第四十一話 助けたければ

「動けば、こいつ、殺すぜ?」


 帝国兵は、ルチア達を脅す。

 動けば、エマを殺すつもりだ。

 彼らは、本気なのだろう。

 ゆえに、ルチア達は、動きことができなくなってしまった。


「どうして、エマを!!」


 ルチアは、帝国兵に問いただす。

 もし、自分が、狙いだというのであれば、自分を捕らえればいいだけの話だ。  

 エマは、関係ないというのに。

 ゆえに、彼らの真意が読めなかった。


「こいつは、俺達を騙してたからさ。罰を与えないとな。さらわせてもらうぜ」


「やめて!!罰なら、私が、代わりに」


「駄目だ!」


 帝国兵は、エマが、自分達を騙していたからだと告げる。

 確かに、エマは、ルチア達の正体を知らず、かくまっていた。

 帝国兵達に問いただされても、知らないと言い放ったのだ。

 もちろん、嘘ではない。

 だが、帝国兵に、それは、通用しないのだろう。

 ルチアは、自分が、代わりに罰を受けると言うが、帝国兵が、拒絶する。

 ルチアは、怒りを露わにし、拳を握りしめた。


「と、言いたいところだが、いいだろう」


「え?」


 しかし、帝国兵達の態度が、突如、変わる。

 何かを企んでいるようだ。

 ルチアは、あっけにとられ、驚いていた。


「明日までに、洞窟に来い。もちろん、一人でな」


「なっ!!」


 なんと、帝国兵は、自分達の拠点である洞窟に来いと言うのだ。 

 それも、ルチア、一人で。

 誰もが、驚き、動揺を隠せなかった。


「ルチア、これは、罠だ」


「そうだ。もし、一人で行ったら」


 クロスとクロウは、反対する。

 ルチアは、一人で、洞窟に向かうつもりだと、悟っていたからだ。 

 共に過ごしてきた二人だ。

 ゆえに、ルチアが、何を考えているか、わかっていた。

 しかも、二人は、帝国兵が、罠を仕掛けてくると悟っているようだ。

 洞窟には、妖魔が、多数いる。

 一人で行けば、ルチアは、殺されてしまうだろう。

 二人は、それを懸念したのだ。

 しかし……。


「なら、こいつと海賊の男はいいのか?」


「っ!!」


 ルチア達は、絶句する。

 なんと、ヴィクトルも、とらわれているというのだ。

 誘拐事件を起こしていたのは、やはり、帝国の奴らだった。

 しかも、行かなければ、ヴィクトルとエマは、殺されるだろう。

 つまり、ルチアが、選べる道は、一つしかなかった。


「いいというのであれば、罰を受けてもらうだけだ。死と言う罰をな」


「……」


 帝国兵は、さらに脅す。

 ルチアが、一人で行かないというのであれば、二人は、殺されてしまう。

 拒否権は、ない。

 ルチア達は、何も、言えずにいた。


「じゃあな!!」


「待って!!」


 帝国兵は、エマを連れて、去ってしまう。

 ルチアは、エマを助けだそうとするが、帝国兵は、再び、妖獣を召喚し、ルチア達は、立ち止まった。

 

「邪魔しないで!!」


 ルチア達は、一斉に、妖獣を蹴散らし、消滅させる。

 しかし、すでに、帝国兵とエマの姿は見当たらなかった。


「エマ……」


 ルチアは、歯を食いしばり、拳を握りしめる。

 悔しかったのだ。

 エマを守る事ができずに。

 


