしい。


「ユーリとイレイスはこの間行ってきたばっかりだよな?ロカってどんな街なんだ?」

「僕らは街しか見てないんだけど、賑やかだったよ」

「賑やか?イエルガみたいな感じか?」

「もっとこう、雑多で庶民的な賑やかさっていう感じ?何かこう、熱量が凄い感じ」

「解るような解らんような……」


 クーレッシュの問いかけに、悠利は自分が感じたことを素直に伝えている。しかし、イマイチ上手に伝わらないらしい。しばらく二人であーでもないこーでもないと会話をしていたが、なかなか通じないので彼らは真面目な顔になって頷いた。

 そして。


「とりあえず、行けば解ると思うよ」

「そうだな。行けば解るな」

「……お二人とも、相互理解を放棄されましたわね……」


 隣で二人の会話を聞いていたイレイシアは、苦笑しながら呟いた。なお、悠利とクーレッシュは、問答を繰り返しても埒があかないと思っただけである。


「全員準備出来たか?乗り込め」

「あ、アリーさんが呼んでる。行こう」

「おう」

「はい」


 呼びかけが聞こえたので、三人は小走りでワイバーンの元へ向かう。既に仲間達は順番に籠の中へ入っていた。今回は前回よりも人数が多いからか、籠がもう少し大きなものになっていた。それでも、内部構造はあまり変わりはなく、皆は思い思いの場所に座って準備をしていた。

 悠利達三人が中に入り込むと、最後にアリーが籠に足を踏み入れる。身体半分だけ籠に身を入れたアリーはそこで一度振り返り、見送りとして立っているブルックを見た。


「留守を頼む。まぁ、残ってる面々ならそうそう面倒事は起こらんと思うが」

「そっちの方が大変そうだが、まぁ、頑張ってこい」

「何で休暇で頑張らないといけねぇんだ」

「家族サービスのときはお父さんが頑張るものだろう?」

「誰がお父さんだ!」

「「お父さん、よろしくお願いししまーす!」」

「お前らも便乗するんじゃねぇ!!」


 表情こそいつも通りだが、相棒をからかう気満々のブルックの発言にアリーが怒鳴る。なお、楽しげに便乗した背後の仲間達にも同じように怒声が飛ぶ。周囲は何事だと言いたげな視線を向けてくるが、彼らは気にしなかった。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》は今日も賑やかだ。

 アリーの怒りの矛先が中の面々に向いたのを理解したブルックは、ワイバーンの元へ歩いていきその太い首を軽く叩いた。親愛の情を込めた挨拶に、ワイバーンは一声嬉しそうに鳴いた。


「皆を頼む。それと、悪いが明日もな」

「グルル」

「あぁ、解っている。今度店に顔を出す」

「ギャウ」

「ではな」


 ごく普通にワイバーンと会話をしているブルック。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の面々はまったく気にしていないが、周囲は驚いた顔をして見ていた。当人としては友人と会話をしているだけなので、周りの視線など知ったことではないのだろうが。

 ブルックがワイバーンから離れると、ワイバーンはゆるりと起き上がる。籠を揺らさないように気を付けながら前足で抱え、翼をばさりとはためかす。


「それでは皆、楽しんでこい」

「「行ってきまーす!」」


 手を振るブルックの姿を窓から見ていた見習い組が、元気よく挨拶をした。悠利もひょこっと顔を覗かせながら手を振っている。実に微笑ましい光景だった。

 次の瞬間、ワイバーンは空へと飛び上がる。彼に抱えられた籠も同じく。経験者は気にしていないが、初めて空を飛ぶ面々は驚いたように声を上げた。


「うわわわ……!本当に飛んでる……!」

「うぉっ、やっぱり浮上するときはちょっと揺れるんだな……」

「二人とも、大丈夫?」

「う、うん。驚いただけ」

「上昇しきったら揺れないんだな。なら、大丈夫だ」

「良かった。気分が悪くなったとかだったらどうしようと思って」


 ヤックとカミールの返答に、悠利はホッとしたように笑った。慣れない空の旅なので、乗り物酔いみたいになったらどうしようと心配していたのだ。その心配が杞憂に終わったことが嬉しかったのである。

 ウルグスは特に何も気にしていない。普通の顔でクーレッシュ達と雑談をしている。彼は何度も乗っているということなので、問題ないのだろう。そこで悠利は、マグはどうしているだろうと探してみた。

