【57滴】中立者
マーリンの部屋を出て書庫へと向かう優也。
その途中、使わせてもらってる部屋の前でノアを見かけた。彼女はドア前の壁を真剣な眼差しで見つめている。
「どうしたの?」
彼女の視線の先を見るとそこには壁にあの血で書かれた数字。時間が経ち染みついた血は朱殷色となっていた。
「どういう意味なんだろうね。このローマ数字とアラビア数字の組み合わせ」
「さぁーな」
「まぁ、こういう謎解きは夕食のあとでなんていうからね」
「どういう意味だ?」
とあるドラマの題名を思い出し陽気にそう言った優也だったが、残念ながら相手は吸血鬼。しかも長い間この世界から離れていた。通じるはずもなかった。
「いや、何でもないよ。じゃあ、僕は書庫に行くから」
「何しにいくんだ?」
「調べ物」
するとノアは口角を上げて肩を組んだ。
「俺も手伝う」
「僕は今から文字がたくさん並んだ本をいっぱい読みにいくんだよ?」
手を咲かせるように広げ沢山を表現する優也。それに加え少し笑いながら言った。
「バカにしてんのか?」
「じゃあ行く?」
「任せろ!」
自信満々な返事を聞くと二人は書庫へと向かった。
口を大きく開けて欠伸をするノア。
「あーもうダメだ。これ見てるだけで欠伸と眠気が……」
そう言いながら開いた分厚い本に頭を落とすノア。沢山の情報が書かれた本も彼女にかかればただの枕と化していた。
隣に座っていた優也は開いた本から視線を外すとそんなノアへ向ける。
「ノア? まだ五分しか経ってないけど? 予想以上に早かったね」
「この本にマーリンが眠くなる魔術でも掛けてんじゃねーか?」
「マーリンさんはそんなに暇じゃないと思うけど? そんなことより吸血鬼に関して何か書かれてないか調べてよ」
優也は本に視線を戻すとページを捲った。
「ほら。あったよ」
すると少し嬉しそうにノアの肩を叩き起こし、本と一緒に身を寄せその部分を指差す。
「吸血鬼は本来、この国の発祥ではない。だが、いつどういう目的でこの国に来たのかは分からない。だって」
「ウソだろ!? じゃあ、俺はどこで生まれたんだよ……」
「いや、発祥だからノアはこの国で生まれたんだと思うよ。多分……知らないけど」
「あぁ、そうか」
「面白いでしょ。本を読めば色んな事が分かるんだよ。さぁ、ノアも探して」
「おっしゃ」
二時間後……。
「やってるか? 諸君」
静寂の書庫にドアの開く音が響き、その後を追って聞こえてきたレイの声。そんな彼と共に入って来たのはトレイを持ったアモ。
するとレイは入って来るや否やノアを見ると片手で顔を覆い天を仰ぎながらもう片方の手をポケットに入れる。
「なぁー! マジかよ!」
そして紙幣を一枚取り出してアモの差し出した左手へ叩きつけるように置いた。アモはそれをポケットに仕舞うと紅茶を配り始める。
一方レイはノアらが本を読んでいるテーブルに座った。
「何で寝てないんだ? もう二時間だぞ。お前が本をこんなに読める訳ないだろ」
「お前も読んだ方がいいぞ。本」
その言葉にレイはノアの額に手を当てた。
「熱はないみたいだな」
「おい。結構楽しんだぜ? 間違い探しみたいで」
ノアは読み終えた本を閉じ近くの本の塔に重ねた。
「まぁいいや。――あっ、そうだ。今から古い知人に会いに行くんだが、お前らも来いよ。紹介しておきたいからな」
「別に良いけど」
「おっ! いいぜ。丁度体動かして―と思ってたところだしな」
「よーし。それじゃ、行くぞ」
そう言うとレイとノアは先に書庫を出て行った。優也は本を閉じアモへ顔を向ける。
「ここ、そのままにしていいですか? また後で続きやりたいので」
「大丈夫ですよ。ですが、紅茶は片付けてもよろしいですよね?」
「折角持ってきてもらったのにすみません」
「お気になさらず」
そして優也も書庫を後にした。
レイに連れられ二人がやってきたのは教会だった。それは少し路地を進んだ場所にある目立たない教会。
階段を数段上がり大きなドアを開けたレイは、まずノアと優也を先に中へ。教会内へ入った優也の視線を一番最初に引いたのは正面の壁にかけられた大きな十字架。それから二人は教会内を見渡しながら均等に並べられた長椅子の間に伸びる身廊を歩く。
そして先にある祭壇の前へ視線を向けると、そこには修道服のシスターが背を向けて立っていた。
すると二人の足音に振り返ったシスター。首から小さな十字架を提げたシスターはお腹の前で手を組み聖母のような柔和な笑みで微笑んでいた。
「こんばんは。神様の近くでお祈りをしたいのでしたら前の席でどうぞ。少し恥ずかしいのでしたら後ろの席でも大丈夫ですよ」
「あのシスター、僕達お祈りしにきたわけじゃ……」
その言葉にシスターは少しその場で考える。
「分かりました。何か告白したいことが、胸の内にあるんですね。すぐに神父様をお呼びしますから少々お待ちください」
手を一度叩いたシスターはそう告げると一礼をし、神父を呼びに行こうと身を翻した。
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