【57+滴】中立者2

 だがそんなシスターは一歩目を踏み出す前に肩を叩かれ、再度振り返る。


「シスター莉奈!」


 莉奈と呼ばれたシスターを呼び止めたレイで、彼は大きく両腕を広げていた。


「まぁ! レイくん」


 レイを見るや否や表情を喜色満面に溢れさせた莉奈は、彼の広げた腕に包まれ再会のハグをした。

 その後、莉奈は顔を見るため少し離れるがレイの手は以前と腰に回ったまま。


「久しぶりね」

「最近は来れてなかったからな」


 すると、再会を喜ぶレイの蟀谷へ銃口が突きつけられた。


「今すぐ姉さんから離れねーんなら、ちょっとしかねーその脳みそぶちまけるぞ」


 幼いその声にレイは回していた腕を離すと銃を正面にした。額へと移動した銃口が突きつけられていたが口に浮かんでいたのは笑み。


「よぉークソガキ。相変わらず、お姉ちゃん! お姉ちゃん! してるのか? そろそろお姉ちゃん離れしろよ」


 長椅子の背凭れに腰を下ろしながら曲げた右足も乗せていたは、半袖シャツにサスペンダー、半ズボンと黒のロングブーツを履いた少年。

 少年は左手に握ったハンドガンをレイへと向け続けていた。


「てめーみたいなきたねー野良犬を近づけない為に見張ってるんだよ」

「おいおい。口が悪いと大好きなお姉ちゃんに嫌われるぞ?」

「そんなことで俺様を嫌うわけねーだろ」


 口調は穏やかだったが、激しくぶつかり合う視線には火花が散っている。

 そんな二人を心配そうに見ていた優也、隣では裏腹に嬉しそうにしている莉奈がいた。


「あの二人は相変わらず仲が良いわ。本当の兄弟みたい」

「そんな悠長なこと言ってないで止めないと」

「大丈夫よ。あの子の銃はおもちゃと交換しておいたから」


 その話を聞いた少年は真上に向かって引き金を引くが銃口からはプラスチックの弾が飛び出し舌打ちをする。


「お子ちゃまには玩具がお似合いだな」

「んだとっ!」


 それからもレイと少年の兄弟のような口喧嘩は教会中に響いた。


「全く――うるせーな。ここは教会だぞ」


 すると、眼鏡をかけ顎鬚を生やし四つほど小さな十字架をぶら提げた中年ぐらいの見るからに神父が教会の奥から出てきた。

 カソック姿の神父は口に咥えたタバコに火をつけながら歩いてくる。

 そして騒音の原因へ目を向けた。


「誰かと思えば、レイの小僧じゃねーか」

「よう。クソ神父」

「神父をクソ呼ばわりとは天罰がくだるぞ」

「教会内でタバコ吸ってる奴に言われたくねーよ」


 レイは横を通り過ぎて行く神父を顔で追いながらそう返事をした。

 そして神父はそのまま莉奈の隣まで行く。


「ここの神様はタバコ好きだからいいんだよ」


 そう言いながら神父はそっと莉奈の腰に手を回した。莉奈はいつものことなのかとくに表情を変えず携帯用の灰皿を差し出す。


「でも神父様、タバコは体に悪いですよ」


 返事をする前に神父は灰を落とし、もうひと吸いした。それを確認した莉奈は携帯用灰皿の蓋を閉じる。


「大丈夫だ莉奈。俺の肺には神から授けられた浄化機能がついてるからな」

「まぁあ! なら安心ですね」


 莉奈は携帯用灰皿を持ちながら両手を叩いて言う。その表情は疑いとは無縁のものだった。


「おい! クソジジイ! 姉さんからそのきたねー手を離せ」


 すると神父へ銃口を向けた少年の怒りの声が飛んできた。


「そんな玩具で俺を殺せると思ってるのか?」


 だが特に動じもしなければ手を離すこともしない神父は煙の上がる煙草で玩具の銃を指した。


「クソッ!」


 玩具であることを忘れていたのか少年は苛立ちを露わにしながら銃を投げ捨てた。


「全くどいつもこいつも口が悪いな。誰の影響だか」


 そう言いながら神父は優也とノアに視線を向ける。


「見ない顔だな」

「優也とノアだ」


 レイは優也とノアを右手で順に指しながら紹介した。

 そして、その手をそのまま神父に向ける。


「こっちが一応神父と看板シスターの莉奈とクソガキだ」

「誰が一応だ。このぼんくら」


 神父は璃奈が再び開いた携帯灰皿でタバコの火を消しながら言った。


「俺はこの教会の神父、神花・M・W・ディンドだ」

「シスターの神花莉奈です」


 その間に少年は莉奈の傍まで来ていたが、何も言わずただ立っているだけ。


「ごめんなさい。この子は、弟の凪」

「よろしくね」


 前屈みになり目線を合わせる優也。


「お前、姉さんに手ー出したら殺すからな」

「なーくん。そんなこと言っちゃダメでしょ」


 優しい口調で怒る莉奈。だが凪はそっぽを向いた。


「ごめんなさい。この子人見知りなもので」


 代わりに申し訳なさそうに謝る莉奈。


「大丈夫ですよ。気にしないでください」

「それでは私達は夕飯の支度があるのでこれで」


 そして一礼をした莉奈は凪を連れ神父が現れた奥へと歩いて消えた。

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