悪夢十夜
中田祐三
壁と壁の間の無数の猫
こんな夢を見た。
ワンルームの部屋の壁からカリカリと音がする。 それは断続的で、だが激しいものだ。
隣の部屋の住人が何かしているのだろうか?
不思議だとは思うが、何か面倒くさいので放っておくことにした。
だが、玄関の扉が開き、隣に住むという青年がやってきた。
彼は青いTシャツに灰色のカーゴパンツを履き、いつも部屋をカリカリひっかいているが何をしているのかと訪ねてくる。
私はそんなことはしていない、むしろ君の方がそれをやっていると思っていたと答えると、青年は気味悪そうな表情になって戸惑うようにえっ? と言った。
私もその状況に対して何も言うことができず生唾を飲み込んでただただ黙っている。
だが放っておいた事態が実は謎につつまれていたことに気づいてしまった以上、
謎のままで済ますことはできないと判断し、私は青年の部屋を見せてくれるかと問かけると青年もやはり私と同じ気持ちだったのか、分かりましたと答え部屋を見せてくれた。
青年の部屋は若者らしくなかなか雑然としていた。
件の壁側は本棚になっており、なるほど確かに彼の方から何かしているということはなさそうだと考えているとまた同じように壁の方からカリカリと音がする。
まったくなんなのだと私の部屋に戻る。 すると青年が足元の壁に小さい穴があいてると言った。
前に足があたり穴があいたという記憶が蘇り、そう答えると青年はそれならばこの穴を少し広げて壁の内側を見てみようというので、私もそれは良いアイディアだと答え、おもむろに壁の穴に指をいれて穴を広げてみる。
やがて拳が入るほどに大きくなった穴から覗き込むと何か動くものが見えた。
それがなんなのかを凝視しようとするとその何かが近づいてくる。 驚いた私が穴から顔を話すと、その何かが穴から這い出してきた。
それは猫だった。 まだ生まれてそんなにはたっていないだろう、小さなその子供の猫は橙色と白と黒の模様で可愛くニャーと鳴いて部屋のなかを走り回る。
なんだ猫だったのかと青年と私がホッと視線を合わせると、件の穴から子猫がまた出てきた。
今度は先ほどの猫とは違い、雪のように白い子猫だ。
壁の内側で猫が子供を産んだんですかねと青年が言うので、おそらくそうでしょうと私も答えた。
すると今度は連続で三匹猫が出てきた。 また先ほどの子猫たちとは違う毛色の猫だ。
随分と産んだんですねと青年がまたまた言うので、私もそうですねと答えた。
そんなことを言っていたら三度子猫が数匹でてきた。 それらが部屋の中に入ってきた瞬間に、また数匹の猫がはい出てくる。 それも終わるとまた同じように数匹の子猫が出てくる。
部屋の床は何匹もの子猫で埋め尽くされている。 猫は好きだが、あまりに数が多いと、しかもそれらが壁の内側にいたという事実でなんだか気持ちが悪い。
思い切って更に壁の穴を広げ、今度は人が這って入れるくらいに穴を広げ、また覗き込む。 その間にさえ開けた穴の内側からは何匹もの猫の鳴き声が響いている。
壁の内側は広い空間だった。 いや、正確に言うと私の部屋の壁と青年の部屋の壁の間にもまた同じように部屋が一つ存在しているのだ。
部屋の中は薄暗いが、まるで誰かが住んでいたかのようにテレビやベッドがあり、洗濯物を部屋干ししていたのか、洗濯紐が部屋の端から端までかけられており、そこにシャツやらズボンがきれいにかけられていた。
そして床には無数の猫が敷き詰められているかのように存在し、それらが押し合いへし合いしながらニャーニャーと悲鳴のように鳴いている。
部屋のあちこちには猫の死体があり、それらを餌として食べている猫やたくさんの妊娠した猫がボコボコと子猫を産んでいる。 そしてたまに餌を食べ損ねた猫がその生まれた子猫を捕食している。
その間にさえ妊娠した猫たちはニャーと鳴きながらボコボコ子猫を生んでいる。
「きっと税制対策か何かで部屋を一つ埋めたんでしょうね」
明るい声で言う青年に、
「そうだね、理由がわかってよかったよかった」
となぜか私も朗らかに答えた。
そこで目が覚めた。 最近はこんな夢ばかり見る。
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