第6話 溢れる想い
謙信は、自分自身が信じられなかった。伊勢をこれからどうするのか、自問自答していたが、答えがみつからない。
春日山城に伊勢が到着した日からすでに一週間が過ぎている。
伊勢は俺を恨んでいるのだろうか……?
いったい、俺はなぜ伊勢をここへ呼んだのか……?
命を助けたとはいえ、たった一度会っただけの小娘ではないか……?
伊勢を助けた後、平井の村で聞こえて来た村人達の話が俺を狂わせたとでも言うのか……!!
ー平井金山城下ー
「聞いたかい。伊勢姫様が誰かに、さらわれてしまったかも知れないって話……」
「あぁ。あの天女のように美しくて心優しい姫様。馬に乗って一人で村に現れ、子供達と遊んでくれたり、お城から持って来た甘味を病気のばばぁにくれたこともあったあの姫様だろう?」
「そうだよ。お美しいのは容姿だけじゃなくて、心まで綺麗なお方さ」
「千葉の殿様も伊勢姫だけは、嫁に出すのを渋ってるってぇのもわかるよな」
「武田信玄、
「千葉の殿様は、誰に伊勢姫を渡すのかねぇー」
謙信は、村人達の会話を黙って聞いていたが、無性にイライラしていた。
「武田信玄や伊達晴宗だと?!……伊勢は誰にも渡さない」
==== 春日山城 ===
伊勢の部屋にはすべてのものが品良く設えられていた。部屋も陽のあたる見晴らしの良い部屋。
ふくは、もうここでの生活に慣れて来たようで、侍女達とも仲良く話している。人質とはとうてい思えない待遇だ。侍女達は毎日花を生けにくる。謙信様直々のお達しらしい。
でも・・謙信様自身はあれから一度も会いに来てはくれない。私は、なぜか謙信様が会いに来てくれるのを毎日待っている。
ふくは、私の気持ちなど気づかずに、侍女達が噂している事を囁いてくる。
「姫様……謙信殿は、
「姫様……ふくは今日こんな話も聞きましたよ。謙信殿はみなから軍神と呼ばれており、小さな時から戦が大好きだったそうですよ。笑うことなど滅多になく、侍女達に話しかけたこともないのですって。とにかくすごく怖いお方なんだとか……姫様、油断禁物ですよ」
あの時会った謙信とはまるで別の謙信がここに住んでいるかのような噂話だった。
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