猫探しから爆破予告、浮気調査から完全犯罪までなんでもござれ。糸玉異能力探偵事務所へようこそ
田山海斗
零本目 奇妙な能力、微妙なタッグ
タッタッタッタッ
ICカードを叩きつけ、通勤中の人の間を縫って駆け抜ける。何人かにぶつかってしまって、睨みつけられたり怒鳴られたりしたが、気にしている場合ではない。
今は早く逃げないと、早く!
「はぁ、はぁ、」
駅から数百メートルの路地に身を隠す。追っ手の姿は確認できない。
「こ、ここまで、来、来れば、はぁ」
「撒けたかな?」
「うわぁ!!」
今走ってきた方向とは逆の方から声がした。
「な、なん、なん」
そこには、先程からずっと、執念深く追いかけてきていた女が、ヘラヘラしながら立っていた。
「痴漢さんっ、観念しなさい!」
「ふざけんな!」
ダッ
すぐさま路地のさらに脇道に駆け込む。
「確実に撒いたはずだ。なんで、しかも先回りされているんだよ!」
「なんでかしらね」
「どわぁ!」
狭い路地を抜けた先に、しかし回り込まれてしまった!
「くそ!なんでなん……まさかお前もキード持ちか!」
「ありゃりゃ、バレちゃった」
「追いついたー!」
「くそ!『増』えるとかか?全く、運がないぜ」
「そうね、だから諦めてお縄につきなさい」
「もう警察にも電話してあるからね」
「なんで俺だとバレた。『装』うという、どんな見た目にもなれる俺のキードの力を、どうやって見破った?今までバレそうになったらすぐに見た目を変えて逃げた。絶対にバレたことは無かったんだ。それに、逃げている途中にも何度も見た目を変えていたのに」
「そんなの簡単よ。たまたま見てたら、シャッて見た目が変わった変な人が、女の人に言い寄られてるんだもの。どう考えたって怪しいでしょ」
「それにあなた、変身する人する人みんな特徴的だったんだもん。帽子かぶってたり、キツいツーブロックだったり、大きなリュック背負ってたり。今の時間、周りはスーツばかりだよ、とっさに変身しちゃったんだね。しかも私たちは二人。片方見失っても、もう片方で見てられた」
「ふ、ホントに運が無かったみたいだ。だがな、それはお前達もだ。俺の能力を甘く見ているな?『装』うの能力は、こんなことだってできるんだぜ」
そう言い終わるやいなや、男の体が残像のように薄くなる。
と次の瞬間には、男は警察官の格好になっていた。
「それで?警察が来てもそれでしらばっくれるの?」
「ちげーよ。いいか、今俺はこれを持ってるんだ」
男が腰の辺りに手をやり、掴んだものをこちらに向ける。それは拳銃だった。
ジリっと、二人の女は後ずさる。
「ははっ、どうだ流石にびびったか。前に試したら、ちゃんと弾は出た。どうやら威力は本物らしい。分かったら道を開けろ!」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつも、二人は道を開ける。
「ふ、ふひひ、ふふははは!残念だったなぁ?!ここまできて捕まえられなくてなぁ?!あははははは。二人に増えるだけじゃ、俺は捕まえられねぇなぁ!」
「ええ、心底残念ね」
「い、いいの?」
パカッ
突如、ちょうど足を乗せていたマンホールが開いた。いや、穴が開いた。
「うあーー!!」
当然男は中に片足突っ込んで派手に転倒。
ボチャンッ
水の音がしたから、たぶん握りしめていた拳銃は落としたみたいだ。
顔面にクリティカルヒットしたので、まだしばらく悶絶していそうだ。近くの交番からお巡りさんが来てくれるまで、時間稼ぎは十分だろう。
「うわぁ、あんなにしなくても良かったんじゃないの、お姉ちゃん」
「だって、彼が一人勘違いして騒いでたのが、とってもとっても残念だったから、つい」
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