ひよこの親玉

よもぎもちもち

第1話 1Kの古いアパートで

 「2回目は“どんな風に”して欲しいのかしら?言ってごらん、勝悟くん」

 うっすらとほうれい線が見えるが整った端正な顔立ち。ジムで絞った“しなやか”なクビレ。僕の10コ年上とは思えない色気を感じさせる。

 彼女の名前はレイカ。

 ヒヨコの雌雄鑑別師をしている僕がこの妖女と出会ったのは、重い心臓病を患った商社マンが飛行機事故で死ぬ確率に等しいのかも知れない。それが幸運なのか不幸なのかはわからないが。


 彼女の細い指が僕の下腹部を悪戯になぞる。おろしたてのシルクのレースを優しく愛でるように。僕はゆっくりベッドから身体を起こすと申し訳なさそうに言った。

 「すまないんだけど、今日はこれから予定があるんだ」


 「あらそうなの?残念。これからもっと愉しませてあげられるのに。もしかして、鳥インフルで可愛いヒヨコちゃん達みんな死んじゃったとか」

 

 僕は口角を上げ目皺がくしゃっとなるように優しく微笑む。プリティ・ウーマンに登場したリチャード・ギアがそうするように。

 この表情をレイカが好きなことは知っていたが、その前に付き合っていた女達もまた、この笑みが好きだったことをこの妖女は知らない。


 「埋め合わせはするよ。必ず」


 レイカは諦めたようにパーラメントに火を点ける。

 「“オイタ”しちゃダメよ。お姉さんには何でもわかっちゃうんだから」


 僕は黙って頷く。生まれて間もない子犬が過保護の飼い主へ向ける眼差しのように。


 




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