第七話 大雨と変態

 神の遊戯2日目

 いつも通り朝の7:00に起きると、今日はどうやら大雨警報らしい。

 窓を打つ雨の音が騒がしい。

 別に警報である知らせを見た訳では無い。

 この雨も10:00になると止むのだろう。

 案の定、リビングに行くとお母さんが言ってきた。


「涼啓! 多分今日も学校休みみたい」

「知ってた」

「昨日、今日とどうなってるんよ! あー、仕事休ませてー」

「仕事頑張れ」

「あ、そういや昨日、夜遅くまで女の子と通話してなかった?」

「まぁ」

「誰々? 急にどうしたん? 昨日まで一切女の子に興味なかったのに。心配してたんよ。あっち系の人じゃないかと思って」

「俺は女の子が好きです! ついでに言うと、同性愛は決して悪くない!」

「いや、悪いって言いたいわけじゃないんだけど……」

「俺はな! ホモではないが、腐男子かつ百合男子だ! BLであろうとGLであろうとNLであろうと、そこに純粋な愛があるなら等しく美しい!」

(※BL=男×男、GL=女×女、NL=男×女)

「それ、彼女出来たことないから……」

「シャーラップ!」

「涼啓の言ってる言葉の意味が分かってしまって辛い……」

「なんか……ごめん……」


 朝から俺は親に向かって何語ってるんだろ……

 なんか気まずくなってしまった。

 とっとと朝食を食べ、身支度をし、自室に戻る。

 お母さんとのやりとりを一旦忘れ、昨日の反省点を考える。


 まず、ナイフを持って突っ込んで「死ねぇ!」は、我ながらないな。酷すぎる。

 次に、今日万が一、時間を止める奴らと出会った場合どう対処するかだよな……

 あ、そうだ。


 鞄の中に入っているナイフや金槌を一旦取り出す。

 ある工夫を施してナイフと金槌をリュックに入れ直す。


「よし、これで何人かには攻撃出来るはずだ」


 工夫するのに思っていた以上に時間がかかった。

 気づけば9:15だ。

 それでもあと45分あるのか……

 他に反省点は無いか……

 千春のために怪異系の情報を集めておこうか?

 いや、あいつはそもそもの趣味的に俺が調べれる程度の情報なら知っているだろう。

 反省点、反省点……

 怒りを抑える?

 いや、結構抑えれた方なのでは?


 完全に自分の世界に入り込んでしまい、気づけば9:50。

 35分間悩んだ結果、結局新たな反省点は出てこなかった。


「そろそろ時間だな。千春と連絡するか」


 スマホを見ると9:37に千春から連絡が来ていた。

 なになに?

 10:05に私の家に来れますか?


「うん、っと」


 うん、とだけ返信をし、外出準備をする。

 するとお母さんが話しかけてきた。


「今日もまた出かけるの? 雨すごいよ?」

「大丈夫。どうせ10:00には止むよ」

「どういうこと?」

「10:00になれば分かる」

「???」


 そりゃそうだよな。

 こんなに大雨降ってるのに後10分で止むなんて信じられないよな。


「とりあえず10:00に家出るから」

「私は10:30には仕事行くからね? ちゃんと家の鍵持っときなさい」

「はいはい」


 そうこうしてるうちに、騒がしかった雨の音も止み始め、10:00になった。


「神の遊戯、再開だよー」


 愉しげな神の声がダイレクトに頭に流れ込んでくる。

 俺は家を出た。


「ホントに雨が止むなんて……行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 千春の家までは予想以上に近く、走ったら5分で着ける。

 ある程度走るのが速いおかげもあるわけだけど……

 10:04頃に千春の家に着いた。


「あ、走らせてしまいごめんなさい」

「いいよ。他の能力者に襲われるかもしれないから出来るだけ2人でいてた方がいいしな」

「はい」

「今日はどうする? どこか行くか?」

「デートみたいですね」

「へ?」


 急な千春の発言に間の抜けた声が出てしまった。


「そ、そーだな」

「どうしたんですか? 照れてるんですか?」

「そそそ、そんなある訳ないだろ?」

「明らかに動揺してますよね」

「どど、動揺してるふうにみ、見せてるだけだし」

「そうですか。そんなことはさておき」


 軽く弄られた。

 千春の性格が未だに掴めない。


「私、今日は普通に遊びたいです」

「ホントにデートするのかよ」

「遊ぶだけでデートではないです」


 前に何故かデートについて調べたんだが、確かデートの意味は、男女が日時を決めて遊ぶこと、だった気がするのだが……

 この場合どうなんだ?


