第二十九話 火の粉が村を襲う

 島の民達は、逃げ惑っている。

 家は、燃え、人や精霊にまで、火の粉が飛んでいる。

 人の腕が燃え、精霊が、どうにかして、火の粉を押さえたようだ。


「た、助けてぇえええっ!!」


「熱い!!火が、火があああああっ!!」


 島の民の悲鳴が、聞こえる。 

 なんて、ひどい状況だろうか。

 ルチアは、唖然としている。

 まさか、帝国が、ここまで、卑劣なやり方をするとは、思ってもみなかったのだろう。


「ひどい……助けなきゃ!」


 ルチアは、勢いよく、駆けだしていく。

 島の民から、火の粉を守るためだ。

 火の粉が、次々と、村に向かって飛んでいく。

 そのせいで、被害が増えるばかりだ。

 男の子の元へと火の粉が飛んでいく。

 ルチアは、ヴァルキュリアに変身して、跳躍した。


「せいっ!!」


 ルチアは、オーラをブーツに纏わせて、火の粉に蹴りを入れる。

 オーラで、火の粉を消滅させるようだ。

 しかも、ヴァルキュリアに変身すれば、戦闘能力は上がる。

 火の粉にも、応戦できるであろう。

 ルチアの読み通り、ルチアの蹴りで、火の粉は、消滅した。

 しかし……。


「っ!!」


 ルチアの顔がゆがむ。

 痛みを感じているかのようだ。


――熱いっ!!


