第45話 挽回

「ただいま」


「おかえりなさいませ。お嬢様」


「ふく……今日ね……フルーツパフェを食べてきたのよ。美味しかったわよ」


可否茶館コーヒーちゃかんに行かれたのですか? 」


「そうよ。信玄様が私と幸を連れて行ったくれたの」


「へ〜っ。信玄様がですか? 」


「あっ、誤解しないでね。信玄様は女学校に講師としていらっしゃったの。偶然、お昼の時一緒になって、ひょんなことからフルーツパフェをご馳走してくれることになっただけよ……」



「そうでしたか。それはよろしゅうございましたね」


 ふくは、ホッとした気持ちになる。信玄様ならこのお転婆なお嬢様を暖かく包みこむ包容力がある。


「あっ……ふく。今日も謙信様からお父様への手紙は届いた?」


「はい、届きましたよ」


「そう、よかったわ。ついでにと言ってはなんだけど……私宛には手紙なんか届いていないわよね」


「……届いていませんよ」




 謙信様からお父様宛に手紙が来るってことは、まだ私の事を好きでいてくれてるってこと……。謙信様は志乃夫人と逢い引きなんかじゃないよね。大丈夫だよ……謙信様に限ってそんなことするわけない。心に言い聞かせる。




「そういえば……今日料理の時間にあんぱんを作ったのだけど、直胤なおたねは帰ってきてる」


直胤なおたね様なら、中庭で……いらっし……」


「わかったわ」

 ふくの言葉を最後まで聞かずに中庭に走り出して行った伊勢。


 中庭で、政宗様と一緒に剣の練習をしていらっしゃいますよ……とお伝えしたかったのに……。


 ふくがつぶやいても、走り去る伊勢には聞こえない。





「直胤、約束のあんぱんよ〜」


「姉上。これが……あんぱんですか? 」


「伊勢、久しぶりだな」


 伊勢が差し出したあんぱんをさっと奪う政宗。

あの時のキスなど忘れてしまったかのように振る舞い、あんぱんを口に頬張る。


「形は悪いが、味はなかなか美味うまいぞ、伊勢」


「政宗様、姉上は料理や裁縫が不得意なんですよ」


「そうなのか。不得意は少しずつ克服していけば良い。形が悪くても食えればいい。このあんぱんだって食えるぞ! 」


「あの〜、政宗様……それは姉上を褒めてるんでしょうか? それともけなしているいるのでしょうか?」


「褒めているに決まっている。俺は伊勢が作ったものならなんでも食うぞ」


「政宗様……姉上の料理をですか? それでは政宗様の命がいくつあっても足りなくなりますよ」


「直胤、ちょっと失礼ね! 」


 ふくれっ面をする伊勢をみて、政宗が笑い出す。


「伊勢。この前は悪かったな。お詫びに、お前の料理に俺の命を差し出してもいいぞ! 」


「政宗様……もう、この前のことは、とっくに忘れました。それに料理も食べて頂かなくて結構です。食べなければ命を捧げていただかなくてもよろしいので!」


「姉上、政宗様。この前の舞踊会で何かあったのですか? 」


 真っ赤な顔で

直胤なおたね、あなたには関係ありません!!」



 

「伊勢、この前のお詫びがしたい。フルーツバフェを食べに行かないか? 」


「えっと……実は今日……信玄様が連れて行ってくれて、食べてきました」


「なんだと!? 」


「学校に講師として来ていた信玄様が私と友人の幸を可否茶館コーヒーちゃかんに連れて行ってくれ、そこでフルーツパフェを食べたんです」


「信玄は女学校の講演を引き受けたのか? 」


「はい。とても素敵なお話でしたよ」


「伊勢……フルーツパフェはやめだ。来週お祭りがある。その時に夜店を見に行こう。勿論、直胤も一緒だ。確か、伊勢は女だから夜のお祭りは危ないと禁止されていたのだよな。俺からお前の親に話をしてやろう。直胤、お前も絶対、行きたいよな? 」


直胤を睨みつける


「……えっと……行きたいです。いゃぁ、ずっと……行きたいと思ってました!」


「じゃ、決まったな。男二人がつきそうなら許可してくれるだろう」


「あの……私は行きたいと言っていませんが……」


「伊勢、美味しいものもいっぱいあるし、金魚すくいもできるぞ」


「金魚すくい……一度でいいからやってみたかったんじゃなかったのですか……姉上」


「そうだけど……」


「決まりだ。じゃ、今からお父上に話をして許可をもらってこよう」


「でも……」


「仕方がない。そんなに心配なら紅華も権太も進之介も誘って行こう。それなら伊勢も安心だろう」


「はい。それなら楽しみになります」




 紅華も一緒は気にくわないが、前回のことで伊勢は俺の事をかなり警戒しているから仕方がない。紅華は権太に任せよう。まずは、汚名挽回からだな。

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