「何考え込んでるんですか?」

「あ、いや、特に何も」

「ホントですか? まぁいいや。近くのショッピングモール行きません?」

「友達とかに会ったらなんて説明すんだよ」

「友達でいいじゃないですか。事実なんですし」

「いや、まぁそうだけど……うん……」

「さぁ行きましょ行きましょ」


 友達と言う言葉に少し眉をひそめた千春だったが、すぐに楽しそうな顔に戻った。

 そんな顔されたら勘違いしそうになるからやめてくれ……


「どうします? バスで行きますか? 電車で行きますか?」

「徒歩で」

「えぇー。疲れるじゃないですか」

「俺、金無いの知ってるだろ?」

「あ」

「すまん……」

「歩いていくとなったら大体25分くらいですかね」

「多分それくらいだ」

「まぁいいですよ」


 ということで、千春には悪いが徒歩で行くことになった。


 歩き始めて10分後。

 女性の悲鳴が聞こえた。


「いや! なんで!? いやっ……あっ……んんっ……」


 いや、悲鳴よりかは後半は喘ぎ声だった。


「い、行ってみる?」

「恥ずかしいですが、只事では無さそうでしたし……行きますか……」


 喘ぎ声が聞こえる方へと向かうと、服を途中まで脱いで半裸姿の女性が3名倒れていた。いや、絶頂していた。

 そんな女性達の真ん中には2人の男、能力者が立っていた。


「ハァハァ。俊二、生で見るのは画面越しで見るのと全然違うなぁ。ハァハァ」

「こらこら息が荒いぞ、竜也。ふふふふふ。俺ら2人で世界中の女を……」


 そこまで言ってこちらに気付いたようだ。

 うん。

 簡潔に言って混沌カオス

 ナニコレ。

 隣の千春は完全に顔を手で覆って見ないようにしている。

 耳まで真っ赤だ。


「なんだよお前! せっかくいいところに!」

「男はお呼びじゃねーんだよ! そこの女だけ置いてとっととどっか行け!」

「嫌だね」


 俺が即答すると、2人は怒ったようにこちらを向き、言い放った。


「お前の彼女をそこで“脱”がしてイかせてやる」

「お前は早くどっか行かねぇと痛い目見るぞ」


 コイツらただの変態というだけでなく、ちゃんと力を使いこなせるようだ。


「やれるもんならやってみな」

「助けてください。この人達めっちゃ怖いです」

「安心しろ。何とかする」

「何とかする、だってよ! 俊二!」

「なら早速いっちょやってやりますか!」


 すると、隣からすごい悲鳴が上がった。


「きゃあ! やめて! こっち見ないで!」


 一瞬見てしまったが、服が脱げ始めていた。

 千春はすぐさま詠唱した。


「一反木綿。汝、我が文字の下に顕れ給え。今こそ我の救いとなれ」


 すると、一反木綿が現れ、千春の体を隠した。


「そんな使い方もあるのか……」

「感心してないで早く何とかしてっ……あっ……」


 千春が急に艶めかしい声を上げた。

 もじもじしているあたりを見るときっと奴らのせいだろう。


「んっ……あっ…………んんっ……」


 千春がヤバい。

 色んな意味でヤバい。

 早く助けなきゃという気持ちと、最後まで見ていたいという気持ちの両方がある。


「やっぱり若い女の子の方がそそるねぇ。ハァハァ」

「手は出してないから犯罪じゃねぇしな! ふふふふふ」

「はやっ……くっ……あぁっ…………たす……けて……んっ……くださっ…………いっ……」


 千春の言葉に我に返った。

 今は千春を優先しなければならないだろう!

 何してんだ俺は!

 リュックから金槌を取り出し、相手の動きをよく見つつ突っ込む。

 相手との距離約2m。

 今だ!

 金槌を振り下ろすように持ち上げる。

 と同時にリュックの中のナイフに意識を集中し、“消”した。


「危ねぇなお前! お前みたいなやつは激しい痛みを“感”じて痛みに悶えろ!」


 案の定避けられたが気にしない。

 能力を使われるより前に一時退避する。


「なんだ? もう終わりか?」

「痛いの嫌いだからやめとこうかと思って」

「そうかそうか。そんなんで許されると思うなよ」


 俊二と呼ばれていた人が怒り気味でこちらに歩いてくる。

 1、2歩!

 俊二がこちらに2歩踏み出すと同時、先程で“消”したナイフを復活させた。


「ぐっ……なに……したんだよ…………お前……」

「おい! 大丈夫か!?」

「はぁ……はぁ……あと少しでやばかったです」


 俊二の腹にはナイフが突き刺さっていたのだった。


 第二戦、vs“脱感ペア”、試合続行。

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