第三十八話 心優しき少女

 水色の髪の少女は、ルチアを助けてくれたようだ。

 彼女は、精霊のようだ。


「あの、ここは……」


「ウォーティス村よ」


「ウォーティス村……来れたんだ……私」


 ルチアは、偶然にも、ウォーティス島にたどり着いたようだ。

 これも、少女のおかげであろう。


「えっと、私……」


「覚えてない?あなた、浜辺で倒れてたのよ?」


「そうなんですか?」


「ええ。波が荒れててたから、何があったんだろうって思って」


 ルチアは、自分の身に何が起こったのか、理解できていないらしく、混乱しているようだ。

 ルチアの様子を見た少女は、優しく説明する。

 ルチアは、浜辺で倒れており、偶然にも、少女が、助けてくれたようだ。

 波が大荒れだったことで、異変を察知し、浜辺に向かったらしい。

 そこで、ルチアを見つけてくれたようだ。

 さすが、精霊と言ったところであろう。

 彼女がいなかったらと思うと、ルチアは、ぞっとした。

 妖魔に見つかって殺されてたかもしれないのだから。


「あ、ちょっと、待ってね」


 少女は、部屋を出る。

 一体どうしたのだろうか。

 少し、時間が経つと、少女は、ドアを開けた。

 すると、部屋に入ってきたのは、少女だけではない。

 クロス、クロウも、部屋に入ってきたのだ。


「ルチア!!」


「クロス!!クロウ!!」


 クロスとクロウが、慌てて、ルチアの元へ駆け寄る。

 心配したのだろう。

 ルチアが、浜辺で倒れ、意識を失ったのだから。

 少女の話を聞いて、すぐさま、駆け付けてくれたようだ。


「大丈夫か?」


「う、うん」


 クロウが、ルチアの身を案じ、ルチアは、うなずく。

 ルチアの状態を見る限り、どこも、怪我はない。

 異変もないようだ。

 それを察した二人は、安堵した。

 よほど、心配していたのだろう。

 だが、ルチアは、驚いている。

 まさか、クロスとクロウと合流できるなど思ってもみなかったのだ。

 海に放り出されたのは、ルチアだけだったから。


「二人も、浜辺で倒れてたの。貴方を守るようにね」


「そうだったんだね、ありがとう」


 少女曰く、クロスとクロウも、浜辺で倒れていたらしい。 

 ルチアを助ける為に、海に飛び込んだようだ。

 ルチアは、そう察し、二人にお礼を言う。

 二人は、微笑んでいた。


「貴方が、見つけてくれたんですよね?」


「ええ」

 