 マグは、何故か窓にべったりと張り付いていた。どうやら外を見ているらしい。


「マグ、どうしたの?何か面白いものでもあった?」

「空」

「え?うん、空飛んでるからね」

「青」

「…………ウルグスー!通訳お願いー!」


 晴れ渡った青空を見詰めているマグの淡々とした答えは、相変わらずよく解らなかった。困った悠利は頼みの綱のウルグスを呼ぶ。いちいち俺を呼ぶなとぶつくさ文句を言いながらもやってきてくれるウルグスは優しい良い子である。


「で、どうした?」

「いや、マグがさ、空と青しか言わないから、良く解らなくて……」

「は?ヲイ、マグ、どうした?」

「空、青」

「……あー、なるほど。確かにな。地上から見るより綺麗な青だな」

「「……解るんだ」」


 単語を聞いただけでは意味が解らなかったウルグスだが、マグの表情と声音で判断したのだろう。納得したように頷いている。なお、傍らで聞いていた悠利とヤックには、何のことかさっぱり解らない。そもそも、マグの声音も表情もいつもと同じで淡々としている。そこにどんな感情が入っているのかは、彼らにはさっぱりだった。

 そんな悠利達に向けて、ウルグスは説明を始める。安定のマグの通訳だった。


「飛んでる分、空が近いだろう?いつも見てるより綺麗な青だって喜んでるんだよ」

「……あの単語でそれが解るウルグスが怖い」

「……あと、マグ、喜んでるんだ。いつもと同じに見えた」

「喜んでるだろ。めちゃくちゃ嬉しそうじゃねぇか。思いっきりはしゃいでるだろ」

「「解らない」」


 ウルグスの言葉に、悠利とヤックは頭を振った。どこをどうしたらそう読み取れるのか、彼らにはさっぱりだった。マグの感情表現を理解する道のりは遠そうだ。


「こうして空を飛ぶというのも、滅多にない経験ですよね」

「あぁ、まったくだ。……やはり、上空を取れるというのは良いな」

「……フラウ?」

「羽根人が弓の名手と言われるのも納得だ。頭上から見下ろす形になれば広範囲を担当できる」

「フラウ、今日は休暇なんですよ」

「どうした、ティファーナ?」

「貴方ちょっと、頭の中を切り替えてください。私達は遊びに行くんですからね?」

「勿論そのつもりだが……?」


 大真面目な顔で物騒な内容を呟いていたフラウは、困ったようなティファーナの言葉に首を傾げている。どうやらまったく自覚がないらしい。休暇で海水浴に出掛けるというのに、脳内が弓兵としての視点で埋まっているフラウ。ちゃんと切り替えてくださいとティファーナが小言を口にするのも無理はなかった。

 高みを目指すのは決して悪いことではないが、それとこれとは話が別だ。遊ぶときにはちゃんと遊んでほしいものである。


「……フラウさん、相変わらず真面目というか何というか……」

「別に、飛べるからって弓使いとして物凄く優れてるわけじゃないのにー」

「そうなの?空飛べたら、敵の姿が見えて楽に倒せそうだけど」

「バカねぇ、レレイ。飛んでるからこそ上手に身を隠さないと、敵に見つかっちゃうじゃない。隠れたり逃げるために高度を上げすぎたら、今度は攻撃が当たらないわよ」

「あ、そっか」


 ヘルミーネの説明に、レレイはポンと手を叩いて納得した。空飛べたら強いと思ったんだけどなーと暢気に笑っているレレイに、やれやれと言いたげなヘルミーネだった。確かに空を飛べるのは便利だが、逆に困る点もついて回るものだ。一長一短である。

 そんな風にわいわい騒いでいる皆を見て、一人静かに座っていたアリーが面倒そうに口を開いた。


「お前ら、道中好きに過ごして良いが、籠の中で暴れるのだけは止めろよ」

「「はーい」」


 実に元気の良い返事だった。こんな狭い籠の中で暴れたらどうなるかぐらいは解っている。問題は、暴れるまでいかなくても、騒ぐことで不都合が起きる場合がありそうというぐらいだろうか。

 そんなこんなで、なんやかんやと賑やかなまま港町ロカへの空の旅は続くのでした。




 なお、外の景色を交代で見るために窓争奪戦が起こったりしたのですが、まだ許容範囲でした。引率者は大変です。




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