第五話 仲間と情報

俺と千春は喫茶店に一緒入って席に座り、メニューを見てからあることに気づいた。

まだちゃんと仲間になってないじゃん。

それ以上に、他人から見たらカップルみたいじゃん。

店員が水を持ってきてくれた。

水を飲みつつ気まずさを紛らわせるように話しかける。


「なんか完全に仲間感最後あったけど、結局仲間になってくれんの?」

「あ、まだ柊さんの文字の能力を見せていただいてないのですが……」

「あぁ、そっか。とりあえずお前の持っているコップを水ごと消すぞ?」


俺は千春が持っているコップを消して見せた。


「おぉぉ。これって戻せるんですよね?」

「無理だ」

「えぇっ!?これどうするんですか!コップひとつ無くなりましたよ!」

「冗談だよ。落ち着け」


俺はすぐさまコップを元に戻す。


「もう!焦ったじゃないですか!」

「ごめんごめん。そういやさ、遊戯無関係者に今の見せたらどうなるんだろな」

「コップが目の前にあるのに、『コップが消えた!』って騒いでる変な人に見られてないか心配になってきましたよ」

「大丈夫だ。今は特に客はいない」


そもそも遊戯無関係者からもコップが見えていないんじゃないかと思うが…………

時間はもう14:16となっていた。

時間帯が時間帯なのか、客はあまりいない。

運良く他の客と離れた場所で座っているため、ある程度のボリュームで話しても聞こえないだろう。


「確かにそうですね!ホッとしました」

「良かったな」

「はい!」

「あ、あとな、お前の文字、普通だと見えない所にあるがそれは有利だぞ?」

「そんなこと分かってますよ!ただ、場所が場所なので……肩とかだとまだ良かったのに……」

「細かいなぁ」

「女子には色々あるんです!」


もしかすると俺以外の男で、千春と同じように気にする人がいるかもしれないのか……

というか、話を本題に戻そう。


「そうか、悪かった。それはそうと、これで仲間になってくれるのか?」

「うーん。そんな簡単に決めたら行けない気がするんですよねぇ」

「用心深すぎやしないか?」

「命がかかってるんですから当たり前です」

「命かかってるのかどうかは微妙なところだがな」

「死ぬ回数は少ないほうがいいです!」


なかなかのパワーワードが生まれたなぁ。


「まぁそれはそうだな。なら、能力の詳細も互いに明かすってのはどうだ?」

「詳細を偽られても分からないじゃないですか」

「神様呼んで確認するか?」

「え!?神様ってそんな簡単に呼べるものなんですか!?さっきも呼んでましたけど!!」

「いや、知らん。さっきのは呼んでみたら来てくれただけだ。よし、呼んでみるか」


俺は大きく息を吸って言った。


「おーい!神様ー!」

「ちょっ!ちょっと!やめてください!そんな大声出さないでください!他のお客さんの迷惑です!ていうか、他のお客さんめっちゃこっち見てます!」

「神様、来ねーな」

「呑気に言ってる場合ですか!ただ恥ずかしい思いしただけじゃないですか!」

「そーだな」


今になって思ったが、コイツ、見た目は天然穏やか系お姉さんな感じなのに、年下だしオカルト好きだしツッコミ多いし……てか、お前のツッコミもでかいっての!

そんなことは思っても口に出すことはなく、心の中に置いておく。


「はぁ……もういいです……詳細明かしあったら仲間になりましょう」

「急だな」

「なんやかんや言いながら柊さんからは悪意や敵意を感じませんし、もし敵でも今頃やられてるでしょうし、戦いの時結構私のことを気にかけてくれていたみたいですし」

「少しは信用してますよ、ってか?」

「そ、そうです」

「よし、なら俺から文字の詳細を言ってやろう。そっちの方がいいだろ?」

「はい」

「俺の文字の"消"すは無生物を物理的に消す、もしくはその消したものを元の場所に再生することが可能だ。あと、概念的要素を1つのみ消すことが可能だ。まぁ概念に関しては既に消してるから今更なんだけどな」

