第十話 戦いが終わって

 今日、島全体に衝撃が走る出来事があった。

 まず一つ目は、妖魔が、侵入してきた事。

 結界により、妖魔が、侵入することは、不可能と言われていたのだ。

 それが、いつ、侵入したかは、不明だが、島に妖魔が、現れた。

 だが、けが人は出たが、死者は、出なかった。

 なぜなら、ヴァルキュリアが、誕生したからだ。

 正確に言えば、復活したと言った方がいいのであろう。

 ルチアが、ヴァルキュリアに変身し、妖魔を倒したのだ。

 その話は、全体に、広がり、騒がれることとなった。

 と言っても、当の本人は、気を失ってしまったが。



 ルチアは、気を失った後、家に運ばれた。

 そして……。


「ん……」


「ルチア!」


 意識を失っていたルチアであったが、そっと、目を覚ます。

 視界は、まだ、ぼんやりしている状態だ。

 しかし、クロスが、ルチアの顔を覗き込んでいるのは、わかった。

 クロスは、安堵した表情を見せているようだ。

 クロウも、遠くから、ルチアの様子を見ていたようで、ほっと、胸をなでおろしていた。


「クロス、クロウ……私……」


「あの後、倒れたんだよ。って、俺達も、倒れたんだけど」


「アレクシアが、傷を治してくれたんだ。その後、島の皆が、ここまで、運んでくれた」


「そうなんだ……」


 ルチアは、あの後、何が起こったのか、理解できず、二人に尋ねる。

 クロス、クロウが、ルチアに説明した。

 ルチアは、あの後、自分の家に運ばれたらしい。

 よく見ると、ルチアがいるのは、自分の部屋だ。

 クロウ曰く、アレクシアが、治療し、島の皆が、ここまで、運んでくれたという。

 ルチアは、ようやく、自分に置かれた状況を理解し、ゆっくりと起き上がった。


「ねぇ、皆、無事、なんだよね?」


「うん。ルチアのおかげで、な」


 ルチアは、クロス達に尋ねる。

 アレクシアやフォウは、無事なのか、心配しているようだ。

 クロスは、正直に答える。

 アレクシアも、フォウも無事だと。

 これも、ルチアのおかげだ。 

 ルチアが、妖魔を倒してくれたおかげで、死者が出なかったのだ。

 クロウが、ルチアの元へ寄り添い、優しく頭を撫でた。

 まるで、兄のように。


「よく、頑張ったな」


「……ありがとう!」


 クロウは、ルチアを褒める。

 本当に、心から、感謝しているのだろう。

 下手したら、自分達の命を危うかったかもしれない。

 ルチアが、守ってくれたからこそ、自分達は、死なずに済んだのだ。

 ルチアは、自分が、クロス達を守ったのだと、知り、微笑んだ。


「アレクシアさん達は?」


「今、フォウ様の家にいるんだ」


「フォウ様の?」


「緊急会議を開いている。当然だろう。ヴァルキュリアが、現れたんだからな」


 ルチアは、アレクシア達が、今、どこにいるのか、尋ねる。

 クロス曰く、アレクシアは、フォウの家にいるようだ。

 ルチア達を家に運んだと、アレクシアとフォウは、島の皆に話したのだ。

 妖魔が現れた事、そして、ルチアがヴァルキュリアに変身し、妖魔を倒したことを。

 それにより、島の民は、騒ぎ、各村のシャーマンとそのパートナー、そして、アレクシアが、フォウの家に集まり、緊急会議を開いた。

 現状を聞かされたルチアは、納得する。

 緊急会議が開かれるのは、当然であろうと、ルチアも、思っているようだ。

 その時であった。

 扉が、ゆっくりと、開いたのは。


「あれ?気がついたみたいだね、ルチア」


「アレクシアさん」


 扉を開いたのは、アレクシアだ。

 会議が終わったのか、ルチアの様子を見に来てくれたらしい。

 ルチアは、嬉しそうに微笑んでいた。


「私だけじゃないよ」


 アレクシアは、すっと、部屋に入る。

 すると、フォウも、続けて、ルチアの部屋に入った。


「おお、ルチア。気がついたのか」


「フォウ様!」


 なんと、フォウも、ルチアの様子を見に来てくれたようだ。

 アレクシアとフォウは、ルチアの元へと歩み寄った。


「大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。フォウ様は?」


「大丈夫じゃ。この通り」


 フォウは、ルチアの身を案じる。

 ルチアは、怪我を負ったのだ。

 心配していたのだろう。 

 もちろん、ルチアは、無事だ。

 ヴァルキュリアに変身した事で、傷が、癒えたらしい。

 ルチアは、フォウに尋ねる。

 フォウも、怪我を負っていたため、心配したのだろう。

 だが、フォウも無事のようだ。

 フォウは、体を広げてみせた。

 確かに、怪我は、すっかり癒えている。


「良かった……」


 ルチアは、フォウが、大丈夫だと知り、安堵した。


「あの、フォウ様、私は、かつて、ヴァルキュリアだとおっしゃってましたが、なぜ、知ってたんですか?」


 ルチアは、気がかりな事があった。

