第七十六話 クロスVSクロウ

 ルチアは、眠りについていたが、目を開けてしまったようだ。

 この時のルチアは、まだ、知らないだろう。

 まさか、自分を守るために、クロスとクロウが、退治しているなどとは。


「眠れない……」


 寝返りを打つルチアであったが、中々、眠りにつけないようだ。

 最近、そういう事が多い。

 眠っては、夜中に目が覚め、中々、寝付けないという事が。

 自分の異変に関係があるのだろうか。

 思考を巡らせるルチア。

 だが、見当もつかず、もう一度、眠りにつこうと試みた。 

 その時であった。

 誰かが走る音が響いてきたのは。


「何?何が、起こってる?まさか、妖魔?」


 ルチアは、起き上がり、あたりを見回す。 

 窓から外の様子をうかがうが、島の民が、逃げ惑う姿は、見当たらない。

 それどころか、島の民の姿は見当たらないのだ。 

 一体、何が起こったというのだろうか。 

 妖魔に関係することなのだろうか。

 不安に駆られたルチアは、急いで、部屋を出た。


「急げ!!あいつらを止めろ!!」


「わかってるってっ!!」


 ルチアが、部屋を出た途端、ヴィクトル達が、フォルス、ルゥ、ジェイクに命じている。

 「あいつら」とは、誰のことなのだろうか。

 ルゥは、焦燥に駆られながらも、廊下を走り始めた。


「あの二人、今、どこにいるの?」


「わかりません。ですが、探しますよ!!」


 ジェイクが、不安に駆られた様子で、フォルスに尋ねる。

 フォルスも、見当がつかないようだ。

 しかも、彼さえも、焦燥に駆られている。

 探しているのは、二人のようだ。

 フォルス達が、去った後、ヴィクトルは、ため息をつき、頭を抱えていた。

 混乱しているようにも、ルチアは見えた。


「どうしたの?」


「ルチア。起きたのか?」


「うん。音がしたから」


「そうか、悪いな……」


 ルチアは、ヴィクトルに尋ねる。

 ヴィクトルは、少々、驚いた様子を見せた。

 おそらく、想定していなかったのだろう。

 ルチアが、起きてくるとは。

 物音がした為だとルチアは、説明するとヴィクトルは、申し訳なさそうに謝罪した。

 不安にさせてしまったのではないかと。


「ねぇ、何があったの?」


「……」


 ルチアは、ヴィクトルに尋ねる。

 何があったのか、気になっているのだ。

 だが、ヴィクトルは、答えようとしなかった。

 答えられないのだろうか。


「ヴィクトルさん」


「……クロスとクロウが、戦ってる」


「妖魔と?」


 ルチアは、焦燥に駆られ、ヴィクトルの名を呼ぶ。

 すると、ヴィクトルが、静かに、答えた。

 クロス達が、戦っていると。

 ルチアは、相手は、妖魔ではないかと推測したようだ。


「違う、争ってるんだ。互いに」


「え!?」


 ヴィクトルは、首を横に振り、衝撃的な言葉を口にする。

 クロスとクロウは、互いに、剣を向け合い、戦い合っているというのだ。

 これには、さすがのルチアも、驚きを隠せなかった。



 ルチアが、事情を知ったとは、気付ていないクロスとクロウは。

 何度も、剣をぶつけ合った。

 クロスが、クロウの剣を弾き飛ばすと、クロウは後退し、固有技・ダークネス・ベローズを発動する。

 蛇腹剣と化し、クロスに襲いかかった。


「っ!!」


 クロスは、回避するが、剣は、壁を切り裂く。

 それも容赦なくだ。


「クロウ、やめろ!!このままだと、家が崩れるかもしれないんだぞ!!」


「構うものか!!」


 クロスは、クロウを制止させる。

 このままでは、家が崩れてしまう事を懸念して。

 それでも、クロウは、戦いを止めるつもりは、毛頭ない。 

 どうなろうと、構わないのだ。


「そうまでして、お前は……」


 クロスは、悟った。

 クロウは、自分を犠牲にしても、全てを犠牲にしても、ルチアを守り抜こうとしているのだと。

 ルチアを大事にしているのは、クロスも同じだというのに、なぜ、道を違えてしまったのだろうか。

 クロスは、今の状況を嘆いた。


「全力で、食い止めるしかないな。けど……」


 クロスは、覚悟を決めたようだ。

 全力で止めなければならないと。

 だが、今の場所は、狭く、クロウが、家を破壊してしまいかねない。

 クロスは、島の民を巻き込むつもりなどない。

 そのため、クロスは、クロウに背を向け逃げ始めた。


「逃がさない!!」


 クロウは、クロスを逃すまいと固有技を発動する。

 剣は、クロウの背後にいくつも、出現した。

 まるで翼のように。

 クロウは、発動した固有技の名は、ダークネス・ウィングと言う。

 この技により、クロウは、一時的に飛ぶことが可能となる。

 クロウは、飛んで、クロスを追いかけようとしているようだ。

 それでも、クロスは、クロウから逃げた。

 人気が少なく、被害があまり出ない場所へと向かう為に。


――クロウは、どうして、俺を……。もし、宝石を奪われたくないなら、逃げればいいのに……。


 クロスは、思考を巡らせる。

 なぜ、クロウは、自分と戦いだすと言いだしたのか。

 もし、宝石を奪われたくないのであれば、ここから、逃げればよかったのだ。

 戦うことになれば、宝石を奪われてしまう可能性だってある。 

 ゆえに、クロスは、クロウの意図が読めなかった。

 クロウは、クロスに向かって剣を飛ばす。

 剣が自分の方へと飛んできていることに気付いたクロスは、うまく回避した。

 本当に、自分を殺そうとしているかのようだ。

 なぜ、そこまで、してなのだろうか。

 もし、自分達が、戦っていると知れば、ルチアも、ヴィクトル達も、クロウを咎めるであろう。

 何一つ、メリットなどない。

 クロスは、そう、推測していた。 

 その時であった。


――まさか、あいつ!!


