第二十八話 希望を取り戻して

 ルチア達は、すぐさま、クレイディアの家へ戻る。

 それも、大勢の人や精霊を連れて。

 これには、クレイディアも、バニッシュも、驚きを隠せない。

 事情を説明するルチア。

 すると、クレイディアは、喜んでいた。

 島の民の表情が、活気に満ちているからだ。

 希望を取り戻しているように見えたのだろう。

 ルチア達は、地下へと向かう。

 クレイディアとバニッシュも、ルチア達に、ついていった。


「まったく、こんなにも、集まるとはね」


「さすが、ヴァルキュリアだな」


「ええ」


 クレイディアにとっても、協力者が増えた事は、予想外の事だ。

 だが、実に喜ばしい。

 島が、救われる日も近いと感じるほどに。

 バニッシュも、嬉しそうだ。

 ルチアがいてくれるのならば、本当に、解放されるのではないかと、推測しているのだろう。


「でも、あの子の負担にならないといいのだけれど……」


 クレイディアは、不安に駆られているようだ。

 これが、ルチアの負担になっているのではないかと。

 多くの民が、ルチアに期待している。

 だが、それは、ルチアにとっては、責任重大であり、その負担に押しつぶされてしまわないかと。

 それほど、ルチアの事を大事に思っているようだ。


「大丈夫だ。あの双子が、いるんだからさ」


「そうね」


 バニッシュは、心配していないようだ。

 なぜなら、クロスとクロウがいる。 

 彼らが、ルチアを支えると思っているようだ。

 もちろん、自分とクレイディアも、ルチアの支えになろうと決意している。

 ゆえに、心配していなかった。

 クレイディアも、うなずく。

 ルチアの支えになろうと、改めて、決意して。



 地下に着いたルチア達は、さっそく、作戦会議を開く。

 ヴィクトルが、島の民から、情報を求めると、民が、口々に話し始めた。


「なるほど、正面突破は、難しいという事か……」


「妖魔は、うろついてやがるし、あれじゃあ、中にも入れやしねぇ」


「そうか……。裏から回り込めるな。そこはどうだ?」


「大丈夫だと思うけど……」


 島の民曰く、正面突破は、不可能らしい。

 なぜなら、妖魔が、入口でうろついているからだ。  

 だが、侵入ルートは、一つだけではない。

 裏から回り込むことができるらしい。

 男性は、大丈夫だと告げる。

 だが、自信がないようだ。

 もしかしたら、警戒して、妖魔を配置させた可能性もあるからであろう。

 ちなみに、帝国兵と妖魔は、山頂にいるらしい。


「なら、ここを牛耳る帝国兵のリーダーと妖魔を教えていただきませんか?」


「名前は、わからんが、属性は、わかる。火の属性だ」


 フォルスが、尋ねる。

 帝国兵のリーダーと妖魔の情報を知りたいのだろう。

 核は、彼らが、持っていると踏んでいるらしい。

 ゆえに、彼らの情報は貴重だ。

 ヴィクトル達が、最も、求めている情報と言っても、過言ではないだろう。

 名前は、不明のようだが、彼らの属性は、判明した。


「やっぱりな。で、妖魔は、何型だっ?」


「人型の可能性が高い」


「魔法は使ってなかったんだね。なるほど、なるほど」


 ルゥは、推測していたようだ。

 当然であろう。

 火山の山頂にいるという事は、火の耐性があるという事、つまり、火属性の者と言う事だ。

 さらに、妖魔は、人型らしい。

 これだけでも、十分価値のある情報だ。

 ジェイクも、微笑んでいる。

 妖魔に対抗するための作戦が立てられるからであろう。


「他になにか情報はあるか?」


「……いや、わかるのは、これくらいだ」


「で、でも、俺達も行くぜ!!」


 ヴィクトルが、情報を求める。

 だが、これ以上は、ないらしい。

 それでも、島の民は、自分達も、帝国兵がいる火山に突入すると、宣言した。

 自分達で、島を取り戻したいのだろう。


「いや、今回は、俺達だけでいく。クレイディアとバニッシュは、来てもらうがな」


「なんでだよ!!俺達が、足手まといだからか?」


 ヴィクトルは、海賊とルチア、クロス、クロウ、そして、シャーマン候補とそのパートナー精霊であるクレイディアとバニッシュのみで、突入すると断った。

 すると、島の民は、反論する。

 自分達では、足手まといだからかと。

