第八話 魔法属性
「じゃあ次は、魔法だね」
切り替えるように、フェルナンの肩を叩いてできるだけ明るい声を出した。
もちろん、まだ全部を消化できたわけではない。戻ることができない今、少しでも力をつけながら進むしかないと紫音は理解しているのだ。
「ああ、そうだな」
隣に並んだフェルナンが、ホッとしたような、それでいて、驚きも含んでいるようなそんな声を出した。
一番衝撃を受けている紫音が明るく振舞っているのだから、フェルナンがその空気を長引かせる必要はない。
フェルナンは一呼吸置いてから、先ほどの重かった空気とは一変、さらりと次の魔法についての話題に移る。
「魔法の属性は知ってるか?」
紫音が首を左右に振ると、指を下りながら丁寧に説明してくれる。
基本五属性:火・水・土・雷・風
複合二属性:氷・木
特殊二属性:光・闇
無属性
属性は大きく四つの分類に分けられ、その中でさらに細かく分類されていく。
基本五属性と複合二属性は自然系の属性で、複合属性に関しては対応する基本属性に適性がないと使えない、とフェルナンは言う。
「対応する属性?」
「ああ。氷は風と水、木なら水と火だ。あんたも俺も魔法適性がないから、この二つを使うことはできないな」
「複合に属性を使うメリットはあるの?」
氷と木が使えるのはかっこいいが、特に使う理由が見当たらないと紫音は声をあげた。
「ある」
いいところに気づいたな。とフェルナンは少し前と同様尻尾を振りつつ、複合属性のメリットを説明する。
<基本五属性の優劣>
火<水<雷<土<風<火
通常であれば水は雷に弱いが、氷属性を使うことができれば雷への有効な攻撃が可能となる。氷は火に弱いが、もともと水属性が使えるため弱点属性がなくなるのだ。
同じように、土属性は風に弱いが、木は風に強い。こちらも同じように弱点がカバーされる。
「どんな攻撃にも対抗できるのか……」
「ま、対象となる五属性を覚えていても、使えるものは一握りだがな」
アルフォンシーノを出て、二時間くらい経っただろうか。いい時間なのでお昼にするか。とフェルナンが足を止めた。
「魔法の説明は?」
「食いながらでいいだろ」
ピクニックシートなんてものはないので、マーリンからもらった大きな布を広げた。この布は、裁縫職人であるマーリンのお手製で、縁には可愛らしい花と蝶があしらわれている。
「なんか、地面に敷くのもったいない」
「そーいうもんだろ」
「そうだけど……」
広げた後、すぐさまそこに腰を下ろしたフェルナンは、カバンから携帯食料を取り出している。
本日のお昼は、少し硬いパンとマーリンお手製のスープだ。水筒に入れてもたせてくれたマーリンに感謝しつつ、アルフォンシーノで購入して置いたマグカップに注ぐ。
フェルナンのカップにも注いで、いただきます。と手を合わせる。
「いただきます?」
マーリンのように不思議そうに首を傾げたフェルナンに、いつかもした説明をする。
納得したように頷いて、フェルナンは祈ったりせずに食べ始めた。
「獣人族にはそういう挨拶ないの?」
「ないな」
「じゃ、一緒に言おうよ」
食べる前の祈りがないのなら、同じ言葉を言って食べ始めたいと紫音は言う。理由は、食への感謝とかそう言うのではない。
ただ、一緒に食べている実感を強く感じたかったのだ。
「いただき、ます?」
「うん。いただきます」
基本的に素直な性格であるフェルナンは、面倒などという言葉を言うこともなく、食事前の挨拶を繰り返した。
ここは別の場所、そうわかっているのに、紫音はひどく懐かしい感情に襲われる。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
終わりの挨拶も一緒にしてくれたフェルナン。
ウリウリと頭をなでれば、何すんだ。と不満そうに睨みつけられたが、紫音は満足だった。
「ありがと」
「なにが」
「なんでもない」
ふうん。と意味のない言葉を吐き出したフェルナンは、大きく伸びをしてまた口を開く。
「じゃ、魔法の話に戻るか」
のんびりしたご飯の時間が勉強タイムに戻り、紫音は姿勢を正す。勉強は嫌いだが、魔法やこの世界のことを聞くのは嫌いではなかった。
それに、早く覚え、使えるようになれないと旅が進まない。
「ん、お願いします」
「特殊二属性、からだな」
特殊二属性。
光と闇は、お互いが弱点の属性だ。
特殊なことといえば、光は回復魔法、闇魔法は時空間魔法などが使用できること。
「基本と複合は防御と攻撃にしか使えないが、特殊と無属性だけは違う」
「私は、回復が使えるってことね」
「聖女だしな」
回復が使えない聖職者などいないだろ。と鼻で笑うフェルナン。
使えなかったら、という不安点をまさに言い当てられたような気持ちになった紫音は、それを紛らわすため、フェルナンの脇に拳を入れた。
「お、まえ……」
「で、無属性は? 確か重力操作が使えるんだっけ?」
グフッと苦しそうな声をあげて痛そうにしていたが、紫音は気にせず先を促した。
睨みつける視線をスルーし、どこ吹く風で足を前へと動かせば、諦めたようにフェルナンは口を開く。
何か気になることでも言ったのだろうか。と思っているフェルナンは、非常に大人だ。
「……無属性は、他者への付与魔法や身体強化、あとは重力操作を得意とする」
「フェルナンは、どうやって戦うの?」
「重力操作を主に使う……が、見てのお楽しみだな」
ニヤリ。と笑うと見える鋭い犬歯。
それでも、瞳が楽しそうに弓なりになっているから怖くはないなと紫音は思う。
「あれ……そういえば魔法ってどうやって使うの?」
牙を見つめていた紫音が、忘れてたとばかりに声をあげた。それを聞いて、フェルナンは今から説明すると立ち上がる。
「結構休んだからな。歩きながらにしよう」
「そだね」
大きな布を協力してたたみ、出していた水筒なども全部しまう。
そして、二人は再び、マッカレルに向けて足を進めるのだった。
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