 それは、自分がかつて、ヴァルキュリアだったことを知っていた事だ。

 なぜ、アレクシアとフォウが、知っていたのか。

 自分の事を知ることができるのではないかと、悟ったのだ。


「そのことについては、私から話すよ。私は、君の体調管理を任されていたからさ」


「そ、そうなの?」


「うん」


 アレクシアが、フォウの代わりに語る。

 アレクシアは、研究者でもあったが、同時に、ルチア達の体調管理を任されていたらしい。

 ルチアは、戸惑いを隠せなかった。 

 アレクシアは、ルチアが記憶をなくす前から、ルチアの事を知っていたことになるのだから。


「じゃあ、記憶をなくす前から、一緒だったんだ」


「そうだね」


 ルチアは、確認するように、アレクシアに問いかけ、アレクシアは、肯定する。

 二人は、ここに来る前からの知り合いだったと。


「ねぇ、私は、どこから来たの?」


「それは……教えることはできない」


「どうしてだ?」


 ルチアは、アレクシアに尋ねる。

 自分は、どこから、来たのか。

 だが、意外な事にアレクシアは、答えようとしなかった。

 クロウが、アレクシアに問う。

 なぜ、教えることができないのか、理解できなかったからだ。


「機密事項だからだよ」


「機密事項?」


「そう。どうしても、答えられないんだ」


 アレクシアは、機密事項だかだと告げる。

 だが、それでは、答えにならない。

 それでも、アレクシアは、答えようとしなかった。

 知られたらまずい事があるのだろうか。


「わかった。私が、自力で思いだすよ」


「そ、そうだね」


 アレクシアの心情を悟ったのか、ルチアは、これ以上は、問いかけることはなかった。

 アレクシアでも、答えられないという事は、ルチアにとって、衝撃的な事なのかもしれない。

 と言っても、思い出さないわけにはいかない。

 どうしても、思い出さなければならない気がしたから。

 ゆえに、ルチアは、自力で思いだすと告げるが、アレクシアは、苦笑していた。

 やはり、アレクシアは、ルチアに思い出してほしくないように、ルチアは、感じていた。


「でも、どうして、今日、私は、ヴァルキュリアに変身できたの?」


「それは、力が、戻ったからじゃないかな?」


「え?」


「君をヴァルキュリアに変身させようとしたことはあったんだ。でも、肝心の宝石は見つからないし、何より、君は、ヴァルキュリアの力を失っていた。前と違って、少し、力が、弱くなっていたからね」


 ルチアは、アレクシアに問いかける。

 なぜ、今になって、ヴァルキュリアに変身できたか、見当もつかないからだ。

 アレクシア曰く、力を取り戻したかららしい。

 だが、推測でしかないようだ。

 二年前、ルチアをヴァルキュリアに変身させようとしていた。

 ヴァルキュリアに変身できるかどうか、試したようだ。

 だが、宝石もなく、ルチアも、力を失っていた為、変身はできなかった。


「じゃから、わしらは、待つことにしたんじゃよ。お前が、力を取り戻すまで」


「そしたら、君は、力を取り戻した」


 アレクシアとフォウは、ルチアが、力を取り戻すまで、待っていたようだ。

 そして、いつの間にか、ルチアは、力を取り戻していたらしい。

 ルチアも、気付かないほどに。


「いつ?」


「今日くらいじゃないかな?」


「あいまいだね」


 ルチアは、いつ、力を取り戻したのか、尋ねる。

 すると、アレクシアは、今日くらいではないかと、曖昧な答え方をした。

 アレクシアでも、わからない事があるようだ。

 ルチアは、思わず、笑みをこぼした。


「確信は、なかったんだ。でも、そう思ったよ」


「なぜ、そう思った?」

 

 アレクシアは、今日、ルチアが、力を取り戻したのではないかと、推測していたが、確信はなかったらしい。

 なぜなのか、クロウは、問いかけた。


「夢を見たからだよ」


「あ……」


 アレクシアは、答える。

 ルチアが、夢を見たからだ。

 ヴァルキュリアになって、他のヴァルキュリアの少女と剣を向け合う夢を。

 ルチアは、今まで、ヴァルキュリアの夢を見た事がなかった。

 ゆえに、ルチアも、不思議に感じていたのだ。

 なぜ、ヴァルキュリアの夢を見たのか。

 自分が、憧れていたからなのか、それとも、自分の過去なのか。

 だが、今なら、少しだけわかる。

 ヴァルキュリアに変身できるという前兆だったのだろう。


「あの夢が、君の過去なのかは、不明だ。でも、ヴァルキュリアに変身できる兆しと私は、読んだのさ」


「だから、わしは、神石がある遺跡に向かったんじゃよ。一人でな」


 ルチアが、夢を見たからこそ、アレクシアは、ルチアが、ヴァルキュリアの力を取り戻したのだと、悟り、それを聞いたフォウが、遺跡に向かったのだ。

 ルチアが、ヴァルキュリアに変身できるように。

 

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