 島の民が、自分達の島を取り戻したい気持ちは、ルチア達にもわかる。

 だが、あまりにも危険だ。

 ヴィクトルの部下でさえも、命を落としているのだから。

 ヴァルキュリアであるルチアが、いるからと言っても、安全であるとは、言いきれない。

 ヴィクトルは、彼らを守るために、断ったのだ。


「いやいや、ここを守る者だって必要だろ?だから、任せたいのさ」


「な、なるほど」


 ヴィクトルは、彼らを不安視させないように、うまく説明する。

 確かに、この島を守る者も必要だ。

 もし、ルチア達が、突入した後、帝国兵が、村に侵入してくるかもしれない。

 そのため、彼らに守ってほしいと頼んだのだ。

 島の民は、納得したようで、落ち着きを取り戻した。


「それで、いいな?ルチア」


「うん、もちろんだよ」


 ヴィクトルは、ルチアに確認する。

 もちろん、ルチアが、断るわけがなかった。


「皆、ありがとう。絶対、助けるから、待っててね!」


 ルチアが、改めて、島の民に語りかける。

 クロス、クロウも、うなずく。

 島の民の不安を取り除くかのように。

 島の民は、笑みを浮かべて、うなずく。

 期待しているのだろう、ルチアの事を。


「明日の朝、決行する。頼んだぜ」


「うん!!」


 こうして、明日、突入することが決定した。

 このまま、もたもたしていると、帝国兵が、いつ、仕掛けてくるか、わからないからだ。

 ルチア達も、異論はなく、うなずいた。



 作戦会議は続き、終わったのは、夜であった。

 ルチア、クロス、クロウは、クレイディアから部屋を借りて、ベッドの上で眠りについた。


「いよいよ、明日か……」


 ルチアは、独り言を呟く。

 もちろん、小声でだ。 

 正直、眠れなかったのだ。

 眠らなければならないのは、わかってはいるが。

 明日は、いよいよ、突入だ。

 成功させなければならない。

 そう思うと、眠れなくなってしまった。


「ドキドキしてきちゃった……」


 ルチアは、寝返りをしながら、呟く。

 だが、やはり、眠れなかった。

 すると……。


「ルチア、眠れないのか?」


 クロスの声が聞こえてくる。

 どうやら、起きてしまったようだ。


「ごめん、起こした?小声で言ったつもりなんだけど……」


「いや、俺も、起きてた。それに、ルチアの事は、だいたいわかる」


「見透かされてるなぁ」


 ルチアは、クロスに謝罪する。

 だが、クロスは、起きていたようだ。

 眠れなかったらしい。

 しかも、ルチアの事ならわかるらしい。

 ルチアは、苦笑した。

 本当に、見透かされている気がして。


「クロウも、起きてるんじゃないのか?」


「その通りだ」


 クロスは、クロウに声をかける。

 クロウも、起きているようだ。

 眠れなかったのだろうか。

 クロウは、冷静だ。

 ゆえに、眠れないなど、珍しい気がしたルチアであった。


「ルチアは、心配するな。俺達が、ルチアを守る」


「うん。ありがとう」


 クロウは、ルチアに、告げる。

 自分達が、守ると。

 だから、心配しなくていいと言いたいのであろう。

 まるで、ルチアの負担を軽減するかのようだ。

 ルチアは、微笑む。

 クロスとクロウ、そして、ヴィクトル達となら、核を取り戻し、島を救えるのではないかと、思えるようになったからだ。

 だが、その時であった。


「きゃあああああっ!!」


「あ、熱い!!」


 突然、ドンと言う音が聞こえた。

 しかも、外から叫び声が聞こえる。

 起き上がった途端、体が熱い。

 まるで、熱風が、襲い掛かったかのような感覚だ。

 何が起こったのか、ルチア達は、見当もつかず、戸惑った。


「なんだ?」


「行くぞ」


「うん!!」


 クロスは、何が起こったのか、わからない。

 だが、クロウは、冷静さを保っているようだ。

 ルチア達は、急いで、外に出た。

 すると……。


「あ、あれは!!」


 外に出た途端、ルチア達は、愕然とする。

 なんと、火山から、火の粉が降り注いできたのだ。

 その火の粉は、家や地面に降り注ぎ、島の民は、逃げ惑う。

 まるで、地獄のようであった。

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