本が読めない僕だけど文字書きに憧れても許されるよね?
あきよし全一
第1話 本が読めなくなったらどうしますか?
「僕は狂気の世界からよみがえった、ダークヒーローだ。お前に狂気がもたらす真の力を見せてやろう」
漫画やラノベでは、たま~に見かけるセリフです。
要するに「精神が死んで復活したから、お前よりタフになってるぜ!」みたいな意味なのかなぁと思いますが……
……こんなの嘘ですから!
狂気の世界なんて、周囲の状況も把握できなくて、おぼれるような苦しさが続くだけ。
むしろ困ったことしか起こらないよという話です。
あれは十年くらい前のこと。ある日、突然字が読めなくなりました。
単語と単語の意味のつながりが分からなくなったのです。
それだけではありません。職場で周りの人間が自分を監視していたり、K談社が原作のアニメに自分がその日体験したことが描かれたりしていると思い込んでしまいました。
賢明なる読者諸氏はお気づきでしょう。これは統合失調症という病気の症状です。
一言でいえば「妄想乙!」ですね。
文字が読めなくなるというのは珍しいケースだそうですが、日常会話ができなくなる病気なので、そういう症状が出ても変ではないと思っています。
……それで作家さんや漫画家さんに「俺の話を書くなー!」とか「尾行をやめろー!」とか「賠償を求める、具体的にはK談社で僕を雇って給料よこせ!」とか、嫌がらせでしかないメールを送ってました。
一番しつこく送ったのは村山由佳先生宛でしたね。ハードカバーの単行本が一冊できるくらい送ったと思います。
先生、その節は誠に申し訳ございませんでした。
さて、僕の奇行は会社や家族に広く知れ渡るところとなり、親のすすめで辞表を提出。無事、受理されました。
この頃には投薬治療が始まっておりましたから、少しずつ「自分が何をしでかしたか」分かってきちゃうんですね。
くっそ恥ずかしい……! 死にたい! むしろ死ね!
タイムマシンがあったら過去の自分を安楽死させていたと思います。
だから文字が読めないということは最大の逃げ場になったわけです。
何の逃げ場? 本からの逃げ場。
書店に行けばK談社の本が並び、僕は迷惑メールを送った加害者なんだという自責の念と、「やっぱりコレは僕を尾行して書いているのではないか」という妄想の板挟みになって苦しくて仕方なかった。
だから一切、本を読まなくなったんです。
何より当時は頭の中が苦しくて、日常生活を送るので精一杯でした。だから死ぬまで本を読むことはないだろうと思っていたわけです。
でもね。
人生って思ったより長い。
だんだん薬が効いてきたらしく、文字の意味が短文に限って分かるようになってきたのです。
そうすると、リハビリで文章を書いてみましょうということになる。
ツイッターを始める。
「なろう」経由でカクヨムに行きつく。
読むのがダメでも、書くほうなら、思いついた内容を順番に殴り書いていけばいい。
こうして僕は文章を書く楽しさを思い出し、幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
――とは行かないんです。
さっき本屋で、ツイッターで知った作家さんの本をパラパラめくってみたんですが、ダメでした。
行あけ無しで文字が並んでいると、頭がパンクしてしまう。
適切に改行されていても、内容が暗いと落ち込んでしまう。
本が厚すぎると前に何が書いてあったか忘れてしまい、オチへのつながりが分からない。
こうなると、ぶっちゃけ本を読むのが怖いです。
抗不安剤を飲む。
そろそろ自分が何書いてるのか分からなくなってきた!
つまりですね、「本が読めないのに、文章を書くのが楽しいなんて許されるのか?」ということが今日考えたことなんです。
そうなんです。今、決めた。
年に一冊、本を読み切れたら頑張ったほうみたいな人間が、文章を書くのは許されるのでしょうか。
本音を言えば、許されると思いたいから、こんな日記を書いてるんですが。
ダメかな?
とりあえず今日はここまで。
お付き合いくださってありがとうございました。
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