 ルチアは、自分の足が熱くなるのを感じる。 

 軽減しているとはいえ、火の粉が、ルチアの足に襲ってきたような感覚だ。

 火山から飛んできた火の粉だ。

 相当の威力があると言ったところであろうか。

 もし、そうだとしたら、火の粉で、火傷を負った島の民は、自分よりも、ひどいやけどを負っているかもしれない。

 そう思うと、居てもたっても居られなかった。

 ルチアは、無我夢中で、駆けだしていく。

 いくつもの火の粉がルチアへと襲い掛かろうとした。

 ルチアは、構える。 

 全て、火の粉を振り払うつもりだ。

 しかし、光のオーラが、刃となって、火の粉を振り落とし、消滅させた。


「ルチア!!」


「クロス……」


 クロスが、ルチアの元へ駆け付ける。

 どうやら、先ほどの光のオーラは、クロスが、放った魔技のようだ。

 ルチアを助けてくれたのだろう。


「無理、するなよ」


「うん」


 クロスは、ルチアを気遣い、ルチアは、うなずく。

 その間に、クロウは、ルチアの周囲の火の粉を振り払い、消滅させたようだ。

 ルチアも、クロスも、続けて、火の粉を振り払い、消滅するために、向かっていった。



 ヴィクトル達も、火の粉を消滅させるために、剣を振るっているようだ。

 だが、振り払っても振り払っても、一向に、火の粉は降り注いでくる。

 これでは、キリがない。

 それでも、ヴィクトル達は、村を守るため、剣を振るうしかなかった。


「フォルス、頼んだぞ!!」


「もちろんですよ!!」


 ヴィクトルは、フォルスに命じる。

 フォルスは、水のオーラを使って、火の粉を消滅させようとしているようだ。

 オーラが、いくつもの弾となって、飛んでいく。

 フォルスが発動したのは、魔法のようだ。

 その名も、スプラッシュ・ショットと言う。

 フォルスが、発動した魔法のおかげで、いくつもの火の粉が消滅した。

 だが、まだまだ、火の粉は、降り注いでくる。

 油断は、禁物だ。


「ジェイク!!」


「わかってるって!!」


 ジェイクも、ヴィクトルに、命じられ、地のオーラを使って、火の粉を防ごうとする。

 火の粉は、瞬く間に、地の檻に閉じ込められた。

 これは、地属性の者でなければ、発動できない魔法だ。

 その名も、スピリチュアル・ケイジ。

 本来なら、敵を閉じ込める魔法ではあるが、それをあえて、火の粉を狙って発動したのだろう。

 檻に閉じ込められた火の粉は宙に浮いていた。


「ルゥ!!」


「こっちは、任せなってっ!」


 ヴィクトルは、続けて、ルゥに命じる。

 ルゥも風のオーラで、火の粉を消滅させようとしているようだ。

 風のオーラは、いくつもの弾となって、火の粉へと向かっていく。

 彼も、フォルスと同様の魔法・ストーム・ショットを発動したようだ。

 ルゥとジェイクの連携により、火の粉は、消滅したが、それでも、キリがない。

 ヴィクトル達は、ほんろうされていた。



 一方、ルチアも、火の粉に蹴りを放って、応戦している。

 だが、蹴る度に、熱さを感じる。

 それも、火傷のような。

 いや、もう、ルチアの足は、火傷していると言っても同然だ。

 ブーツが、焼けたような跡がある。

 尋常ではない痛みに耐えているルチアであったが、大量を汗をかき始めている。

 限界が来ているのであろう。

 だが、火の粉は、ルチアに向かって容赦なく、降り注ごうとしている。

 ルチアは、もう一度、跳躍しようとするが、突如、痛みがルチアを襲う。

 そのせいで、ルチアは、苦悶の表情を浮かべ、よろめき、火の粉が、ルチアに迫っていた。


「危ない!!」


「ルチア!!」


 クロスが、ルチアの危機に気付き、クロウも、後を追う。

 ルチアは、体勢を崩してしまったため、火の粉を振り払う事ができない。

 火の粉は、ルチアに迫っていく。

 クロスが、ルチアの前に立ち、火の粉を振り払うが、数が多すぎて、消滅させることができず、火傷を負ってしまった。

 苦悶の表情を浮かべるクロス。

 それでも、ルチアを守るために、古の剣を振るう。

 だが、火の粉が、クロスの右手に当たり、古の剣を落としてしまった。

 古の剣をとろうとするが、間に合わない。

 このままでは、ルチアも、クロスも、危険だ。

 だが、その時であった。

 クロウが、ルチアとクロスの前に立ち、二人をかばったのは。

 そのせいで、クロウは、体中に重度のやけどを負った。


「っ!!」


「ルチア……クロス……無事か?」


 ルチアが、絶句し、言葉を失う。

 クロウは、肩で息をしながら、ルチアとクロスの身を案じる。

 だが、その直後、クロウが、仰向けになって、倒れようとしていた。


「クロウ!!」


 クロスが、クロウを抱きかかえる。

 だが、クロウの呼吸が弱弱しい。

 このままでは、命を落とすかもしれない。

 クロスは、魔法を発動する。

 クロウを治療するためだ。

 光属性の者しか発動できない魔法だ。

 その名も、スピリチュアル・リフレクション。

 華属性の者も、回復魔法が発動できるが、光属性の者は、瀕死の者でさえも、一瞬で、治すことができるという。

 その間にも、火の粉が、降り注いでくる。

 ルチアは、痛みに耐えて、火の粉を消滅させていくが、キリがない。

 さらに、火の粉の数は、増え、村中に降り注ごうとしていた。


「やめて!!」


 ルチアは、思わず叫ぶ。

 だが、その時であった。

 宝石が、光り始めたのは。


「え?ほ、宝石が……」


 ルチアは、驚愕し、戸惑う。

 だが、宝石の光は、瞬く間に、村中に広がる。

 その光で、火の粉が、一瞬にして、消滅した。


「今のは……何?」


 ルチアは、戸惑う。

 自分は、何もしていない。

 もしかしたら、これが、ヴィクトルが言っていた自然災害を乗り越える力なのだろうか。

 ルチアは、見当もつかなかった。


「た、助かった……」


「でも、さっきのって……」


 もう、火の粉は、降りかかってこない。

 もしかしたら、あの光は、火山まで届いたのかもしれない。

 島の民は、安堵してようだ。

 しかし、突如、火の粉が、降り注いできたのは、帝国の仕業に違いない。

 ルチア達も、そう、推測していた。

 その時……。


「そうだ、我々だ!!」


 男性の声が聞こえる。

 ルチアは、声の方へと視線を向ける。

 すると、火山方面から、鎧を着た男性と妖魔がルチア達の前に現れた。

 あの鎧を着た男性は、昼間うろついていた兵士達とは違う。

 まるで、威厳があるようだ。

 隣の妖魔も、強く、まがまがしさを感じる。

 彼らが、何者なのか、察した。


「帝国……」


「妖魔まで……」


 ルチア、クロスが、怒りを露わにする。

 おそらく、彼らが、仕掛けたのであろう。

 そう思うと、ルチアは、怒りを抑えきれなかった。


「これでわかったであろう?逆らうとこうなると。死にたくなければ、我々の言う事を聞いていろ」


 鎧の男性は、圧力をかけるかのような言葉を吐き捨てる。

 脅しているのだろう。

 逆らえば、命がないと。

 たとえ、ヴァルキュリアであってもだ。


「それと、そこのお前」


「何?」


「お前、ヴァルキュリアだったな?」


「そうだけど……」


 鎧の男性は、ルチアに問いただす。

 彼は、ルチアが、ヴァルキュリアだとわかって、聞いているようだ。

 ルチアは、珍しく、怒りを露わにしながら、うなずく。

 彼は、一体、何が言いたのだろうか。

 見当もつかず、腹立たしくて仕方がなかった。


「我は、ここを支配する者、帝国兵のグロンドだ。で、こっちが、妖魔のバルスコフ」


「そうだ。よろしくな、お嬢さん」


 鎧の男性は、自ら名を名乗る。

 鎧の男性は、グロンドと言うらしい。

 しかも、帝国兵のリーダーのようだ。

 さらに、彼は、妖魔の名前まで告げ得る。

 妖魔の名は、バルスコフと言うようだ。

 バルスコフは、グロンドを咎めることなく、不敵な笑みを浮かべていた。


「ヴァルキュリアよ、これが、欲しければ、来るがいい。我らは、待っているぞ」


「殺すけどな」


 グロンドは、ルチアに、告げる。

 火山に来いと。

 これは、明らかに挑発だ。

 罠を仕掛けているのだろう。

 しかも、バルスコフは、堂々と、殺すと宣言している。

 島の民は、騒然とし始めた。

 グロンドとバルスコフが、現れたことに対して、驚いているようだ。

 だが、それだけではない。

 堂々と、ルチアを挑発した事だ。

 自分達が、負けるはずがないと思っているのだろう。 

 ルチアは、何も言わず、ただ、グロンドとバルスコフをにらみつけた。


「では、また会おう」


 グロンドは、バルスコフと共に背を向けて去っていく。

 それも、高笑いをしながら。

 島の民は、絶望したように、座り込み、ルチアは、愕然としていた。

 あまりにも、卑劣な手口に、怒りを覚えながら。

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