第18話 祈恋。
『つらかりし 人こそあらめ祈るとて 神にも尽くす わがこころかな』
馬を飛ばした。
一刻も早く……伊勢に会いたい。
伊勢……待っておるのだ!!
伊勢の愛馬・天馬に乗り……
「……伊勢……伊勢はおるか……伊勢……」
謙信は、思いの丈に叫ぶ。
「……謙信殿……伊勢殿は
「……なんだと!! 伊勢が越後を離れたと申すのか」
「伊勢姫様は、こちらに来られてから、お食事を取ることも出来ず、とても衰弱しておりました。このままでは命に関わるとふく殿がとても心配なされ……ご帰郷となったのでございます」
「伊勢は……そんなに弱っておったのか」
「はい。お食事を取ることが出来ないだけではなく、お言葉を発することも出来なくなっておりました」
「……それで、ふくが
「そうでございます」
「……なんということだ」
謙信に二通の文を差し出す。
「謙信殿と
謙信は文を受け取ると……再び……急いで馬に乗る。
「影持……伊勢を追うぞ 」
「……はっ」
……伊勢。勝手に越後を離れてはならぬ。剃髪しようが、
謙信は、
馬を走らせ、しばらくすると……
前方に人だかりが出来ている。
「……どうしたらよいのかのぅ」
「なんでこんなことになっちまったんだろう・・・」
人だかりの中で……二人の男が……おろおろとしながら嘆いている。
細い道を塞がれ、馬を走らせていくことも出来ず……
謙信は、一旦馬から降り、人だかりの中……馬を引いて歩いて行く。
皆を蹴散らしてでも、先を急ぎたいのだが……これだけの人混みの中、馬を走らせる訳にもまいらぬ。馬から降りるしかないだろう……
やり切れぬ思いで馬から降り……早急に過ぎ去ろうとした時……
謙信の目に信じられない光景が飛び込んでくる。
あれは……ついこの間、伊勢と二人で見た桜ではないか……
……その木の根本に横たわる娘……見覚えのある着物……
……まさか…………?
人混みの向こうに……倒れている二人の
人混みをかき分け……謙信が駆け寄る。
「なんと言うことだ。……伊勢!! ……伊勢!! 目を覚ますのだ !」
黄色い御衣黄桜の花びらが、ひらひらと舞っている。
謙信は伊勢の亡骸を抱きしめ……。
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