「運んでくれたんですか?」


「そうよ。大変だったんだから」


「あ、ありがとうございます」


「でもまあ、村の人を呼んだんだけどね」


 ルチアは、少女に尋ねる。

 少女は、自分達を運んでくれたようだ。

 見た目からして、ルチアよりは、年上のように思える。

 だが、とてもじゃないが、三人を運べるほどの力はないように見えた。

 ちなみに、少女は、ルチア達を発見した際、安全な場所へと運び、その後に、島の民を呼び、ルチア達を、ウォーティス村まで、運んでもらったようだ。

 それでも、感謝してもしきれなくらいだ。

 彼女は、ルチア達の恩人なのだから。

 そのため、彼女の為に、島を救いたいと願うルチアであった。


「ルチアって言います。貴方は?」


「エマよ。よろしくね。ルチアちゃん」


 ルチアは、自己紹介をする。

 もちろん、クロスとクロウから、聞いているかもしれないが。

 少女も、自己紹介する。

 彼女の名は、エマと言うらしい。


「それで、ここに来た理由、教えてくれる?」


「え?」


「だって、ここに来る事は、不可能なのよ。帝国兵が、監視してるし。商人以外はね」


「えっと……」


 エマは、鋭い質問をルチア達にぶつける。

 違和感を覚えたのだろう。

 ウォーティス村は、帝国兵に監視されている。

 しかも、島の外は、妖魔が徘徊している。

 ゆえに、ここを訪れる事は、不可能なのだ。

 訪れようと思う者もいるはずがない。

 帝国に認められた商人以外は。

 エマは、ルチア達の事を商人と思えないのだろう。

 だから、尋ねたのだ。

 ルチアは、困惑し、戸惑った。

 どう答えたらいいか、わからずに。


「商人だ。俺達は」


「さっき、言っただろ?」


「そうだったわね。ごめんなさい。こんなかわいい子が、商人だ何んて、想像もつかないから」


 クロウが、ルチアの代わりに答える。

 クロスも、苦笑しながら、答えた。

 ルチアが、目覚める前に、二人は、説明していたようだ。

 もちろん、嘘ではあるが。

 エマも、一度は、納得したらしい。

 だが、ルチアが、商人とは、思えず、疑ってしまったようだ。


「帝国の事は、心配しないで。まだ、気付いてないから」


「あ、ありがとうございます」


 エマは、ルチア達に告げる。

 ルチア達は、許可証を持っていない。

 ゆえに、不法侵入も同然だ。

 だが、幸い、帝国兵は、ルチア達が、ウォーティス村に入った事は、知らないらしい。 

 それを聞いたルチアは、安堵した。


「よかったら、ここを好きに使ってね。大丈夫、帝国の奴らには、何も言わないわ」


「ありがとうございます。エマさん」


「エマでいいわ」


 エマは、ルチア達をかくまってくれるらしい。

 帝国兵に、報告する事もしないようだ。

 ルチアは、エマにお礼を言うと、エマは、微笑んだ。

 彼女は、味方になってくれるらしい。

 ルチアとも、仲良くしてくれるようだ。

 そう思うと、クロスとクロウは、安堵していた。

 少しでも、休める場所が確保できたのだから。


「少し、外に出てもいいか?」


「ええ、いいわよ。でも、気をつけてね」


「わかった」


 クロウが、エマに尋ねる。

 外の様子を確かめるためだ。

 二人は、まだ、外に出ていない。

 それほど、ルチアの事が、心配だったのだろう。

 エマは、許可した。


「ルチア、行ける?」


「あ、うん」


 クロスは、ルチアを気遣う。

 ルチアは、うなずき、ベットから降りた。



 ルチア達は、エマの家を出て、村の様子を確かめる。

 だが、ファイリ島と同様、帝国が、支配されていた。

 帝国が監視しており、島の民は、生気を失っているかのような表情をしている。

 ルチア達は、正体が、ばれない様に、ファイリ島で、ヴィクトルからもらったフードをかぶり、顔を隠した。


「やっぱり、ここも、制圧されてるんだね」


「そうだな……。それに、誘拐事件が、起きてるようだ」


「何とかしないとな。だが、ヴィクトルさん達と合流しないと……」


 ルチア達の予想通り、帝国の支配を受けている。

 ウォーティス村は、ヴィクトル達の言った通り、湖の中に村がある。

 本来なら、その美しさを堪能したいところだ。

 だが、どう見ても、その美しさを帝国が奪っているように思える。 

 ルチアは、それが、許せなかった。

 しかも、ここ最近、誘拐事件が起きているというのだ。

 どこにさらわれたかは不明。

 だが、帝国が絡んでいるのではないかと、ルチア達は、推測している。

 クロスは、ヴィクトル達と合流し、この事を報告しなければと思っていた。


「ねぇ、どうして、私達、助かったの?私、死ぬかと思ったのに……」


「たぶん、宝石の力だろう」


「え?」


 ルチアは、ある事を思い返す。

 それは、自分が、海の放り出された時の事だ。

 クロスとクロウが、自分を助ける為に、海に飛び込んだのは、察している。

 だが、それにしても、あの荒波の中で、助かったのは、奇跡としか言いようがない。

 ゆえに、ルチアは、不思議に感じた。

 ルチアの問いに、クロウが、答える。

 ルチアが、持っている宝石の力ではないかと。


「ルチアが、海に放り出された直後、宝石が光って、波が、静まったんだ」


「知らなかった……」


 クロスが言うには、ルチアの宝石が、光って、波が静まったおかげで、助かったという。

 確かに、それまでは、クロスも、クロウも、ルチアを助けるのには、苦労した。

 自分達までも危うかったのだ。

 つまり、ルチアは、自然災害を止めたことになるのだろう。


「無意識のうちに、発動したのか、あるいは、宝石が、ルチアの危機を感じて、発動したのか……」


「どちらか、ってことか?」


「ああ」


 クロウは、ルチアが無意識のうちに発動したのか、ルチアの危機を察知して発動したのか、どちらかではないかと、推測しているらしい。

 だが、どちらなのかは、不明だ。

 ルチアでさえも。


「でも、助かってよかったね。エマも、助けてくれたし」


「そうだな」


「……」


 ルチアは、どちらにしても、助かったことには変わりなく、良かったと思っているらしい。

 その上、エマのおかげで、無事に村までたどり着けた。

 ルチアは、エマに感謝しているのであろう。

 クロスも、うなずいているが、クロウは、無言のままだ。

 まるで、何かを警戒しているか、あるいは、考えているかのようだが。

 その時であった。


「だから、違うって言ったじゃないですか!!」


「え?」


 エマの声が聞こえる。

 誰かともめているようだ。

 ルチア達は、エマの元へ急ぐが、クロウが何かに気付き、慌てて、ルチアを止める。

 ルチアも、なぜ、止められたのか、エマの方を見て察した。


「帝国兵……」


 帝国兵達が、エマに問い詰めていたのだ。

 エマは、怖気づくことなく、帝国兵達に反論していた。

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