 ルチア達は、すぐさま、フィスとカトラスの家に戻り、作戦会議を始めた。


「これは、さすがに、参りましたね……」


「まさか、こんな展開になるなんてな……」


 フォルスは、頭を抱える。

 さすがに、参っているのであろう。

 ヴィクトルが、さらわれたなどと、考えたくなかった。

 正直、まさかとは、思っていたが。

 だが、ヴィクトルがさらわれるなど、あり得るはずがないと推測していた。

 それほど、ヴィクトルを信頼していたのだ。

 ルゥも、同じであり、混乱しているらしい。

 どうやって、二人を助けだすべきなのか、答えが、見いだせない。


「どうする?フォルス」


「……」


 ジェイクは、フォルスに尋ねる。 

 正しい答えを見いだせるのは、フォルスだと判断したのだろう。

 だが、フォルスは、黙ってしまった。

 答えが出せていないからだ。

 ルチアを一人で行かせるわけにはいかない。

 彼女は、唯一の希望なのだから。

 だが、ルチアが、一人で行かなければ、ヴィクトルも、エマも、殺されてしまう。

 いや、二人だけでなく、今まで、さらわれた島の民も殺される可能性が高いだろう。

 そう思うと、フォルスは、答えが出せなかった。


「私、一人で行く」


「え?」


 ルチアは、一人で、洞窟に向かうと宣言する。

 クロスは、戸惑うが、ルチアの決意は固い。

 覚悟を決めているようだ。


「そうすれば、ヴィクトルさんも、エマも、助けられるよね?」


 ルチアは、自分が、行くことで、ヴィクトルも、エマも、助けられると考えている。

 ならば、彼女が選ぶ道は、たった一つしかなかった。


「駄目だ。罠に決まってる」


「俺も、賛成できない」


 クロウもクロスも、反対する。

 特に、クロウは、厳しくだ。

 当然であろう。

 危険すぎる。

 ルチアの身にもしもの事があるかもしれない。

 ゆえに、賛成などできなかった。

 ルチアを一人で行かせるわけにはいかなかった。


「わかってる。罠だってことは、でも、二人が……」


 もちろん、ルチアも、わかっている。

 罠だということくらい。

 だが、自分が、行かなければ、ヴィクトルも、エマも、殺されてしまう。

 ゆえに、ルチアは、覚悟を決めていたのだ。

 命に代えても、二人を助けると。

 誰も、賛成できず、沈黙が続いた。


「少し、考えさせてもらえませんか?正直、今は、判断できませんので……」


「うん、わかった……」


 フォルスは、時間が欲しいと懇願する。

 迷っているのだ。

 どうすればいいのか。

 ルチアも、静かにうなずいた。

 今は、最善の方法を考えるしかないのだと。

 


 だが、時間が経つばかりで、最善の方法が見つからない。

 明日、決めなければならないのだ。

 かといって、ルチア達に負担をかけることもできず、一度、ルチア、クロス、クロウを休めることにしたフォルス。

 ルゥとジェイクは、部屋に残った。


「なぁ?どうするつもりだよ」


「このままだと、まずいんじゃない?」


「……そうですね」


 ルゥとジェイクは、フォルスに問いかける。

 もちろん、二人も、考えていないわけではない。

 彼らも、答えが見いだせないのだ。

 ヴィクトルが、いない今、フォルスだけが頼りだ。

 彼の右腕であるフォルスなら、答えを見つけられる気がして。

 しかし、フォルスも、困っていた。

 どうするべきなのか……。


「はぁ、どうしたらいいのでしょうか……」


 フォルスは、思わず、ため息をついてしまった。

 こんな時、ヴィクトルなら、どうするだろうかと、考えて。

 だが、考えても、答えなど出なかった。

 その時だ。

 ドアが勝手に開いたのは。

 ドアを開けて、部屋に入ってきたのは、なんと、クロウであった。


「おや?どうされました?」


「話があるんだ」


「どうぞ」


 フォルスにとってクロウが、部屋に入ってきたことは意外だ。

 彼は、ルチアを守るために共に部屋に入ったはずなのだから。

 クロウは、話があるらしい。

 何の話だろうか。

 もしかしたら、明日、いい作戦が浮かんだのだろうか。

 フォルスは、クロウを部屋に入らせ、椅子に座らせた。


「明日の事だが、やはり、ルチアは、一人では行かせられない」


「私も、そう思っております。ですが、方法が……」


 クロウは、ルチアを一人で行かせるつもりはない。

 と言いに来たようだ。

 もちろん、フォルスも、同意見だ。 

 だが、従わなければ、ヴィクトルとエマの命はない。

 ゆえに、いい案が浮かばず、フォルスは、頭を悩ませていた。


「方法ならある」


「え?」


 クロウ曰く、いい案があるというのだ。

 これには、フォルスも、驚きを隠せない。

 一体、どのような案があるというのだろうか。


「気付かれずに、侵入すればいいだけだろ?いつもの方法で」


「……なるほど。その手がありましたね」


 クロウは、気付かれずに、自分達が、洞窟に侵入すれば問題ないという。

 しかも、いつもの方法でと。

 フォルスは、クロウが何が言いたいのか、悟ったようで、微笑んだ。

 どうやら、いい案が浮かんだらしい。

 クロウは、自分の案をフォルスに説明した。



 ヴィクトルは、洞窟の中にある牢に閉じ込められているようだ。

 周りを見ると洞窟内は、水が流れている。

 やはり、水の洞窟にさらわれたようだ。

 ヴィクトルは、古の剣を奪われたため、鉄格子を破壊することができない。

 だが、どうやって、脱出しようか、考えていた。 

 その時だ。

 足音が聞こえたのは。

 足音が大きくなる、こちらに、近づいていくるようだ。

 ヴィクトルは、静かに見上げると、すでに、一人の女帝国兵が、ヴィクトルの前に立っていた。


「へぇ、抵抗しないのね。意外だわ」


「そうか?」


 女帝国兵は、ヴィクトルを見下すように語りかける。

 それでも、ヴィクトルは、平然としていた。

 まるで、余裕があるかのように。 

 女帝国兵は、それが、腹立たしかった。


「やっぱり、お前だったんだな。ここのリーダーは。なぁ、エマ?」


「そうよ。あたしが、リーダーのエマよ。海賊の船長、いいえ、火の騎士・ヴィクトル」


 ヴィクトルは、衝撃的な言葉を口にする。

 なんと、女帝国兵の正体は、エマだったのだ。

 しかも、リーダーだったらしい。

 エマは、不敵な笑みを浮かべた。

 まるで、悪女のように。

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