第四話 能力値と魔法属性
領主の家からほど近い場所にある冒険者ギルドにたどり着き、木でできた両開きの扉の片方を開ける。
待っているときに使えるように、数個の背の高い丸テーブルと、右側の壁側には木のベンチが敷き詰められている。
反対側の壁には大きいコルクボードのようなものが二つあって、たくさんの紙が整列していた。
コルクボードの上には、それぞれ三つずつアルファベッドが書かれている。
「すみません」
「はい」
今はそこに用はないため、まっすぐ受付へと進んでいく。
素材などを売るための場所と、受付が二つ。
空いている受付に向かえば、白いシャツに赤いリボン、赤いベストに身を包んだ女性が返事をした。
「オーランドさんからの紹介で来ました。紫音です」
「――っ! ただいま準備をいたしますので、少々お待ちください」
今聖女であることが知れ渡るのは得策ではないと、オーランドは事前に冒険者ギルドに使いを出していたのだ。しっかりと状況を把握していたらしい受付嬢は、驚きに目を見開いたあと、すぐさま裏へと消えていく。
「お待たせいたしました、ご案内します」
数分と待たず、紫音に声がかかった。
先ほどの受付嬢の女性から声がかかり、階段を上がる背に続く。
「や、お待たせ」
「あ、はい」
登りきった先にあった部屋。扉の向こうには、ニカッと白い歯を見せて笑う、金色の瞳を持った細身の男がいた。
この世界でもらった中で一番軽い挨拶。紫音は思わずUターン思想になるのを堪え、部屋に入ると指定された席に着く。
目の前には、職業適性の時と同じようなクリスタルが複数置かれていた。
「俺は魔人族のケリオス。ここアルフォンシーノの街のギルド長やってるよ」
よろしくね。と飛ばされたウィンクに、思わず紫音は顔を歪めた。
チャラそうと感じた第一印象は、間違っていなかったと紫音は思った。
「よ、よろしく」
「まぁまぁそんな硬くならず、どう? まずはお茶でも――」
「ケリオス!」
グイグイとくるケリオスに鋭い声が飛んだ。
声の主は、今ちょうど部屋に入ってきた人物。長い金色の髪を持つ、赤縁のメガネをかけた女性だ。額からは十センチくらいの黒いツノが一本生えている。
「あ、うん。ごめんねハニー? 測定だよね、わかってるわかってる」
「ハニーではありません。いい加減ちゃんと仕事をしてください」
その言葉の内容から、ケリオスが常にこう言った態度なのが伺えて、紫音はその女性に同情した。
「申し遅れました、私は副ギルド長のロザリアです」
同じく魔人族だと述べたロザリアの瞳も、金色。
「ここは人族の治める国ですが、交友のために何箇所かこうして別の種族が納めているギルドがあるんですよ」
見つめていた理由を勘違いしたロザリアが、丁寧に説明してくれた。なぜ魔人族がギルド長なのかも気になっていた紫音は、なるほどと頷く。
「紫音は魔人族見たの初めて?」
「魔人族の区別は瞳でわかりますよ。全員金の瞳ですから」
楽しそうに話しかけてきたケリオスの言葉に頷けば、ロザリアが区別の方法を教えてくれる。
瞳以外で区別する方法はないようだ。
「それでは早速、測定しましょうか」
拳サイズのクリスタルが四つと、サッカーボールサイズの大きいものが一つ。目の前にあるクリスタルたちを示したロザリアが、かけていたメガネを人差し指でクイっと押し上げた。
「えー……もうちょっと話してても」
「し、ご、と、で、す!」
「……はい」
完璧に尻に敷かれている様子のケリオスは、現在小さく縮こまって椅子に座っている。ふんっと鼻から息を吐き出したロザリアは、気を取り直して紫音に向き直った。
「煩くてすみません。では、紫音様から見て左側から順に魔力を流していただけますか?」
拳サイズのクリスタル四つと、大きいクリスタルの順で魔力を流す。数秒ずれながら、それぞれが光を纏った。
左から順に、赤、金、金、赤。大きいクリスタルは、色を数秒ごとに変えながら光っている。
「へぇ、さすがだな」
「初期でこの色は素晴らしいですね」
「そうなんですか?」
「能力値は低い方から、白、青、緑、赤、金、虹、黒と上がっていきます。平均が青なので、初期で全て赤以上はかなり高いですね」
「さすがは聖女さまってとこか」
初めて真面目な顔をしたケイオスが、金色の瞳を細めてクリスタルを見つめている。
「左から順に、力、体力、魔力、魔力耐性の結果です。ターミナルでも表示されるので、後ほどご確認ください」
「ターミナル?」
持っていた書類にメモを取っていたロザリアが、紫音の知らない言葉を口にした。首を傾げれば、身分証の端末だとケイオスが説明してくれる。
「これは、何の意味があるんです?」
「魔法適性を調べるクリスタルですよ」
サッカーボールサイズの巨大なクリスタルは、未だゆっくりと色を変えながら光り輝いていた。
光の色は、白、無色透明、赤の順で輝いている。無色透明の時間が一番長い。
「三つか。しかし、聖女で火属性は珍しいな」
「魔法適性は、光、無、火属性ですね。適性が一番強いのは……無属性、のようですね」
「無属性……」
無属性は、道具への魔法付与や身体強化系の付与魔法。攻撃だと重力操作系の攻撃を覚えられる可能性があるとロザリアが説明する。覚えなければならないことがまた増えて、紫音は頭を抱えた。
「ま、これも全部ターミナルに表示されるから、後で確認しなよ」
「わかりました、ありがとうございます」
全て書類に書き終えたロザリアが、あとはターミナルに移す作業なのでと席を立った。
作業には少し時間がかかるようで、どこで待つかと聞かれた紫音は一階で待っている旨を伝える。
あからさまに残念そうな顔をしているケイオスは、二人とも無視をした。
「では、出来上がったらお呼びしますね」
「今度はお茶しようね」
「仕事は溜まってるんですからね、行きますよ」
ひらひらと手を振っているケイオスの耳を、ロザリアが思い切り掴んだ。痛い痛いと喚いているが、特に気にせずそのまま引っ張って行く。
「それじゃ、失礼します」
「二人ともツレない……」
対する紫音も、二人の関係性が何となくわかったので突っ込むことをせずその部屋を後にする。
ポツリと落とされたケイオスのつぶやきが、嫌に切なげに響いて消えた。
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