僕は隣の斎藤デス 2
「おはようございます」
エレベータホールで、エレベータを待っていると、笑顔で田中さんが現れた。
「おはようございます」
僕は頭を下げながら、なんとなく、テンションが上がる。
その時、ガチャリ、と、音がして、601の如月さんが出てきた。
「おはようございます」
僕と、田中さん、如月さんは異口同音に挨拶を交わす。
「昨日は、美味しいビールをありがとうございました」
田中さんが、にこやかに、如月さんに向かって笑いかける。
「い、いえ。こちらこそ、お世話になりまして」
僕は、『え?』と、思った。如月さんの顔が、ほんのり朱に染まっている。
「今日は、いい天気になりましたね」
くすり、と、田中さんが笑いかける。エレベータがちょうど開いた。
如月さんは、男の僕ですら、ハッとするくらいスマートに、エレベータへ彼女を誘導し、自分はすっと最後に乗り込んだ。
「今日から、出張なんですよ。晴れてよかった」
見たこともない柔らかな笑顔で、如月さんは彼女に話しかける。
「お仕事、大変ですね」
当たり前の、ご近所さん会話である。だからどうだという会話ではない。
しかし、僕はなんとなく、嫌な感じが胸に張り付く。
田中さんの様子は普通である。僕に対する時と、何ら変わりがない。違うのは、如月さんだ。
男の僕が見ても、二枚目の彼が、女性と一緒にいるのを見たことは一度や二度ではない。
しかし、こんなに、穏やかな表情をしているのを見たのは、初めてだ。
「それじゃあ、如月さんも、斎藤さんもお気をつけて」
田中さんは男二人に平等に笑顔を振りまいて、エレベータを降りていった。
僕は彼女と、如月さんに挨拶をして、駐車場へと向かう。
振り返ると、如月さんは、歩いていく田中さんの後姿をじっと見つめていた。
彼の顔に、男の僕が見ても見惚れるような、微笑みが浮かんでいた。
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