第17話 羽衣
伊勢が、
「姫様……どうか……何か召し上がってください。この真っ赤ないちごも……美味しそうですよ」
ふくが、やさしく伊勢に声をかける。
伊勢は、まるで
あの日以来・・伊勢は何も食べることができなくなっていた。
柿崎
伊勢は武家の娘らしく覚悟を決めると……柿崎
ふくは、おろおろと泣いている。
あれから……
伊勢姫様は、一言も言葉を発しなくなり、体もひどく弱ってきている。
……ふくにはわかっていた。
「姫様……お父上やお母上のもとに帰りましょう。姫様はすでに剃髪し、出家した身。
ふくは、伊勢の
「
ー数日後ー
「……姫様。……姫様……帰郷のお許しをもらいましたよ。……帰郷されたら、きっとご気分もよくなりますよ」
「……ふく。ありがとう」
弱々しい声でふくに礼を言う。久しぶりに伊勢の声を聞いたふく。
「さぁ、姫様……
「……ふく。謙信様と
伊勢は急いでふたりへ手紙を書く。
……謙信様に、このような
でも……何も言わずに去ることは……どんなに謙信様を傷つけるだろう。
せめて……手紙を残そう。
今……伊勢に許された、謙信への愛はこの手紙だけだった。
ふくは、書き終えた伊勢の手を取り、
ふくは、大きなしだれ桜の木の横に、遅咲きのめずらしい黄色い桜(御衣黄桜)が咲いているのを目にする。
「……姫様……あそこに黄色い桜が咲いていますよ。こんな時期に、めずらしいものですね」
「ふく。……
そこは謙信と伊勢が、
ふくは
伊勢は
「あの時見た、なでしこ
「姫様……そんなことがあったんですね」
「ねぇ……ふく。……あれは……夢だったのかしら・・」
「……姫様」
ふくは、伊勢の肩を抱き寄せ、すすり泣く。
「……ふく。謙信様との思い出のあの桜。どうしても、枝を一つだけ持ち帰りたいのだけど……」
「……わかりました。姫様……小さな枝を持ち帰りましょう」
伊勢が桜の木の枝に手を伸ばす。
ふくは、涙ぐみながら横で見ている。
ザザーッ・・・一瞬・・ひときわ大きな風が桜の木を揺らした・・・
二人が後ろを振り向くと……黒装束に身を包んだ男たちが数人……伊勢とふくの後ろに立っている。
「……何者じゃ」
ふくの声が響き渡る。
男たちは、一瞬にして二人を捕らえ……口上を述べる。
「伊勢姫殿……あなた様のお命……頂戴いたします」
「……何を申すのだ。我らは許可を得て……これから帰郷するのじゃ」
ふくが 叫ぶ。
「伊勢姫殿に罪はございません。しかし……我らは命をうけております」
「誰のさしがねじゃ? ……
ふくが怒鳴る。
黒装束の男は、静かな声で・・
「伊勢姫殿……あなたが生きていると……殿はどんな手段を使ってでも、あなたと一緒に生きることを望むでしょう。その為に無駄な
「……わたくしの髪だけでは足り無いと言うのですね」
…… そう……伊勢が言い終える間も無く……
伊勢は、黒装束の男たちに襲われる。
「……なんということ……。あぁ ……謙信様!!」
想い出の……桜の木の下……伊勢とふく……
ふたりの命のともしびが……静かに消えていった。
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