第十話~another side~ 休憩と物語

「このファミレスで休まないか?」


 特に能力者と出会うこともなく、ただただ時間と体力だけが消費されていく中、翅さんが提案してきた。


「そうですね。特に能力者と会う気配も無いですし」


 断る理由もないし、そもそも少し疲れてきた。

 ファミレスのドリンクバーでも頼んでゆっくりさせてもらおう。

 お母さんの事が心配なのは相変わらずで、すぐにでも治してあげたい。

 だけど、この遊戯で負けてしまっては元も子もない。

 体力を消耗してる今、休憩した方がいい気がする。

 はぁ……

 未だにお母さんを助けたい思いと人を殺したくない思いで悩んでしまう……


「何思いつめた顔してんだよ」

「い、いやぁ。あははは」


 お母さんに対して罪悪感が芽生える中、私達はファミレスの中へと入っていった。


「いらっしゃいませー 2名様でよろしいでしょうか?」

「はい」


 店員さんの明るい声に出迎えられる。

 スマホの画面を見ると18:20らしい。

 微妙な時間帯だからかあまり人はいない。


「全席禁煙となっておりますがよろしいでしょうか?」

「はい」

「こちらへどうぞ」


 店員さんに案内されるままに、翅さんと向き合うかたちで席につく。


「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンからお呼びくださいませ。失礼致します」


 軽く会釈だけして、翅さんの方を向くとメニューに目を通しているようだ。

 ドリンクバーだけでいい私は特にメニューを見ることもなく翅さんを待つ。


「なんだ? もう決まってるのか?」

「あんまりお腹すいてませんし、ドリンクバーだけでいいかなぁと」

「あぁ、なるほど」


 納得したらしい翅さん、だが、全く急いで決めようとする気配はない。

 そりゃもちろん、急いで決めろなどとは言わないし、急かすつもりもない。

 だが、少しは急ぐ雰囲気でも出すものではないかという疑問が頭をよぎる。


「ドリンクバーだけなら俺も頼むから先頼んどいてくれ」

「あ、はい」


 少しは考慮したからこその発言かもしれない。

 だけど惜しいと私は思うのだ。

 頼む立場の癖に偉そうではないか?

 そんな考えのせいで、自分の分しか頼まないでおこうかと思ってしまう。

 まぁ何やかんや言って2人分頼んじゃうのが私なんだけど。

 そんな思考の中ボタンを押して店員さんを呼んだ。


「失礼致します。ご注文をお伺いします」

「ドリンクバー2つ、以上で」

「はい、ドリンクバー2つでよろしいですね?」

「はい」

「かしこまりました。あちらからご自由にどうぞ。失礼致します」


 店員さんが戻っていったのを確認し、飲み物を取りに席を立つ。


「あ、俺ウーロン茶でよろしく」

「はいはい」


 こう来ると思ってましたよ。

 はぁ…………

 ドリンクバーのコーナーへ行き、何があるかを見てみる。

 至極どうでもいいが、私は飲み物を混ぜるタイプだ。

 一部の人には否定されるけど。

 今日はアップルジュースとマスカットジュースを1:3で混ぜよう。

 コップを取り、オリジナルジュースとウーロン茶を入れ、席に戻る。


「お、ありがとう」

「どういたしまして」


 メニューに目を向けながら礼を言うのはどうなんだろうか。

 そもそも親しい仲という訳でもないのに。

 これ以上グチグチ言うのはやめておこう。

 気分が悪くなる。


「よし、決めた。俺、カルボナーラにするわ」

「どーぞご自由に頼んでくださいな」


 何故私に報告したのか。

 ただただボーッと翅さんと店員さんのやり取りを眺め、ふとある事が気になった。

 店員さんが立ち去ってから、翅さんに聞いた。


「何歳ですか」


 翅さんは見た目年齢26位だと思う。


「何歳になるんだろな、俺」

「え?」


 予想が外れたどうこうの話ではなく、何歳かは不明だという翅さんに驚きの声をあげてしまった。

 何歳かわからない?


