第四十話 行方不明になった彼を探して

 時間が経ち、朝になる。

 ルチア達は、まだ、知らないのであろう。

 ヴィクトルに異変が起こり、巻き込まれた事を。

 ルチアは、あくびをしながら、部屋に入った。


「おはよう……」


 ルチア以外の者は、全員、部屋に集まっていたらしい。

 ルチアが、最後に起きたようだ。

 ルチアは、挨拶をするが、雰囲気が暗い。

 まるで、何かが起こったようだ。

 だが、何が起こったのかは、不明であり、ルチアは、不安に駆られた。


「本当に、知らないのかよっ!」


「すみません。探したのですが……」


「心配、だね……」


 ルゥが、フォルスに問いただしているようだ。

 だが、フォルスは、何も知らないらしい。

 困惑しており、頭を抱えている。

 ジェイクも、深刻そうな表情を浮かべていた。


「どうしたの?」


「ヴィクトルが、いないらしい」


「え?」


 ルチアが、クロスとクロウの元へ歩み寄りながら、尋ねる。

 すると、クロウが、衝撃的な言葉を口にした。

 なんと、ヴィクトルが、いないというのだ。

 ルチアは、驚き、あっけにとられた。


「探したらしいけど、見つかってないんだ」


「そ、そんな……」


 クロスも、説明する。

 フォルスは、くまなく探したが、ヴィクトルの姿は、見つけられなかった。

 まさか、誘拐事件に巻き込まれたのではないか。

 ルチアは、そう思うと、居てもたっても居られなくなった。


「私、ちょっと、探してくるね!」


「お待ちなさい!!」


 ルチアは、思わず、部屋を飛び出してしまう。

 信じられないのだろう。

 ヴィクトルが、誘拐されたなど。 

 あのヴィクトルが、さらわれるはずがない。

 ゆえに、ルチアは、ヴィクトルを探しに、家を出てしまった。

 フォルスが、制止しようとしても。



 ルチアは、村中を駆け巡る。

 だが、ヴィクトルは、どこにもいない。

 ルチアは、エマの家の前に立ち、息を切らしている。

 本当に、ヴィクトルが、さらわれたのではないかと不安に駆られながら。

 クロス達も、ルチアの元へ駆け付ける。

 あの後、ルチアと共に探したのだが、やはり、見つからなかったのだ。 

 その時であった。


「ルチアちゃん?」


「エマ……」


「どうしたの?顔、真っ青よ」


 エマがルチアに声をかける。

 ルチアは、顔を上げるが、顔色はよくない。

 ゆえに、エマは、察知したのだ。

 何かあったのではないかと。


「ねぇ、エマ。ヴィクトルさん、知らない?」


「え?ヴィクトルさん?」


「うん」


「さ、さあ?私は、知らないわ。心配ね……」


 ルチアは、藁にも縋る思いで、エマに尋ねる。

 エマは、ヴィクトルが、どこにいるのか、知っているのではないかと。

 だが、エマは、困惑しながらも、知らないと答える。

 まるで、何かを隠しているかのようだ。

 フォルスは、彼女の異変を見逃さなかった。


「エマさん、本当に、知らないんですか?」


「え!?ええ」


「フォルスさん?」


 フォルスが、エマに問いかける。

 エマは、思わず、驚くが、それでも、平然を装った。

 ルチアは、動揺する。

 まるで、フォルスが、エマを疑っているようだ。

 なぜ、フォルスが、エマを疑っているのか、見当もつかなかった。

 それでも、フォルスは、エマをにらんでいた。


「……あのさ」


「な、何かしら?」


「真実を話しなよ。君、何か知ってるんでしょ?」


「え?」


「ふぃ、フィス様?」


 フィスでさえも、エマを疑っているようだ。

 何かを隠していると。

 これには、ルチアも、驚きを隠せない。

 おそらく、ルチア以外が、エマを疑っているのだろう。

 クロスとクロウも、エマを警戒している。

 彼女に助けられたというのに……。


「……」


「答えろ」


 エマは、ただ、黙っている。

 答えられないのだろうか。

 カトラスは、さらに、エマを問い詰めた。

 しかし……。


「ま、待ってください。エマは、何も知らないと思います!だから……」


「ルチアちゃん……」


 ルチアが、エマの前に出て、説得を試みる。

 まるで、エマをかばっているようだ。

 エマを信じているのだろう。

 エマは、誘拐事件にかかわっていないと。

 本当に、ヴィクトルが、どこにいるのか、知らないのだと。

 エマは、心配そうな表情を浮かべている。

 自分のせいで、ルチアが、孤立してしまわないかと。

 だが、その時であった。


「きゃあああああっ!!」


「っ!!」


 突如、女性の叫び声が響いた。

 ルチア達は、驚愕し、当たりを見回す。

 奥の方で、女性や男性が、妖獣に囲まれていた。

 しかも、帝国兵が、追い詰めるように。


「妖獣!!」


「なんで?」


 クロスは、目を見開く。

 突如、妖獣が現れたからであろう。

 ルチアも、驚きを隠せない。

 なぜ、突如、妖獣が現れたのだろうか。

 誰にも、理解できなかった。