 クロスは、気付いてしまったようだ。

 クロウが、なぜ、自分に刃を向けたのかを。

 だが、クロウは、いくつもの剣をクロスに向けて飛ばす。

 クロスは、振り向き、固有技・レイディアント・ウィングを発動し、全ての剣をたたき落とす。

 だが、それだけではない。

 クロスは、クロウに迫り、クロウの首に剣をつきつけた。


「っ!!」


 剣をつきつけられたクロウは、硬直する。

 まさか、クロスが、反撃するとは、思いもよらなかったようだ。

 それも、全力で。

 ゆえに、隙を作ってしまったのだろう。


「クロウ、聞きたいことがある」


「なんだ?何を言っても、俺の意志は、変わらないがな」


 クロスは、クロウに尋ねようとする。

 だが、クロウは、何があっても、自分の意思を曲げるつもりはないと、断言した。


「お前、わざと悪役になろうとしてないか?」


「何?」


「お前が、俺を傷つけたとみんなが知れば、裏切り者扱いされる。そうすれば、お前は、孤立だ。孤立して、皆を巻き込まないようにするためじゃないのか?」


「っ!?」


 クロウが、クロスに剣を向けた理由は、わざと、自分が、裏切ったとルチア達に思い込ませるためだ。

 そうすれば、クロウは、孤立するであろう。

 孤立したうえで、単身、島に乗り込むつもりだ。

 ルチア達が、自分を助けに来ることもなくなる。

 彼らが巻き込まれることはないのだ。

 そのために、クロウは、わざと感情を押し殺した上で、クロスに刃を向けたようだ。

 クロスに理由を当てられたクロウは、驚愕する。

 どうやら、クロウの考えている事は、本当のようであった。


「な、なぜ……」


「わかるよ、お前の考えてることなんて」


 クロウは、なぜ、自分の考えが、読まれているのか、理解できないらしい。  

 だが、クロスにはわかる。

 クロウの双子の弟なのだから。

 全てを見透かされたクロウは、体を震わせた。


「そうだ!!みんなを巻き込まないためだ!!矛盾してる事は、わかってる。でも、こうするしかない」


「だから、なんで、そうやって、一人で背負い込むんだ!!」


 クロウは、自分の意図を打ち明けた。

 声を荒げて。

 クロスを傷つけてでも、島の民を巻き込んでも、やり遂げようとしている事は、明らかに矛盾している事はわかっている。

 だが、クロウは、ルチアだけでなく、クロス達も守ろうとしたのだ。

 クロスは、怒りをクロウにぶつける。

 どうして、いつも、一人で、背負い込もうとするのかと。


「お前が、ルチアの事を、俺達の事も、大事に思ってくれてるのは、わかってる!!けどな、このやり方は、間違ってるんだよ!!」


「黙れ!!」


 クロスは、クロウの考え方を真っ向から否定する。

 クロウは、怒りに駆られ、我を忘れたかのように剣を振るい、魔法・シャドウ・ショットを発動する。

 闇の弾が、クロスを襲った。


「ぐっ!!」


 闇の弾に直撃したクロスは、苦悶の表情を浮かべ、膝をつく。

 ダメージを受けたようだ。

 クロウは、クロスに、容赦なく、迫り、剣を振り上げた。


「悪いな。クロス」


「クロウ……」


 クロウは、クロスに向かって剣を振りおろそうとする。

 だが、その時だった。


「やめて!!クロウ!!」


「っ!!」


 ルチアの叫び声が聞こえる。

 クロウは、アジトの方へと視線を移す。

 なんと、ルチアが、ヴィクトル達と共に向かっているのが見えた。


「る、ルチア……」


「今だ!!」


 クロウは、動揺している。

 予想していなかったからだ。

 ルチアが、ここに来ることなど。 

 だが、おかげで、隙が生まれ、クロスは、すぐさま、立ち上がり、クロウの剣を弾き飛ばした。


「ぐっ!!」


 クロウは、バランスを崩し倒れる。

 剣が弾き飛ばされたのと同時に、ルチアの宝石が、クロウの手から飛び出てきた。


「しまった!!宝石が!!」


 クロウは、ルチアの宝石を手に持っていたようだ。

 もしかしたら、迷っていたのかもしれない。

 クロスに返そうかと。

 だからこそ、宝石を手に持っていたのだろう。 

 宝石は、地面に落ちる。 

 だが、その時だ。

 運悪く、クロウの剣が宝石に突き刺さってしまった。


「っ!!」


 剣が宝石に刺さったのと同時に、ルチアは、目を見開き、前のめりになって倒れてしまった。


「ルチア!!」


 クロスとクロウは、ルチアの元へと駆け寄る。

 ルチアは、目を見開いたまま、動かなくなってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る