夜のベンチ

坂本 由海

序章 交差する場所

「明日なんか来なきゃいいのに。」


午前零時過ぎ、缶ビールを片手に、横田啓介は夜空を見上げていた。


ただ一人、近所の公園にいた。


勤めている医療機器メーカーの会社では、営業部に所属している。しかし、ここ数ヶ月ノルマを達成できていないため、周りからの冷ややかな視線を浴びながら仕事をこなしている。


五年前に新入社員として入社した頃は、全てのことに全力で取り組もうと必死だった。

毎日汗だくになりながら、取引先を駆けずり回っていた。


いつからだろうか、こうして一人夜の公園のベンチに座るようになったのは。


一生懸命働いていた頃が、思い出すことのできない、はるか昔のことのように感じる。


会社に行っても、言われることはノルマのことばかり。いつも自分を見下したような上司、入社当時は仲が良かったが、啓介が助けを求めてもどこか他人行儀な同僚、ゆとり教育の中ぬくぬくと育てられ、常識が通じない部下。


来る日も来る日も同じ日を繰り返しているようだった。


楽しみといえば、毎晩公園のベンチで飲む缶ビールを選ぶことぐらいだ。



夜の公園のベンチに、ひとり座っている姿が月明かりに照らされている。


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