第九十七話 変わり果てた帝国

「ど、どうなってるの?」


 ルチアは、愕然とした。

 実は、間違えて、王宮の中に出てしまったのだ。

 王宮の外に出て、王宮に侵入するつもりだった。

 誰にも、気付かれないように。

 だが、ルチア達が、出たのは、王宮であり、その王宮では、死体で、埋め尽くされていたのだ。

 王宮だけでなく、王宮の外も。


「何が、起こってるんだ?」


 クロスは、あたりを見回す。

 自分達が、ルーニ島を救う為に、死闘を繰り広げていた間。

 帝国に異変があったのだろうか。

 帝国が出現したあの日から、何かが起こっていたのかもしれない。

 クロウは、死体へと歩み寄り、本当に、死んでいるか、確かめた。

 だが、脈が触れない。

 つまり、もう、ここの帝国の民は、死んでいるという事であった。


「だめだ、死んでる」


「じゃ、じゃあ、皆……」


 ルチアは、体の震えが止まらなかった。

 敵国とは言え、帝国は、ルチアの第二の故郷でもあった。

 だからこそ、なぜ、帝国が、島々を支配し始めたのかも、不明であり、真相を突き止めるべく、帝国まで来たのだ。

 ルチアは、不安に駆られた。

 もしかしたら、ヴィオレットも、もう、命を落としているのではないかと。

 だが、その時であった。


「うう……」


「まだ、生きてる人がいる!!」


 うめき声が聞こえる。

 ルチアは、声に気付き、あたりを見回すと、痙攣している帝国の民を見つけた。

 帝国兵の制服を身に纏っていない。

 王宮の者とも思えない。

 侵入者なのだろうか。

 ルチアは、不安に駆られながら、帝国の民に歩み寄った。


「大丈夫ですか!?」


「どうか……帝国を……。滅ぼして……。ヴィオレット……」


「え?」


 帝国の民に声をかけるルチア。

 だが、帝国の民は、ルチアが側にいると気付いていない。

 顔を上げながら、振るえた声で呟いた。

 衝撃的な言葉を。

 ルチアは、驚愕した。 

 なぜ、ヴィオレットの名前が、出たのかもわからず。

 帝国の民は、そのまま、倒れ込み、命を落とした。


「帝国を?ヴィオレットが?」


 ルチアは、戸惑いを隠せない。

 ヴィオレットが、帝国を滅ぼそうとしていたというのだろうか。


――これ、全部、ヴィオレットが?


