ファミリー・オブ・アス
HaやCa
第1話
自分ではない誰かを知りたくなったのは、つい最近のことだ。友達とけんかをして、気持ちがすれ違ってしまった。私が正しいと信じている信念は、彼女にとってただのわがままに過ぎなかったらしい。とまあ小難しいことを言ってしまったけど、要は私には人の気持ちを汲み取るのが苦手だということだ。
「あーもう、うまくいかない」
そう言ってデスクチェアを蹴り飛ばす。階下にいる弟から迷惑そうな声が上がったが、そんなことは気にしていられない。とにかく心を落ち着けよう。むしゃくしゃしてばかりじゃ、何にも解決しない。私はやっと理解して、一つ大きな深呼吸をした。
「でも。なにしたらいいのかな」
こぼれたため息を自覚しながら、しばらく私は考えに埋まっていた。
「姉ちゃん、そんなとこで何してんの?」
振り返るとそこには弟がいる。カップのアイスをぱくぱくと食べながら訝しそうに私を見ている。
「なんていうか、黄昏れたいの。茶化すならあっち行ってよ」
「黄昏れるねえ。姉ちゃんはそんなタイプに見えないのに、今日はどうしたもんか。明日は雪が降るな」
けらけら笑って弟は部屋の中へ引っ込んでいく。その後ろ姿を見てなんだか私は自分がこんなにも悩んでいることが馬鹿らしく思えた。
弟は成績優秀スポーツ万能、いわばなんだってできる。同じ家族なのにどうしてそんな差が生まれたのかは知らないけど、今日ばかりはあっけらかんに振る舞う弟がひどく羨ましかった。
致命的な勘違いに気づいたのは、翌日のことだった。学校が終わると、私も急いで病院に駆けつける。
「どうしてこの子が……」
ベッドの上に横たわる弟を目にして、お母さんは泣いていた。弟が部活の練習中に事故にあって、大けがをしたのはすでに私も知っていた。それでも、実際に目にする弟の姿は信じがたいものだった。
笑っているのだ。ベッドにしがみつくように泣いているお母さんの背中を、弟は気丈にもさすっている。一番つらいのは彼であるはずなのに、弟はこの世の人間とは思えないくらい強かった。
「姉ちゃん、遅いって。母さんがこんなだから俺ずっと気まずくてさ。もっと…。早く来てくれ……よっ」
私が来たことに安堵したのか、弟の涙は決壊したように溢れていった。いつもは平気に見えた弟は、本当は誰よりも弱くてちっぽけだったことに気づかされる。
反対に私はいつもくよくよしてて、みんなに迷惑をかけてばかりで困らせていた。
でも今は自己嫌悪になっている場合ではない。私にできることは一つでもあるから。
「海斗。お姉ちゃんがいるから大丈夫だよ。なんだってサポートしてあげるから。そりゃあ、お姉ちゃんは勉強もスポーツもできない。でもね、お姉ちゃんは海斗よりも長く生きてきたんだから、教えられることはたくさんあるの。だから安心して。ね、大丈夫だから」
胸が張り裂けていく音がする。これでもかと強がる私がいる。苦しかった。そんな綺麗ごとはいくらでも言える。それでも弟を励まして、元気にしたかった。私の取り柄は馬鹿だから。
その後の治療によって、弟の容体は次第によくなっていった。家に帰ってからはごはんを大盛りで食べるようになり、お母さんの目にも笑みが浮かんでいる。わたしの家族はみんな強いなと思った。お母さんも弟もこれだけ満面の笑みを弾けさせているのだから。
今の私は強くなれただろうか。問いかける自分は少しだけ笑ってくれた。苦しくてどうしようもないときには好きなだけ息を吐きだしてみよう。そう誓った。
ファミリー・オブ・アス HaやCa @aiueoaiueo0098
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