「俺達に逆らった罰だ!!」


「徹底的にやれ!!」


 帝国兵が、妖獣を召喚した理由は、自分達に逆らったからだというのだ。

 なんとも、身勝手な理由だろうか。

 腹立たしく感じる。

 帝国兵達は、妖獣達に命じた。

 彼らを襲わせるために。

 妖獣達は、一斉に、島の民に襲い掛かった。


「い、いやああああっ!!」


「だ、誰か!!」


 島の民は、一斉に逃げ惑う。

 泣き叫びながら、四方八方に。

 家の近くにいたものは、すぐさま、家に駆けこむ。

 子供は、転び、膝に擦り傷を負ってしまったようだ。

 痛みと恐怖で、泣き叫び始めた。

 村は、一瞬で、戦場と化したかのように、豹変した。


「こんな時に!!」


 フォルスは、珍しく、怒りを露わにしている。

 あの冷静な彼が。

 島の民を恐怖に陥れようとしていることと、エマを問いただそうとしていたのに、それを邪魔された事が、原因であろう。

 これでは、エマを取り逃がしてしまう可能性がある。

 ましてや、ルチア達の正体が、ばれてしまう可能性があるのだ。

 だが、島の民を見殺しにできるはずもなく、フォルスは、困惑した。

 しかし、彼が、命じる前に、ルチアが、動き始めた。


「ルチア!!」


 クロス、クロウも、ルチアの後を追う。

 ルチアを守るためだ。

 フォルスは、彼らを止めることができなかった。


「……仕方がありませんね!!」


 フォルスは、ため息をつきながら、ルチア達の後を追う。

 ルゥ、ジェイクも、フォルスに続いた。

 仕方がないと判断したのだろう。

 このままでは、島の民は妖獣に殺される可能性があったから。

 逃げ惑っていた女性が、転倒してしまう。 

 その間に、妖獣は、女性に迫っていた。


「せいやああっ!!」


 ルチアは、叫びながら、妖獣に蹴りを入れる。

 妖獣は、吹き飛ばされたが、ルチアは、さらに、妖獣に迫っていき、魔法・ブロッサム・ショットを発動する。

 華のオーラの弾は、妖獣に、ヒットし、妖獣は、消滅した。

 だが、ルチアの攻撃は、ここで、終わるわけがない。

 ルチアは、次々と、妖獣を蹴り飛ばし、島の民を守った。

 妖獣を吹き飛ばしたルチアは、帝国兵の元へ、向かっていく。

 妖獣が、ルチアに襲い掛かるが、ルチアは、飛び蹴りをしながら、妖獣達を蹴散らし、帝国兵の元へたどり着く。

 帝国兵は、ルチアに向かって、剣を振るうが、ルチアは、サマーソルトを放ち、帝国兵達を吹き飛ばした。


「な、なんだ、貴様!!」


「何者だ!!」


 帝国兵達は、驚いているようだ。

 逆らう者はいないと思っていたのに、蹴り飛ばされたのが、信じられないのだろう。

 ルチアは、自分が、何者かを名乗るつもりはない。

 あくまで、正体を隠し通すつもりだ。

 だが、その時であった。


「ヴァルキュリアですよ。彼女は」


「何!?」


 クロス達が、ルチアの元へ駆け付ける。

 しかも、フォルスは、ルチアの正体を明かしたのだ。

 いや、明かすしかないと思ったのだろう。

 ルチアが、ヴァルキュリアだと知り、帝国兵達は、驚愕した。


「ごめん、私……」


「謝るな、ルチア」


「うん。俺達も、許せないと思ってたところだからさ」


「ありがとう」


 ルチアは、クロス達に謝罪する。

 申し訳ないと思ったのだろう。

 自分が、我慢できずに、帝国兵に立ち向かった事で、また、ルチアの正体を明かすことになったのだから。

 だが、クロウも、クロスも、ルチアを咎めるつもりはない。

 耐えられなかったからだ。

 傲慢な帝国兵達が、許せずに。

 ルチア達は、地面を蹴り、向かっていく。

 帝国兵達は、妖獣達を召喚するが、ルチア達が負けるはずがない。

 そのまま、一気に、妖獣達を蹴散らしていく。

 妖獣達は、次々と消滅し、全滅した。


「そ、そんな……」


「さあ、観念しなさい!!」


 帝国兵を追い詰めたルチア達。

 帝国兵は、もう、四面楚歌状態だ。

 当然であろう。

 島の民達も、武器を構えていたのだから。

 帝国に、刃向う決意ができたのだ。

 ルチアのおかげで。

 帝国兵は、追い詰められ、もう、観念するしかない。

 ルチア達は、そう、推測していた。

 しかし……。


「って、言うと思ったか?」


「え?」


 帝国兵が、不気味な笑みを浮かべ始める。

 ルチアの背筋に悪寒が走り、嫌な予感がした。

 その時であった。


「きゃあああああっ!!」


「っ!!」


 後ろから、エマの叫び声が聞こえる。

 ルチア達は、振り向くと、エマが、帝国兵の腕で首を絞められかけていた。

 帝国兵は、もう一人いたのだ。

 ルチア達が、妖獣達の相手をしている間に、エマの背後に忍び寄り、拘束したのだろう。

 

「うっ……」


「エマ!!」


「動くな!!」


 ルチアは、エマの元へ向かおうとするが、帝国兵が、エマの首にナイフを近づけた為、動けなくなってしまった。

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