【8+滴】どちらの道を選ぶのか2
「まもるー」
「ん?」
名前を呼ばれた真守はカツ丼を食べようとした手を止めて優也の方を見遣った。
「もし、女性を助けたことでいざこざに巻き込まれてその女性と一緒に戦うか別れて一人で逃げるかのどちらかを選ばないといけなくなったらどうする?」
「また小説でも読んで考えごとしてるのか?」
「まぁ、そんなところかな」
「ゆー君って小説好きだね。でも大学の頃は色んな本も読んでたっけ。写真の撮り方の本とか、絵の描き方の本とか」
「マッサージも読んでたよな。なのに俺にはしてくれなかったがな」
そのまるでまだ根に持っていると言いたげな冗談交じりの視線が優也へ向けられた。
「あの時は僕も疲れてたからね。それより、どう思う?」
「ん~」
真守は箸を置き顎に手を当て考え始める。随分と真剣に考えてくれているらしく彼の人の好さがよく現れていた。
そして頭の中で考え抜いた真守は答えを出した。
「そーだなー。俺だったら一緒に戦うな」
「でも、その人は強いから足手まといになるかもよ?」
「だったら強くなればいいだろ? その人が強いなら色々と教えてもらえばいいじゃん! 一緒にいれて強くなれる。一石二鳥! それに、女性が戦ってるのに俺は逃げるから頑張って、じゃあかっこつかないだろ?」
「まぁ、そうだけど……そう上手くいくとは思えないけどなぁ。あいは?」
ノアが自分の為に戦っているのに自分は逃げるということが格好悪いというのには同意だったが、戦い方を習い一緒に戦うというのは上手くいく気がしなかった。
それ故、あまり納得いかなかった優也は次に愛笑の方へと顔を向ける。愛笑は真守と一緒に考えていたのかすぐに答えをくれた。
「私も一緒に行くかな」
「どうして?」
「えーっと。戦うとかはその人の足手まといになるかもしれないけど他の事でその人を助けてあげたいから」
「なるほどー」
愛笑の答えにある程度納得していた優也は、何度か頷きながらノアの為に何ができるかを考えたが、そうパッと出てくるものでもなかった。
「それに、迷ってるってことは心のどこかでその人と一緒に居たいって思ってるってことなんじゃないかな? 私はそう思うよ。だから一緒に行って、もし違うと思えばそれからでも別れるのは遅くないんじゃない? だから、主人公は一緒に行くべき!」
「おぉ~! さすが愛笑!」
そう言いながら真守は愛笑に向けて拍手した。それに対して愛笑は面映ゆそうにしていた。
「心のどこかで一緒に居たいと思ってるかぁ」
そんな二人を他所に再度確認するように小さく呟くと、一人近くも遠い自分の事を考え始めた。
「おい! 優也って」
「ん?」
「だから、今日仕事終わったら三人で飯いこーぜって」
「うん、いいよ」
了承の意を伝えると優也は愛笑へ尋ねるような視線を向けた。
「私も大丈夫だよ」
愛笑はその視線を受けるとニッコリとした笑顔で返事をした。
それからご飯を食べながら雑談をしていると昼休憩は終わり再び仕事へと戻る。
そしてその日の仕事も終わると目的のお店を目指し三人は街中を歩いていた。
「いや~今日も疲れたぁ」
「そういえばまー君、また部長に叱られてたね」
「はぁ~。言わないでくれよ愛笑。またやっちまった記憶が……」
「真守は最近ミスが多いからね。もっと気をつけないと」
「あぁーもう仕事の話はよそうぜ」
「そうね。ごめんごめん」
「それよりwackstrongrの新曲聴いたか?」
「うん! 聴いた! あれ……」
会話が新たな話題に変わったところで優也は、何やら刺すような嫌な視線を後方から感じた。ハッキリとした確信があった訳ではないが、勘違いとも思えない。
この時、脳裏で警告を鳴らすようにマーリンの言葉が蘇り思わず足が止まる。
「(むしろこれからが本番よ)」
まさかと思いながらも、もしもの場合が頭を過った。もしオークのような存在に今襲われたら自分だけではなく真守や愛笑、周りの人々にも迷惑がかかってしまう。
そう思うと優也は二人を呼び止めた。
「真守。愛笑」
その声に話を中断した二人が振り返る。
「ごめん! これから用事あるの忘れてた!」
軽く頭を下げながらその前で手を合わせ謝る優也。
そんな謝罪に一度顔を見合わせた二人の表情は特に怒っている様子も無く穏やかなものだった。
そして真守はわざとらしく溜息を零す。
「全くしょうがないな、カツ丼だからな」
「全然大丈夫だよ。私は、Cランチね」
そんな二人の言葉に頭を上げる優也。
「分かったよ。ありがとう! じゃあ、また明日!」
そして踵を返すと二人に手を振り走り出した。勘違いならそれはそれで良いが今はこの場所を離れるのが先決。
しばらく人波に逆らいながら走り続けた優也はその後に適当に路地へと入った。そこを抜けると駐車場があり、辺りを見回してみても全く人けは無い。それを確認した優也の足が止まる。
「気のせいだといいけど」
願うように呟き両膝に手を乗せながら息を整えていると、何やらバサバサと羽ばたく音が後方上空から近づいてきた。
「わざわざ人気の無い所に来たのか? いや、そもそも気が付いていたのか?」
あまり抑揚の無い声と羽ばたく音に振り返り見上げると、そこには漆黒の翼に修験装束を身に付け頭に頭襟、足に一本下駄を履いた優也もよく知る妖怪に酷似した存在がいた。更に手には先の尖った錫杖を持ちどう見ても脳裏に浮かぶそれでしかなった。
それは鴉天狗。
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