第34話 巡り合わせ
「ダディ、マミィ……私の友達のいせだよ」
「はじめまして。今日はお招き頂きありがとうこざいます」
「オー、イセ。なんてラブリーな子なの」
「マミィ……イセとわたし……日本語と英語を教えあってるの」
「イセ……エミリーと仲良くしてくれてありがとう。これからも頼むわね」
「ダティ……今度イセのうちに行ってもいいでしょ」
「あぁ、いいよ。エミリー」
「ヤッター! 」
「イセ、エミリーは人見知りな子でなかなかお友達が出来なかったけど、君と友達になってからはとても嬉しそうにしているんだ。ありがとう」
「いいえ・・とんでもない。私こそエミリーにいつも助けてもらってばかりなんです。だから、私の方がお礼を言わないとならないんです」
ゴホッ・・ゴホッ・・
「あら、アンソニーお兄様」
「イセさん。ぼくはアンソニー。よろしくね」
「あら……アンソニーお兄様……私のお友達なのよ……イセを取らないでね」
「エミリー。わかってるよ。でもダンスの時間くらいはイセを僕に譲ってくれてもいいだろう」
「まっ……お兄様ったら……伊勢に気があるのね」
伊勢には、アンソニーとエミリーの英語が聞き取れてはいなかった。
「イセ……行きましょう! 」
「僕が二人をエスコートしよう。おじょうさん達、お手をどうぞ」
アンソニーはエミリーと伊勢の手を取り……会場へと進む。
バタン・・・
ドアが開かれる。
皆が振り向いて注目している。
今日の舞踊主催者の登場で会場は静まり返る。
パチ・パチ・パチッ・・
大使夫妻が会場に入ると一斉に拍手が湧き上がる。
「大使・・・本日はお招き頂きありがとうございます」
「みなさん。日本と我が国との友好を願い、今日は楽しんでください」
わーっと歓声が上がる。
大使夫妻の後に続き、アンソニーにエスコートされたエミリーと伊勢も会場に入る。
やわらかな金髪、紺碧こんぺきの青い瞳のアンソニーにエスコートされて入って来た伊勢は、薄藤色の見事なドレスを着こなし、まるでおとぎの国から現れた人形のように輝いていた。
「ウァァーオ!!」
金髪の若者達からも感嘆の声が聞こえる。
「アンソニーが、可愛い日本の子をエスコートしてるぞ」
感嘆とも取れる声が聞こえてくる。
嘘だろう。伊勢……お前は前世でも男達を魅了したが、今世では国を超えて男達を魅了してしまうのか……?
伊勢は、アンソニーに手を引かれ微笑みながら会場を魅了している。
「ふえさん・・・見て・・伊勢よ」
「絶さん・・絶対許せないわね」
面白い……俺のライバルは謙信だけでなく、大使の息子・アンソニーも伊勢を狙っているのか。俺は絶対に伊勢を手に入れたくなった。
プレイボーイの政宗に闘志が湧いた。
あの子はなんて魅力的なんだ。俺の誘いを断るなんて……そんな娘は今までいなかった。大人の魅力で、あの子を振り向かせるのも面白いかもしれないな!
取り巻きに愛想笑いをしながらも伊勢の登場を見て……そんなことを信玄は考えていた。
音楽が流れだし、ダンスが始まる。
「イセ。ボクと踊ってくれますか」
「はい。アンソニー。お願いします」
アンソニーは伊勢の手を取りフロアーへと連れて行く。
「イセ……きみは……なんてかわいいんだ」
「まっ……アンソニーったら」
伊勢の頬が赤く染まっている。
謙信は、信じられない光景に苛立っていた。
お前の相手はそんな男ではない。伊勢……頬を染めてその男に微笑むな・・
二曲目のワルツを踊り終わった時に、エミリーが走り寄ってくる。
「アンソニー兄様っ」
「エミリー。わかったよ。イセを君に返そう」
「イセ……また後でね」
アンソニーが伊勢に投げキスをする。
「まっ……アンソニー兄さまったら……ところで、イセ…アシ…だいじょうぶ?」
「エミリー。知ってたの。わたし……倒れた時に足をくじいちゃったみたいなの」
「足をひきずってたようだから……アンソニー兄様は気がつかなかったようだけど……私にはわかったわ」
「エミリー。私……ここで少し休んでいるわね」
「わかった。わたしゲストに挨拶してこなくちゃならないから…イセ……無理せずにね」
そんなに痛くなかったのに……踊るとさすがに痛みが出て来たわ。これじゃ……歩くのもきついかな。
「伊勢……あなた泣きながら家に帰ったと思ったのに……」
「ふえさんと絶さん……」
「大使と知り合いだったとは……驚きね」
絶が座っている伊勢の足を、わざと蹴る。
「……痛っ……何をするの」
涙目で絶を睨む
「あら……スカートの裾が引っかかってしまったわ」
ドスッ・・
「あら……私も裾が引っかかったわ」
ふえも同じように伊勢のくじいている足を蹴る。
「伊勢さん……あなたは落ちこぼれで女学校の恥なのよ」
「私は、あなた達に迷惑をかけていないわ」
「何言ってるの伊勢さん。あなたの存在自体が迷惑なのよ。どこかに消えてほしいくらいよ」
二人に蹴られた足はさらに腫れ上がり、伊勢は必死に痛みに耐えていた。
「おい……何をしている? 」
「……あら。謙信様。私達は何も……ただ伊勢さんとお話ししていましたの」
「そう……私たち同じ女学校ですのよ。伊勢さんたら学校一の落ちこぼれでいつも先生に怒られているので私たちからも忠告差し上げてたの」
「謙信様……ふえさんの言う通りですわ。伊勢さんは、裁縫や料理が全く出来ませんのよ」
「あははは……そうなのか」
「そうですわ」
氷の謙信様が笑ってる…。伊勢のやついい気味だわ!
謙信様が伊勢のような落ちこぼれに興味持つはずがないわ。みんなに笑われるといいわ。ふえさん……よく言ってくれたわ
「それは、面白いな」
伊勢……お前らしいな。
「伊勢さんは、良妻賢母にはなれませんわ。謙信様」
伊勢さん。これで謙信様に嫌われたわね
「伊勢。源氏物語は今でも読んでいるのか? 」
「えっ……はい。源氏物語は大好きです。最近は吾妻鏡や枕草子も読んでいます」
なぜ……知っているのかな?
「そうか……」
「謙信様……伊勢のことなどどうでもいいわ……私達と踊ってはくださらない」
「君たちと踊って、足蹴りされるのはごめんだ。悪いが……他を当たってくれ」
「えっ……そんな……」
見られてたんだ。伊勢のせいだわ。伊勢なんかがここに来てるから、こうなったんだわ!
「伊勢……足をくじいているのだろう。これでは、もうダンスも踊れまい」
ふわっと体が浮いた。
「馬車が待っているから……家まで送ろう」
謙信は、人の目など気にせずに伊勢を抱き上げる。
「見て……あの
「うそー!……またあの子よ」
エミリーが走り寄ってくる。
「イセ……だいじようぶ?」
「俺の名は上杉謙信。伊勢を家まで送り届けるので心配いらない」
エミリーはびっくりしているものの、頬を染めている伊勢の顔を見て直感する。
「オッケー。じゃ……イセを頼むわね」
「あの……」
伊勢は、抱きかかえられながら、謙信の顔をそっと見る。
謙信は、伊勢の顔も見ず……無表情でまっすぐ前をみて歩いている。
外では、影持が馬車で待っていた。
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