 ルチアは、あたりを見回す。

 帝国の民が、命を落としたのは、もしかしたら、ヴィオレットが、何かしたのではないかと、推測しながら。

 だが、その時であった。

 王宮から、光の柱が、出現したのは。


「っ!!」


 ルチアは、驚き、振り向く。

 光の柱は、天へと昇っていった。


「な、何?なんで、光ってるの?」


 ルチアは、戸惑いを隠しきれなかった。

 王宮の中で一体、何が起こっているというのだろうか。

 光の柱は、すぐさま、止んだ。

 ルチアは、何が起こったのか、わけもわからず、呆然と立ち尽くしていた。


「中に入ろう」


 クロウは、中に入るよう、ルチアに促す。

 ルチアは、恐る恐る、うなずいた。

 恐れを抱いているようだ。

 それでも、前に進むしかない。

 真実を知るためにも。



 ルチア達は、王宮の中に入る。

 だが、王宮にいた兵士も、メイドも、誰もが、死体となって倒れていた。


「やっぱり、王宮の人達も……」


 ルチアは、あたりを見回すが、やはり、生きている者達はいない。

 なぜ、このような惨劇が、起こってしまったのか、理解できなかった。


「クーデターか?」


「かもしれないな」


 クロウは、状況を把握したらしい。

 どうやら、クーデターが起こったのではないかと。

 なぜなら、帝国兵やメイドだけでなく、一般人も、王宮の中で、血を流して倒れているからだ。

 それも、武器を手にしたまま。

 クーデターが起こったと見て、間違いないのだろう。

 クロスも、同じことを推測していたらしい。


「皆、相打ちになったって事?」


「かもしれないし……」


「もしかしたら、何かが起こったのかもしれない……」


 彼らの話を聞いていたルチアは、クーデターを起こしたが、相打ちになり、ほとんどの者が、命を落としたと推測しているらしい。 

 クロスは、うなずくが、どこか、難しい顔をしている。

 いくら、クーデターが起こったと言えど、ほぼ、全員が、死ぬという事は果たしてあり得るのだろうか。

 そう思うと、もしかしたら、何かが起こり、全員が、巻き込まれた可能性があるのかもしれない。

 ルチア達は、あたりを警戒しつつ、進んだ。


「ルチア、どこで、光ったか、わかるか?」


「うん、たぶん、女帝の間だと思う」


 クロウは、どこで光の柱が、出現したのか、尋ねる。

 ルチア曰く、女帝の間だという。

 この帝国は、女性が、治めていたようだ。

 ルチアの案内で、クロスとクロウは、女帝の間に向かった。

 その時だ。

 何者かが、ルチアの背後に迫り、剣を振りおろそうとしたのは。


「っ!!」


 ルチアは、背後の気配に気付き、聖剣を引き抜き、受け止めた。

 なんと、帝国兵が、ルチアに斬りかかったのだ。

 クロスとクロウは、蹴りを放ち、帝国兵を吹き飛ばした。


「ルチア、大丈夫か?」


「うん」


 クロスは、ルチアの身を案じる。

 ルチアは、うなずき、構えた。


「ここは、通さない。通さぬぞ……」


「帝国兵か」


「生き残ってた奴がいたんだな」


 ルチア達の目の前には、帝国兵が、構えている。

 それも、血を流して。

 どうやら、生き残りのようだ。

 と言っても、弱っているようだ。

 クロス達も、剣を抜き、構えた。

 その時であった。


「うう……」


 何人かの帝国兵が、うめき声を上げながら、ルチア達を取り囲む。

 まだ、生き残りがいるようだ。


「まだ、いるのか……」


「侵入者め……ここは、通さぬぞ……」


 クロウは、驚愕する。

 まさか、まだ、帝国兵の生き残りがいるとは、思いもよらなかったようだ。

 帝国兵は、弱っているようで、体を震わせながら、ルチア達に迫っていく。

 だが、油断はできない。

 もしかしたら、帝国兵は、妖魔に転じてしまう可能性もあるからだ。

 だが、女帝の間にも、急がなければならない。

 ルチア達は、どうするべきか、迷っていた。


「ルチア、先に行け」


「で、でも……」


 クロスは、ルチアに先に行くよう促す。

 だが、ルチアは、ためらった。

 ここで、二人を残していいのかと。

 自分も、ここに残ったほうがいいのではないかと、推測したようだ。

 万が一、妖魔に転じてしまった時の事を懸念しているのだろう。


「俺達なら、大丈夫だ。すぐに行く」


 クロウは、ルチアの不安を取り除くように、語りかける。

 自分達なら、帝国兵を殺し、すぐに追うと。


「ヴィオレットの事、頼むぞ」


「……わかった」


 クロスは、ルチアにヴィオレットの事を託す。

 ルチアは、うなずき、女帝の間へと進む。

 帝国兵が、ルチアに斬りかかろうとするが、クロスとクロウが、魔技を発動して、帝国兵を切り裂いた。

 その間に、ルチアは、帝国兵の間を潜り抜け、女帝の間へと向かった。


「クロス、お前も、一緒に行ってよかったんだぞ」


「え?」


 クロウは、帝国兵に斬りかかりながら、クロスに語りかける。

 それも、ルチアと一緒に行ってよかったのにと。

 これには、さすがのクロスも、驚きを隠せない。

 一体、どうしたのだろうかと。


「ヴィオレットに会いたかったんだろ?お前の、大切な人なんじゃないのか?」


「……わかるんだな」


「お前の考えてることぐらいはな」


 クロウは、クロスの心情を察しているようだ。

 ヴィオレットは、クロスにとって大事な人なのだと。

 それゆえに、ヴィオレットに会いたがっていたのだと。

 クロスは、降参したかのように、呟く。

 見抜かれていたのだと悟って。

 クロウも、わかっているようだ。

 クロスの考えている事は。

 さすが、双子と言ったところであろう。


「確かに、ヴィオレットには、会いたい。でも、クロウの事、一人にできると思ってるのか?」


 クロスは、心情を明かした。

 ヴィオレットに会いたいが、クロウを一人にしておけないと。

 クロウの事も心配なのだ。

 だからこそ、クロスは、ルチアに託して、共に残った。


「お人よしだな」


「だろうな」


 クロウは、苦笑する。

 クロスの事をお人よしだと言いながら。

 クロスも、認めているようだ。

 自分が、お人よしであると。

 次々と帝国兵を切り裂くクロスとクロウ。

 だが、帝国兵は、起き上がり、クロスとクロウに迫っていった。


「行くぞ、クロウ!!」


「ああ」


 クロスとクロウは、床を蹴り、向かっていく。

 帝国兵を殺して、ヴィオレットに会いに行くために。



 ルチアは、女帝の間へと進んでいた。

 幸い、帝国兵には遭遇しなかったようだ。

 だが、進んでも、命を落とした者達しかいない。 

 進むたびに、ルチアは、不安に駆られた。


――ヴィオレット、無事だよね……。大丈夫、だよね……。


 ルチアは、ヴィオレットの身を案じているようだ。

 当然であろう。

 幾人もの死体を目にしたのだ。

 もしかしたら、ヴィオレットも命を落としているかもしれないと、最悪の事態を想定してしまったのだろう。

 鼓動が高鳴り、止まない。

 嫌な予感がして。

 それでも、ルチアは、進み続けた。

 その時だ。

 女帝の間に何者かがいるのを目にしたのは。


――人がいる。あれって……間違いない!!


 ルチアは、女帝の間に誰がいるのか、察したようだ。

 菫色の髪が目に映った。

 間違いない、ヴィオレットだ。

 ヴィオレットが、女帝の間にいる。

 そう推測したルチアは、急いで、女帝の間に入った。


「ヴィオレット!!」


「え?」


 ルチアは、ヴィオレットの名を呼ぶ。

 ヴィオレットと呼ばれた菫色の髪の少女は、驚愕して、振り向いた。

 こうして、ルチアとヴィオレットは、再会を果たした。

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