「なるほど。だから透明人間無理なんですね」

「そうだ」

「というか、《自分の死》って概念か《自分の敗北》って概念を消せば勝ち確なんじゃないんですか?」

「《自分の敗北》ってのは、この遊戯においては《自分の死》と同義とされるだろうし、《自分の死》とかみたいなチートは一応無理なんだ」


そもそも俺が消した概念何か知らないだろ、と思いつつ千春の話を聞く。


「そこは対策されてるんですね。なら、どんな概念を消したんですか?」


もちろんそう来るのは分かっていた。

だから迷うことなく答えを教えると、千春は苦い顔をして言った。


「あぁ、だからあの時……それ、嫌われ者になりますよ」

「それは俺も理解してる。さっきの試合で思ったよ。でも、試合中に消す概念の変更は不可能なんだ。だから、ただ不利になるだけよりかはマシかと思ってな」

「はぁ……」

「おい、さっきからちょくちょく溜息をついているが、溜息をつくと幸せが逃げるらしいぞ?」

「そんな迷信、誰が信じるっていうんですか」

「あーあ。結構な人を敵に回したぞ?」

「そんなことどうでもいいです」

「そうか。ところで、千春の能力の詳細も教えてくれよ」

「あぁ、そうでしたね。私の能力の“召”すは伝承に出てくる人外を最大3体同時に召喚ができますが、召喚時と還す時には詠唱が必要なんです。あと、召喚した人外は私の意思に従います。ただ、他の能力の干渉を受けた場合、その意志より能力の方が優先されるらしいです。あ、もうひとつ忘れてました。『神の下に字有り。字の下に神無し』とかなんとか言って、神様は召喚できないみたいです」

「神様召喚できないとはいえ、なかなか強いな」

「でしょう!」


千春が、ドヤッと言わんばかりに胸を張る。

元からそこそこある胸がさらに強調され目のやり場に困る。


「どうしたんですか?そんなに顔真っ赤にして」


本音を言うのもどうかと思い適当にごまかす。


「いやぁ、正直千春のこと過小評価してたみたいだからさ。恥ずかしいなぁと」

「そうですかそうですか!これでもう隠し事はないですね?」

「あぁ。これで仲間だな」

「そうですね」


こうして俺と千春はちゃんと仲間になった。


「何も頼まないのもなんだし、今更だがなんか頼むか」

「さっき柊さんが『おーい!神様ー!』とか叫ぶから店員さん呼びづらいじゃないですか。柊さんが呼んでくださいね」

「分かったよ。何を頼も……う……か…………な…………」


忘れていた……

喫茶店って、いちいち高いんだった……

残高を確認すると、飲み物1つ購入するだけでぶっ飛んでいくような程少なかった。


「やっぱ俺、いいや」

「お金無いんですか?貸しましょうか?」

「いや、いいよ。後輩女子に借りるのはなんか気が引けるし」

「気にしないでください。こう見えてお金の使い道なくて貯まってるんで」

「本当にいいよ」

「そうですか……ただ、注文よろしくお願いします。後、後輩女子に奢らせてる風に見られるの嫌でしょうし私が注文する分のお金、あらかじめ渡しときますね」


そう言って、千春は600円渡してきた。


「分かった。お気遣いありがとう」


千春の気遣いに甘えて、600円をもらう。


「いえいえ。では、チョコレートミルク頼んでもらえますか?」

「了解。すみませーん!」


少し苦笑しながら店員がやってきた。


「お待たせいたしました。ご注文はいかがなさいますか?」

「チョコレートミルク1つで」

「……」

「以上です」

「かしこまりました。チョコレートミルク1つでよろしいでしょうか?」

「はい」


数分後、店員が俺と千春の間にチョコレートミルクを持ってきた。

ストロー2つと共に……


「お待たせいたしました。チョコレートミルクです」


会釈すると店員は去っていった。


「完全にカップルだと思われてるな」

「そうですね」

「やっぱ一緒に飲ませてもらおうかな」

「お金を貸すならともかく、一緒に飲むのは嫌です」

「初対面の男相手に、そらそーだよな」


俺は千春がチョコレートミルクを飲んでいる間、千春をジッと見つめた。


「なんですか、人の顔ジロジロ見つめて」

「いや、初めて会った時パッとしないとか言ったが、お前って結構可愛いな」

「な、ななな何言ってるんですか!?」

「あ、ふと口から出てしまってたか」

「そんなこと言ってももう何も出ませんよ?」

「分かってるよ」


千春がチョコレートミルクを飲み終えると、時刻は15:10となっていた。

もう1時間も経っていたのか。


「そろそろ出るか」

「そうですね」


レジで、千春から貰った600円を出して店を去る。


「次どうしますか?」

「とりあえず街中探索するか」

「そうですね」

「てか、あそことかのビル見る限り、やっぱり大体の会社はちゃんと仕事してんだな」

「暴風警報で休むとこってなかなかないですよね。特に今日の朝程度だと」

「大人にも、この遊戯に参加してる人いるのかな?」

「いるんじゃないですか?」

「手強いだろうなぁ」

「大丈夫ですよ!私たちなら!」

「そうだな!」


こうして俺と千春は、能力者探索を開始した。

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