「何年生まれなんですか?」

「えーと……俺生まれたの何年何だろ」


 生まれた年さえ分からないらしい。


「親は?」

「何百年も前に死んでるよ」


 そもそも、親が何百年も前に亡くなっているときた。

 もはや意味不明だ。


「正直にどうぞ」

「すべて真実だが」


 まっすぐこちらを見つめて真実だと言い張った。

 何がどうなっているのだろうか。

 頭を抱え悩む私に翅さんは話を変えてきた。


「そうだ。少しある物語をしてあげよう」


 もう悩むのが嫌になって、翅さんに関する疑問を考えないように、冗談だと認識し、翅さんの話す物語を聞くことにした。


「むかーしむかし、この世には神様なんていませんでした――



――もともと神はいなかった。

 たった10人の願いにより、ただの幻、ただの空想上の存在として10柱の神は生まれた。

 いや、その時はまだ、ただの神を名乗るだけのだった。

 10人は己が願う神を、力を持つ神として顕現させるため話し合った。

 話し合いの結果、自身以外の9人を殺し1人だけになると、願いが1つにまとまり神を名乗るモノが力を持つ神として、たった1柱のみ顕現するという結論に至った。

 10人は醜く争い、殺し合い、最後に1人の男が残った。

 彼らの結論から考えると、この男が信仰する神を名乗るモノのみ、力を持つ神として顕現される

 しかし、真反対の事象が起こったのだ。

 そう。残った男が信仰していたモノたちが、神として顕現したのだった――



――おっともうカルボナーラが来たようだ。この続きはまた今度な」


 なんとも嫌がらせのような微妙なところで物語を中断する翅さんにもっと聞きたいと目で訴えるが、完全に無視される。


「次っていつですか」

「また次に休憩した時な」


 明日は続きを聞けるだろうか。

 そもそもこんな物語聞いたことすらない。

 男はこのあとどうなったかはのか。

 そもそも何故今こんな物語を教えてくれたのか。

 気になることはたくさんある。


「約束ですよ?」

「おう」


 そう軽く返事をした翅さんは、早速店員さんが持ってきたカルボナーラを食べ始めた。

 何故だか相変わらずお腹は空かない。

 翅さんがカルボナーラを食べる姿を見ながらオリジナルフルーツジュース(フルーツ2種類)を飲んでいると、翅さんがこちらを見て言ってきた。


「食べるか?」

「いや、いいです」


 お腹が空いてないというのが主な理由だが、そもそも謎だらけのこんな人が食べたカルボナーラを食べる気にはならない。

 基本的にみんなそうだろう。


「そうか」


 翅さんはそれだけ言って、食べるのを再開した。

 気づけばオリジナルフルーツジュースがなくなっていた。

 入れ直そうと席を立つ。

 今度は翅さんも何も言わなかった。

 さーて次は何を飲もうか。

 ホワイトウォーターとアップルジュースを3:1で入れよう。

 またもオリジナルジュースを作り、席に戻る。

 オリジナルホワイトアップルジュースを飲んでみるとオリジナルフルーツジュースより美味しかった。

 というか普通に売れそうな美味しさだった。

 オリジナルホワイトアップルジュースを飲む私を見て、翅さんはなにか言いたそうにしていた。


「何ですか?」

「いや、さっきのは色があれだったから美味しくなさそうだったけど、それ、美味そうだな」

「美味しいですよ」

「ウーロン茶飲み終わったら入れてくれないか?」

「いいですよ」


 これを機に翅さんもミックス派の人間に変えよう。

 そんなくだらないことを考えていると、翅さんはふと思い出したように物語の次回予告的なものをしてきた。


「さっきの物語の続きを簡単に言うと、その男は神様を殺そうとするんだ」


 そんな頭のおかしな物語の次回予告を。

 私が何かを言い出す前に、カルボナーラの残りを完食するように食べ始めた翅さんは、私に向かって裏があるようにしか感じられない笑顔を向けてきた。

 それに少し寒気を感じたのは気のせいだろうか。


 その後、翅さんがカルボナーラを食べ終えたあともただゆっくりと互いに飲み物を飲んで休憩していた。

 恐らく私は計6杯飲んだと思う。

 気づけば時刻は19:30。

 ファミレスに入ってから1時間以上経っていた。


「そろそろ出ますか?」

「そうだな。そろそろ帰るか」

「はい」


 会計をそれぞれ済ませ、ファミレスを出た。


「今日もお母さんに会いにいくんだろ?」

「会いに行きたいです」


 素直に欲望を打ち明ける。


「また送ってやるよ」

「いいんですか?」


 ありがたいのは確かだけど、悪い気がする。


「いいんだよ」

「ありがとうございます」


 ただ、いいと言ってくれてるんだから、失礼にならないように、ありがたく甘えさせてもらう。


「能力“移”」


 翅さんがそう言うと同時、景色がファミレスから病院へと変わった。


「ほら、着いたぞ」

「え、あ、ありがとうございます」


 どうやら今回は普通に能力で移動してくれたようだ。


「では、行ってきますね」

「おう」


 翅さんは軽く返事をし、私が病院に入っていくのを見届けてくれた。

 あの人はどんな人なのか詳しく分からない。

 謎にしか包まれていない。

 そもそも翅という名前すら偽名のような感じのことを言っていた。

 だが、少なからず人の心はあるみたいだ。

 だから、もっと信じてもいいはずだ。

 きっと、きっと……

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